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 戦いは、サンダーバードの一撃から始まった。

 翼を広げたサンダーバードが甲高い声で鳴いた途端、空から雨の様な落雷が降り注ぐ。

 それを受けたのは迎撃に出て来た異名持ちの魔族『空怪蛇』。

 空怪蛇は魔族の輸送船であると同時に、地上に対しての爆撃機だ。

 仮に空怪蛇の攻撃を許していれば、船の上に魔族が降り注ぎ、その衝撃で多くの船が沈められただろう。

 

 けれどもサンダーバードの一撃には巨大な空怪蛇ですら耐え切れずに、空飛ぶ力を失って海へと着水する。

 そしてそこに群がる様に、軍船が攻撃を加え始めた。

 しかしサンダーバードの活躍はそれだけに留まらない。

 空怪蛇を救うべく、或いは単に現れた多くの餌を喰らうべく、小島と見紛うクジラ擬き、『暴食王』が姿を見せたのだ。

 軍船を喰らわんと大口を開けて迫る暴食王に、再びサンダーバードが落雷の雨を放つ。


 だが宙に浮いていた空怪蛇と違い、海を行く暴食王は少し潜れば落雷を回避出来てしまう。

 悠々と一度海に潜り、落雷を落とせば軍船が巻き込まれてしまう距離に近付いてから浮上して来る暴食王。

 でもそれはサンダーバードに誘導された行動だった。

 大慌てで回避行動をとる軍船の真横で、急降下したサンダーバードの爪が浮上してきた暴食王の身体を捉える。

 サンダーバードは急降下攻撃を隠す為、敢えて一度暴食王を海に潜らせたのだ。


 食い込んだ爪から逃れようと、海に潜らんとする暴食王と、それをさせまいと羽ばたくサンダーバード。

 戦いに巻き込まれそうだった軍船数隻が大急ぎで離れると、その一体と一羽が戦う海域に、無数の落雷が降り注ぎ始めた。



 軍船は、僕等を背に乗せたエルドラも先へと進む。

 異名持ちの魔族はサンダーバードが引き付けてくれたが、次に出て来たのは名無しの魔族、下位、中位、上位の兵級の群れだ。

 否、動きが統率されてるから、将級魔族も出て来てはいるのだろう。

 あまりに敵の数が多くて、一々見分けてはいられないが。


 けれども、そう、兵級の群れや、或いは将級も、南方の人々にとっては長きに渡って戦い続けて来た相手だ。

 恐れる事はなく、被害を出しながらも的確に対処を行って行く。

 あぁ、ほら、あそこで起きた爆発は、きっとジギィの投げ槍だろう。

 前に僕と幸歌仙が大量の鳥型モンスター、ドルクを狩って帰った時、彼はこれで投げ槍のストックが出来ると大喜びしてたから、今回はそれを使ってるだろうか?



 魔族の防衛戦を突破した一部の軍船と、エルドラに乗る僕等は島へと辿り着く。

 あぁ、なんてわかり易いんだろう。

 島の中央にある、大きな城なんて、ゲームだったら絶対にボスが居る。

 迎撃に出て来る陸戦型魔族達と、軍船を下りた南方人が交戦を開始した。

 でも僕等はそのまま、エルドラと共に城に突撃だ。


 ここから先の割り当ても、既に決めてある。

 白黒仙と死の王は『魔将軍』及び城の防衛戦力の相手を。

 ……最初は僵尸を連れて来てないから少し不安になったけれど、死の王がアンデッドの召喚で呼びよせられるらしい。

 幸歌仙は人が未確認の異名持ち、特殊個体が居た場合の対応と、余裕があれば全体のフォロー。

 エルドラは以前に決着を付け損ねた、『魔導士』の相手を担う。


 城の、いやもう恥ずかしがらずに言ってしまおう、魔王城の上空で、飛来した巨大な炎塊をエルドラのブレスが迎撃し、大爆発が起きる。

 その爆発に紛れて、僕等はバラバラにエルドラの背を飛び降りた。

 僕が狙うのは、魔王の首、唯一つ。




 軽身功と風を起こす仙術を駆使して着地したのは、魔王城で最も高い部屋のバルコニー。

 そこから入れる部屋の中で、この城の中で最も強い気配を放つ、そう、南の魔王は僕を待ってた。


 死の王に召喚された飛僵の群れが、城の防衛戦力を相手に戦いを始めてる。

 魔王城の防衛戦力は、魔族の中でも精鋭と言って良い強者だが、僵尸の弱点の大半が解消された上に、飛行の神通力まで得た飛僵もそれに決して引けは取らない。

 強い力のぶつかり合いが、そこら中で起きていた。

 あぁ、先程からどっかんどっかん五月蠅いのは、エルドラと魔導士がブレスや炎をぶつけ合ってるからだろう。


 僕を待ち受けていた魔王は、その物音に軽く顔を顰め、

「ようこそ異邦の者よ。我は君を歓迎する。だが騒がしくてすまないね。防音にはそれなりに気を遣った心算だが、流石に竜に暴れられては音も響く」

 少しだけ煩わし気にそう言った。

 あぁ、エルドラも魔王を嫌っていたが、魔王の側でもエルドラの事を、或いは守護獣、世界樹に由来する存在が嫌いの様だ。


 僕は首を横に振り、

「立派な城だと思うよ。如何にも魔王の城って趣きがあるし。騒音も、仲良くお話する訳じゃないから、そこまで気にならないかな」

 自分の立場が魔王の敵だと、改めて明言する。

 魔王は肌の色や大きな角こそ異形だが、それ以外は僕から見ても美しい青年の姿だった。

 ならば感性も、決定的に相容れない程の違いは、多分ない。


 別に容姿で他者を差別、区別する心算はないが、近しい姿の者にはそれなりの共通点が生まれる。

 例えば、裸を厭い衣類を身に纏う。

 例えば、飲食には手を使う。

 例えば、己の足で地を踏み締めて歩く。

 そう言った共通点が感性にも影響を与えるのだ。


 仮に敵味方をはっきりせずに話し続ければ、もしかすれば僕は魔王に対して好意的になってしまうかも知れない。

 勿論逆に、話せば話す程に気に食わない奴だと感じる可能性だって大いにある。

 だがどちらにせよ自分の立場を明確にすれば、それに拠って相手から受ける影響は比較的軽微になるだろう。

「そうかい。実に惜しいね。異邦の者であれば寧ろ我等と立場は近いだろうに。……あぁ、成る程、君は強者故に大陸の中でも世界樹の影響を弾けるのか。羨ましい話だ」

 残念そうに、でも何かに納得する魔王。

 言葉の意味を素直に受け取るなら、彼等は世界樹の影響とやらを恐れて安易に大陸に攻め込まないし、けれどもそれ故に世界樹を刈ろうとしているらしい。


 何となくだが、彼の言う事は理解出来る気がした。

 別に実際に僕が影響を受けた訳ではないけれど、そう、例えばモンスターの存在だ。

 世界樹の発する生命力が、淀んで生まれるモンスター。

 あんな物を生むだけの強い生命力を、この世界の外から来た世界樹に由来しない生命、全く抵抗力のない存在が受けたなら、或いはモンスター以上に大きく歪む事は充分にあり得るだろう。


 強い生命力と言うのは、聞こえは随分と良いけれども、決してプラスにだけ働くとは限らない。

 重要なのはバランスだ。

 昼と夜があるように、活動と休息がある。

 無限の体力があるとして、無限に動き続けたなら、恐らく然程と経たずに精神が狂うだろう。

 強い薬が病を打倒しても、更に厄介な副作用を招く事があるように、強過ぎる活力が身体や精神を蝕む事もまたあり得た。

 まぁ仙人である僕の器は並外れて大きいから、世界樹からの強い気を取り込んだ所で練って我が物と出来るけれど、あぁ、うん、魔族にはそれが出来なかったのだろう。


「そう、それは、……運がなかったね。僕にとってこの世界は色々とあって楽しい所だけれど、まぁ、僕は運が良い方だから」

 何とも返しようがなく、我ながら曖昧な返事をしながら、僕は構えを取る。

 魔族の不運、世界樹を刈らねばならない理由は理解が出来たが、でもそれは即ち世界樹を刈って『良い』理由ではなかった。

 世界樹に由来する、世界樹がなければ生きていけない生命からしたら、それこそ魔族側の事情なんて知った事ではないのだ。

 であるならば強い側が我を通そうとして戦うしかない。

 そして強い側が我を通そうとするなら、全くの部外者である僕だって、好き勝手に助力するって我を通す。

 話は至極単純で、それだけの事である。



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