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 色々思い返してみても、やはり出るのは溜息だ。

 僕は巨大樹の天辺、恐らくは竜の巣と思われる広い幹の上で、取り敢えず家主の帰りを待つ為に、座禅を組んで瞑想を行う。

 先程上空で風の仙術を使った際、ほんの少しだが僕の想定よりも威力が強かった。

 それはこの世界に満ちる力の強さが故だろう。

 勿論それ自体は良い事なのだが、けれども感覚のズレは問題なのだ。


 過ぎたるは猶及ばざるが如し。

 強ければ良いと言う物ではない。

 力は、思った通りの形、強さ、タイミングで自在に扱えるからこそ意味がある。

 だからこの異世界の気を取り込んで、この世界にとっての異物でなくなる所から始めよう。



 五悪仙の弟子が競うのは、誰が一番面白い事を成したかだ。

 僕等弟子達の異世界での行動は、ある程度の期間ごとに五悪仙の評価を受ける。

 具体的に何時評価を受け、それが何度行われるのかは聞いていないが、何せ邪仙ではあっても仙人のやる事だ。

 どうせ気の長い話だろうから、異世界には長期の滞在になるだろう。


 出来れば一番を取りたいが、何をすべきかの基準は実に曖昧だ。

 師匠である瑛花仙は、……僕の行いなら何でも高得点を付けそうなので、考えるのはやめよう。

 五悪仙筆頭である孔狼仙は、気質的に考えて群れ、仲間を守る行為を評価してくれそうだけれど、仲間かぁ。

 保留だ。

 まずこの世界の事を知る必要があるし、仲間の存在に縛られて動きが鈍る可能性だってある。

 逆に完全に一ヵ所に留まり過ごすなら、村、町、国等の共同体を起こすのも、孔狼仙には好みの筈。

 

 双覇仙は、兎に角強い相手と戦えば評価してくれるのは間違いがなかった。

 多分先程の竜との戦いも、双覇仙なら評価対象にしてくれるだろう。

 逆に緑青仙からして見れば、先程の戦いの評価は低い。

 何故ならドラゴンを殺さなかったからだ。

 竜を殺した末の存在、ドラゴンゾンビなんかを見付ければ高評価を得られるのだろうが、僕の好みとは遠く離れている。


 最後に凜香仙だが、彼女が僕を高評価する事はあまりなさそうだが、それでも好みはまぁわかり易い。

 意思持つ器物、インテリジェンスソードの様な物が見つかれば、凜香仙の好みには合致する筈。


 何にせよ、一番忘れてならないのはこれが修行である事。

 二番目は、折角の異世界なのだから、楽しみ、己の思うがままに動く事。

 三番目は、他の五悪仙の弟子達が、一番を取る為に他の妨害に出る可能性だってある事。


 勿論最後の三番目に関しては、僕だって同様だ。 

 他人のやりようが気に食わなければ、邪魔する事だってあるだろう。

 何せ僕等は邪仙である。

 仲良し小好しはしても良いが、しなくても良い。

 己を縛るは己の心のみなのだ。




 日が落ち、月が昇る。

 異世界も太陽は一つだったが、何と月は三つある。

 赤い月、青い月、白い月。


 強い風が舞い起こり、ずしんと、この場所、竜の住処の家主が降り立った。

 目を開けば、ドラゴンがこちらに強い警戒の視線を向けている。

 どうやら僕を測りかねて居る様だが、少なくとも即座に攻撃する心算はない様子。

 だったらまぁ、良いだろう。

 僕は目を閉じ、瞑想を続ける。

 まだもう少し、僕がこの世界にとっての異物でなくなるには、時間が必要だ。 


 一応言い訳しておくと、僕は別に目の前のドラゴンを侮ってる訳じゃない。

 多分ドラゴンは、どの程度かはわからないけれども、この世界でも強者の側だろう。

 でも既に一度対処したし、もう一度対処する自信もある。

 何故ならこのドラゴンは、真っ当に戦うのであれば、僕にとって相性の良い相手だった。


 僕の仙人としての全ての力を十とすると、武術が二、気功や縮地等の武に用いれる術を足せば五。

 師である瑛花仙が最も得意とする五行術に三、仙人の術の中で最も危険な禁術に一、その他に一と言った具合の割り振りだろう。

 つまり僕は、正面からの戦いが得意な仙人で、搦め手は苦手としていた。

 因みに禁術は、西洋魔術の様に危険過ぎて禁止された術ではなく、何かを禁ずる術である。

 例えば鳥に飛ぶ事を禁じたり、包丁に切る事を禁じたり、誰かに呼吸を禁じたり、存在その物を禁じたりする術だ。

 効果の大きい術だけに、当然術の代償も大きく、僕は自分で使う為と言うよりも、寧ろ禁術に対抗する為に禁術を師匠から教えられている。


 ……と、まぁそう言う訳で、ドラゴンが強いのは確かだけれど、それでも僕にとっては未知の脅威よりは安心だった。

 この異世界では何があるのかわからないから、出来れば未知には万全を持って挑みたい。

 故に僕は、ドラゴンの縄張りで体勢を整える事を選ぶ。

 勿論竜の側にも、もう強い敵意はなさそうだから、多分大丈夫だろうと思ったのもあるけれども。




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