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鱗と竜語の組み合わせで連絡を取った所、勝算が高いと証明出来れば、エルドラ以外にも一体なら守護獣は出張れるそうだ。
流石にそれ以上を南の魔王に差し向けてると、北の魔王が大樹海に攻めてきた場合に抗えなくなる。
双覇仙の弟子がサックリと北の魔王を殺してくれれば、四体の守護獣が全て動ける様になるのだが、まあそう簡単に行く筈もない。
南の魔王の配下が厄介な様に、北の魔王にだって厄介な配下が揃ってるだろう。
幾ら双覇仙の一門が戦闘に長けてるとは言え、そう簡単に魔王の首に届くとは思えなかった。
その他に動かせる戦力のアテとしては、サルドリア・ベルーシャ及びサーニャ・ベルーシャに接触して神聖騎士を動かすか、或いは白黒仙及び死の王、ラーデント・バルネットに接触して力を借りるかだ。
具体的には神聖騎士か、白黒仙の僵尸である元神聖騎士、カイロードのどちらを、『魔将軍』にぶつけるかって話になる。
両方同時に力を借りるのは無理だろう。
どちらを選んでも長短はある。
神聖騎士の力を借りれば、人の軍も動かし易い。
何せ神聖騎士のネームバリュー、信用はこの世界では非常に大きい。
尤も世界樹の守護獣が動いてくれるのだから、それだけで充分過ぎる可能性もある。
まぁ後は、やはり彼等の世界なのだから、彼等の戦力に出来る限り出て来て欲しいって気持ちもあった。
但し神聖騎士を動かすと、魔王討伐後に消耗した僕の命を狙ってくる可能性が少し……、否、結構ありそうな気もする。
一方白黒仙や死の王の力を借りるには、何らかの対価が必要だ。
死の王自体は魔王討伐に何らかの拘りがあるみたいだから、もしかすると容易く協力してくれるかもしれないが、白黒仙は自分の作品が破損する可能性を嫌うだろう。
もし協力を要請するなら、先に死の王に話を通し、共に白黒仙を説得して貰うのが早いだろうか。
交渉材料としては、魔王及び異名持ち魔族の骸が、戦闘終了後も残っていたらそれを譲渡する辺りで。
普通に考えたら絶対に渡しちゃいけない相手だろうけれど、背に腹は代えられないと言うか、僕の目的は魔王を倒す事で、倒した後の事は別に知らない。
白黒仙も死の王も、もう僕の意向を無視する様な使い方はしないだろうから、そんなに心配も要らない筈だ。
けれども一応、彼等は大きな事件を起こした首謀者で、協力をして貰うにしても出来る限りその存在は秘さねばならない。
故に彼等の協力を得るならば、同時にそれを隠蔽できる人物、つまり幸歌仙の協力も必須となる。
「あら、別に良いわ。クヨウアキラが魔王を倒すのを黙って見てても、私の得にはならないでしょう? でも共に倒せばそれは評価の対象よ。対等な協力関係なのだから、功績は山分けで良いわ」
そして鍵となる幸歌仙自身はこんな風にあっさりと協力を了承してくれた。
だとすれば無理に神聖騎士を頼らずとも、白黒仙と死の王の協力を前提に事を考えられる。
正直本当に有り難い。
最初の戦いで彼女に降伏条件を飲ませた時は、ここまで頼る事になるとは欠片も思ってなかったから。
「でも準備はもう少しゆっくりしなさい。瑛花様にもゆっくり楽しめと言われてるのでしょう? 今、丁度冒険が楽しいの。急がなければ時間が余るのなら、私が星四ランクになるのを手伝いなさい。人の決めた階級なんて下らないけれど、クヨウアキラに負けてるのは気に食わないのよ」
僕は幸歌仙の言葉に、笑いながら一つ頷く。
幸歌仙が協力してくれるなら、世界樹の守護獣が動く効果も相俟って、国も、冒険者も、戦力に加えるのは容易い事だ。
ならば彼女の言う通り、慌てる必要は特にない。
地道に依頼をこなすのも、信頼を積み、情報を得て、実際に動く時の一助となるだろう。
「お~、お仕事して下さるんですね。はい、コウカさんとご一緒にですか? えっと、コウカさんは現状星二ランクに上がったばかりですが、あぁ、でも実力に関しては問題なしの評価ですね。実績を積めば星三ランクも遠くないでしょうし」
と言う訳で冒険者として依頼を受ける。
幸歌仙も一緒にと聞き、一瞬思案顔をしたララーセだったが、手元の資料を参照した後は笑顔になって高難易度の依頼を勧めて来た。
本当に仕事熱心な職員だ。
さて高難易度の依頼とは、基本的に星三ランク以上の冒険者が受けれる依頼の事を言う。
ただ今回の様にチームを組んでなら、チーム内の誰かがランク条件を満たし、尚且つギルド職員が問題ないと判断すれば受注は可能だし、無事に達成すれば大きな依頼実績として扱われる。
けれども本来なら自分のランクよりも高い難易度の依頼達成は、当たり前の話だがそう容易い事ではない。
例えチームを組んでいても、上位ランク者に頼りっぱなしになるだろうと判断されれば、ギルド職員は決して受注許可を出さないそうだ。
要するに今はランクが低くても、幸歌仙の活躍は確実にギルド内で評価を受けているって話である。
まぁそんな事を彼女に言っても、
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの。馬鹿な事を言ってないで早く行くわよ」
……と、呆れた様に返されるだけだけれども。




