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諦めなかった悪役令嬢

作者: 下菊みこと

諦めなかった悪役令嬢

私、みんなの幸せだけは諦めませんの。


初めまして、ご機嫌よう。私、エレーヌ・アルマニャックと申します。公爵位序列一位の公爵令嬢です。突然ですが、私、悪役令嬢なようなのです。


順を追って説明しますと、まず、私は所謂異世界転生というものをしたようなのです。前世でボランティア活動などの良い行いをしてきた結果、好きな世界に転生する権利を得られたのです。そしてこの世界で目が覚めました。大好きな乙女ゲームの世界。しかし、私はヒロインではなく悪役令嬢に転生していたのです。


でも、私幸せですの。だって、ずっと大好きだった攻略対象者五人、王太子カジミール・フィリップ、騎士爵序列一位の騎士団長令息エロワ・ヴェルジー、魔術爵序列一位魔術師団長令息ダヴィド・エヴルー、公爵位序列二位の公爵令息フェリクス・オルレアン、平民であり暗殺者グレゴリー・クシー達と同じ世界にいるんですもの!私、攻略対象者は箱推しでしてよ!しかも、カジミール王太子殿下とは生まれついての婚約者!例え、いつかヒロインさんが現れて捨てられるとしても、それでも私幸せですの!


だから、私考えましたの。


ーせめて攻略対象者達には、何の不幸も背追い込まず幸せに生きてもらおうと!


この乙女ゲームの世界では攻略対象者達は幼い頃に不幸があり、何かしらのトラウマを抱えるのです。でも、私がそのフラグを折って差し上げますわ!もちろんそれ以上のわがままは申しませんわ。自分が悪役令嬢になりざまぁされることは諦めますわ。まあ、何も悪いことをしなければ悪役令嬢ルートから外れられる可能性もありますが、ゲームの強制力が働くかも知れませんし。可愛がってくれる両親や使用人達に迷惑をかけるのは申し訳ないのですけれどね。でも幸いにして弟、シャルルがいるので公爵家の跡継ぎは心配いりません。もし私がカジミール王太子殿下に断罪された後修道院に入っても問題ありませんわ。


ということで早速、五歳の頃から「攻略対象者を救うぞ計画」を始めましたわ。まずはグレゴリーから。グレゴリーは裕福な貴族のご令息だったのですが、不幸な事故で両親を亡くします。残念ですが、事故の詳細は語られていなかったのでこれは避けられませんわ。ですが本当の不幸はここから。莫大な遺産を幼くして受け継いだグレゴリーは、周りの大人達に騙されてお金や爵位を毟り取られ、孤児院に叩き込まれます。その孤児院もまた腐敗していて、奴隷商と闇取引が行われていましたの。奴隷として売られたグレゴリーは、暗殺者として育てられます。そしてカジミール王太子殿下の不幸に繋がるのです。


ということで早速、お父様とお母様に必殺!おねだり攻撃ですわ。普段わがままを言わない私からの、「幼くして不幸を背負ったグレゴリー様の後ろ盾になって差し上げてくださいませ」という健気なお願い、それも上目遣いで頬を染め涙目でのお願いにお父様もお母様も即ノックアウトですわ。グレゴリー…いえ、伯爵位序列一位グレゴリー様はこうして頼りになる大人を手に入れ、悪い大人に騙されることなく健やかに成長できるようになりましたわ。もちろん孤児院の方も助けに行きましたわ。「慰問に行きたい」「サプライズで行きたい」と駄々を捏ね、グレゴリー様が売られるはずだった日に、奴隷商の闇取引が行われていたところに護衛や使用人を連れて突っ込みましたの。結果、孤児院の腐敗は明るみに出て、新しい清廉な院長が選ばれ、過去被害にあった子供達も連れ戻され、みんな幸せに暮らしていますわ。そして今日、グレゴリー様の生活も落ち着いてきたということで、グレゴリー様と初めてお会いできますの。


「はじめまして、グレゴリー・クシーです」


「はじめまして、ご機嫌よう。エレーヌ・アルマニャックですわ」


「お話は伺っています。貴女が私に手を差し伸べてくださらなかったら私は今頃どうなっていたか…本当にありがとうございます」


目に涙を溜め、それでも決して涙は溢さずそう言うグレゴリー様。一人称、俺から私に変わってる…これはこれで、いい!


「うふふ。私はただ両親におねだりしただけですわ」


「もちろんご両親にも感謝しております。ですが、貴女の口添えがなければ今の私はいない。…本当にありがとう。もしよろしければ、私のことはぜひグレッグとお呼び下さい」


「わかりましたわ。グレッグ様も、私のことはぜひレニとお呼びください」


「ええ、これからもよろしくお願いします。レニ」


こうしてグレッグ様は救われましたわ。


ー…


あれから一年、私も六歳ですわ。次はカジミール王太子殿下をお守りします。カジミール王太子殿下の母親は国王陛下の側室であるリナ側妃殿下ですわ。正妃ファネットゥ王妃陛下には残念ながらお子が産まれませんでしたの。だからリナ側妃殿下の第一王子、カジミール王太子殿下が王太子に選ばれましたの。ですが、どうしてもお子が欲しかったファネットゥ王妃陛下はリナ側妃殿下に嫉妬し、心を病んでしまわれます。そして、王家のお茶会の席でリナ側妃殿下を暗殺してしまいます。この時給仕に扮してリナ側妃殿下を暗殺するのがグレッグ様のはずでした。そして母を殺され、その死因を「病死」と偽られたカジミール王太子殿下は、それまでお優しい方だったのが嘘のように人間不信になり、人を…特に王族やそれに連なる者を毛嫌いするようになるのです。そして、復讐に身を焦がします。


グレッグ様は暗殺者になっていないので未来は変わるかもしれませんが、油断は出来ません。王家のお茶会の席にはカジミール王太子殿下の婚約者であり、「こんな娘が欲しかった」と言ってくださるファネットゥ王妃陛下のお気に入りである私も参加します。そこで、私はわがままを装ってリナ側妃殿下のお茶と私のお茶を交換してもらいました。本当なら有り得ないことですが、私が子供ということ、ファネットゥ王妃陛下のお気に入りということで許していただけました。するとファネットゥ王妃陛下は取り乱し、とうとう私に「それに口をつけてはならぬ」と言い、暗殺計画を自白されました。…暗殺計画を聞いた国王陛下は即座に箝口令を敷き、お茶会は解散となりました。その後ファネットゥ王妃殿下は「病死」されました。そして、繰り上げでリナ様が王妃になられました。そして今日、リナ王妃陛下とカジミール王太子殿下にお茶会に招待されました。


「お招きいただきありがとうございます。リナ王妃陛下、カジミール王太子殿下」


「あらあら、うふふ。そんなに畏まらなくていいのよ。それよりも、あの時は助けてくれてありがとう」


「あれは偶然で、私はわがままを言っただけですから」


「何を言う。僕は君…レニがそんなわがままを言う子じゃないことくらいわかっている。母を守ってくれたんだろう?ありがとう、レニ」


は、初めて愛称で呼ばれた…!というか乙女ゲームでは愛称で呼ぶシーンなんてなかったのに!嬉しい!


「こちらこそ、守らせてくださってありがとうございます、リナ王妃陛下、カジミール王太子殿下」


「…それだけれど、面倒だからミルでいいよ。敬称も要らないから」


「では…ミル様?」


小首を傾げそう聞くと、ミル様のお顔が真っ赤になりました。ミル様の初心な反応…!可愛い…!


「あらあら、これなら将来も安心ね」


「は、母上、からかわないでください…!」


こうしてミル様は救われましたわ。


ー…


あれからまた一年、私も七歳ですわ。次はフェリクス公爵令息をお守りします。フェリクス様の家は公爵位序列二位だけあって敵も多いのです。ある日とある侯爵に不正の冤罪をかけられますが、実際にはその侯爵こそ不正を行っていたのです。そして乙女ゲームでは、爵位こそ失わずに済んだものの、父の汚名を晴らすことが出来ず、非常に大人しく自信のない公爵令息に育ちます。


ということで早速、お父様とお母様に必殺!おねだり攻撃ですわ。普段わがままを言わない私からの、「不正の冤罪をかけられてしまったフェリクス様のお父様を助けて差し上げてくださいませ」という健気なお願い、それも上目遣いで頬を染め涙目でのお願いにお父様もお母様も即ノックアウトですわ。お父様とお母様が必死になって冤罪である証拠、その不正が侯爵のものである証拠を揃えてくれたおかげで、フェリクス様はお父様の冤罪を晴らすことが出来て、健やかに成長できるようになりました。そして今日、フェリクス様の生活も落ち着いてきたということで、フェリクス様と初めてお会いできますの。


「はじめまして、フェリクス・オルレアンです」


「はじめまして、ご機嫌よう。エレーヌ・アルマニャックですわ」


「お話は伺っています。貴女が父に手を差し伸べてくださらなかったら俺は今頃どうなっていたか…本当にありがとうございます」


自信に満ち溢れた表情。そして一人称、僕から俺に変わってる…いい!すごくいい!


「うふふ。私はただ両親におねだりしただけですわ」


「もちろんご両親にも感謝しております。ですが、貴女の口添えがなければ今のオルレアン公爵家はない。…本当にありがとう。もしよろしければ、俺のことはぜひフェリスとお呼び下さい」


「わかりましたわ。フェリス様も、私のことはぜひレニとお呼びください」


「ええ、これからもよろしくお願いします。レニ」


こうしてフェリス様は救われましたわ。


ー…


あれからまた一年、私も八歳ですわ。次は騎士爵序列一位の騎士団長令息エロワ様をお守りします。エロワ様はあまりにも順当で平坦な人生を送って参りました。騎士団長令息として強くあれ、という言葉を胸に、強く気高く美しく、その生き様はまさに騎士団長令息として相応しいもの。でも、そのせいで今の生活に飽きてしまわれ、騎士団長令息としてこのまま騎士になってもいいものかと思い悩まれてしまうのです。真面目な方だからこそ、それを誰にも相談出来ずに塞ぎ込んでしまわれるのです。


ということで早速、お父様とお母様に必殺!おねだり攻撃ですわ。普段わがままを言わない私からの、「最近元気がないらしい、エロワ様を助けて差し上げてくださいませ」という健気なお願い、それも上目遣いで頬を染め涙目でのお願いにお父様もお母様も即ノックアウトですわ。ミル様とグレッグ様とフェリス様も巻き込んで、みんなで騎士団長のお屋敷にお邪魔しましたの。それはもう、出来るだけ毎日、時間の許す限り。そこで、一緒にお喋りをしたり、チャンバラごっこをしたりして剣技を極める楽しさを思い出していただきましたわ。そのおかげで、エロワ様はお元気になり、健やかに成長できるようになりました。そして今日、エロワ様の体調も落ち着いてきたということで、エロワ様にお茶会に誘われましたの。もちろんミル様とグレッグ様とフェリス様も一緒に。


「みんな、俺にここまで付き合ってくれてありがとう。おかげで心身ともに元気になれた」


自信に満ち溢れた表情。そして鍛え上げられた美しい肉体美。すごくいいですわ!


「お友達ですもの、当然ですわ」


「水臭いな、そんなこと気にしないでくれ」


「僕も役に立てたならよかったよ」


「まあ、俺が手を貸したんだから当然だな」


「…本当にありがとう。俺はこんな良い友人を持てて幸せだ。もしよければ、俺のことはぜひロワと呼んでくれ」


「わかりましたわ。ロワ様も、私のことはぜひレニとお呼びください」


「ああ、これからもよろしく。レニ、ミル殿下、グレッグ、フェリス」


こうしてロワ様は救われましたわ。


ー…


あれからまた一年、私も九歳ですわ。次は魔術爵序列一位魔術師団長令息ダヴィド様をお守りします。ダヴィド様は、今年に入ってから急に覚醒され、あまりにも強力な魔力をお持ちでした。だからこそ、それを制御しきれず、時折暴発させていました。そして、そのせいでご両親から煙たがられ、どうしたらいいのかと悩まれてしまうのです。周りに頼れる大人もおらず、それを誰にも相談出来ずに塞ぎ込んでしまわれるのです。


ということで早速、お父様とお母様に必殺!おねだり攻撃ですわ。年に一度くらいしかわがままを言わない私からの、「最近元気がないらしい、ダヴィド様を助けて差し上げてくださいませ」という健気なお願い、それも上目遣いで頬を染め涙目でのお願いにお父様もお母様も即ノックアウトですわ。ミル様とグレッグ様とフェリス様とロワ様も巻き込んで、みんなで魔術師団長のお屋敷にお邪魔しましたの。それはもう、出来るだけ毎日、時間の許す限り。そこで、一緒にお喋りをしたり、魔力の暴発を抑える魔導具の開発をしたりして希望を持っていただきましたわ。そして魔導具はついに完成し、そのおかげで、ダヴィド様はお元気になり、健やかに成長できるようになりました。そして今日、無事魔術師団長令息として認められたダヴィド様の生活も落ち着いてきたということで、ダヴィド様にお茶会に誘われましたの。もちろんミル様とグレッグ様とフェリス様もロワ様も一緒に。


「みんな、僕にここまで付き合ってくれてありがとう。おかげで魔力の暴発はもう起こらないだろう。本当に感謝してる」


自信に満ち溢れた表情。溢れる魔力。素敵ですわ!


「お友達ですもの、当然ですわ」


「私達もレニに救われた仲間だ。そんなこと気にしないでくれ」


「僕も役に立てて光栄だよ」


「まあ、俺でよければいつでも相談に乗る」


「俺は剣技しか能がないが、それでもよければ頼ってくれ」


「…本当にありがとう。僕はこんな良い友人を持てて幸せだ。もしよければ、僕のことはぜひヴィーと呼んでくれ」


「わかりましたわ。ヴィー様も、私のことはぜひレニとお呼びください」


「ああ、これからもよろしく。レニ、ミル殿下、グレッグ、フェリス、ロワ」


こうしてヴィー様は救われましたわ。


ー…


あれからまた一年、私も十歳ですわ。次はこの国の国民の皆様を助けますわ。今年は飢饉が起きる年。この五年、コツコツと貯めたお小遣いを全て隣国から作物を買うために使いますわ。ミル様、グレッグ様、フェリス様、ロワ様、ヴィー様も巻き込んで大量に隣国から作物を買って、民衆にばら撒き、どうにか飢饉を回避しましたわ。


そして、今回の件と今までの経歴から私、未来予知の聖女として祭り上げられましたの。ですが、私はどうせ本物の聖女であるヒロインさんが登場したら無慈悲に捨てられるのです。正直虚しいですわ。ですが、私、達観したような雰囲気と諦めたような瞳をしていたようで、私がいないところでミル様、グレッグ様、フェリス様、ロワ様、ヴィー様がこんな話をしていましたの。


何があってもレニを守ろうと。


今だけだとしても、その気持ちが嬉しいですわ。とはいえ、お手洗いから帰ってきた際に偶々聞いてしまったとはいえ、盗み聞きをしてしまったようで申し訳ないですわ。


ー…


あれから五年、私も十五歳ですわ。いよいよ物語の舞台である学園生活がスタート致しました。当然ヒロインさん…レティシア・トゥールーズ男爵令嬢も入学してきましたわ。しかし彼女も転生者であったのか、しばらく攻略対象者の皆様にアタックした後、「自分の知っているストーリーと違う!あの悪役令嬢のせいで!」と発狂されました。そしてその日の放課後、私を学園の屋上に呼び出し、私に襲いかかってきました。しかしそこで私とレティシア様の様子がおかしいと思いこっそり付いて来ていたロワ様がレティシア様を抑え込み助けてくださいました。そこで同じく付いて来ていたヴィー様が魔法でレティシア様を拘束し、それでも諦めずに魔法を使うレティシア様に、グレッグ様が私の盾になってくださいました。フェリス様がグレッグ様の傷を癒し、ミル様がレティシア様を断罪され、レティシア様はミル様の近衛騎士に連れられ王城の牢屋行き。王太子の婚約者を害したとして、両親とともに毒杯を啜ることが決定しました。ここでようやくあれ?もしかして私、悪役令嬢ルート回避した?と気づきました。


そうして今度は、ミル様、グレッグ様、フェリス様、ロワ様、ヴィー様に愛の告白をされ、めくりめく恋の世界に身を投じることになりました。

たまには悪役令嬢の逆ハーレムもありですよね

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