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「お~、西方の、獣人の国から来た星四ランクですか。良いですね。このザラックには暫くご滞在為されます?」

 そう問うたのは、バクダール海王国が領有する港町の一つ、ザラックの冒険者ギルドの受付だ。

 彼女の言葉に、僕は頷く。


 僕と幸歌仙が南方へとやって来たのは、魔族及び魔王の情報を集める為だった。

 南の島への移動自体は、エルダーグリーンドラゴン、エルドラの背に乗って行く心算だから一々船を探す必要はない。

 水上歩行を使ってこっそりと侵入する事も可能だが、折角のファンタジー世界なのだから、決着は派手な方が僕の好みである。

 だが派手な決着を付ける為には、敵を知って勝利する為の準備が必要だ。

 派手に突撃しましたが、戦いには敗北しました……、では台無し過ぎるだろう。


 故に魔族や魔王の事をこの地で知りたい。

 何せ今僕が知ってるのは、魔王が海をも沸騰させる炎の使い手って事位である。

 それが単なる比喩表現なのか、或いは実際に海底火山でも噴火させてそんな風に見せたのか、放った炎が海にぶつかって一部が煮え立って見えたのか、場合によって大分と違う。

 もし仮に南の島で海に手を入れ、大陸南方の沿岸まで海が湧き立つ程の熱量を注ぎ込んだと言うのなら手の施しようがない化け物だが、その場合はまだローレンス大陸が滅びてないのがおかしいって話だ。

 エルドラや他の世界樹の守護獣、その他の戦力を警戒して上陸せず、部下の魔族が長々とした戦いを繰り返す必要なんて少しもない。 


 それに魔王がどうやっても僕等の手に負えない化け物だったら、そもそも師匠達、五悪仙は守護獣との約定を結ばなかっただろう。

 五悪仙にとって他人の命は軽い物だが、弟子は大事にしてくれるし、修行は厳しくもあるが不可能を可能にしろとも言わない。

 積み重ねた力、溜め込んで練った丹が足りなければ、評価付けで弟子同士を競わせずに、時間をかけてそれを成せと位は言ってくれる。

 だからまぁ、魔王の討伐は難事であっても僕に能う筈だった。



「ふふふ、高位冒険者がふらっと立ち寄って暫く滞在してくれるなんて、私の日頃の行いが良いからですね。一杯依頼を紹介しますから、沢山活躍して下さいな」

 嬉しそうに笑う冒険者ギルドの受付の娘。

 ともすれば失礼になりかねない言葉を吐いてはいるが、彼女が浮かべた笑みは作り物でなく、本心から僕の来訪を幸運だと喜んでいる事が伝わって来た。

 褐色の肌は快活な印象を与え、浮かべた笑みは愛嬌に溢れてる。

 恐らくこの冒険者ギルドでも彼女は人気者なのだろう。

「ララーセです。宜しくお願いしますね、えっと、クヨウさん」

 名乗ったララーセと握手を交わせば、軽い嫉妬の混じった、羨ましそうな視線が飛んで来た。


 星四ランクの認定は、イル・ファーン国の様な中規模の国なら最も大きな都市の冒険者ギルドに近隣都市のギルドマスターも呼び、審議の上で昇格する。

 星五ランクの認定は、複数の国から代表となったギルドマスターが集まり、審議が行われるそうだ。

 でもヒルブルクの様に巨大国家なら、星五ランクの認定も国内だけで行えると言う。

 なので中規模の国には星五ランクの冒険者なんて居ないのが当たり前で、ヒルブルクには数人居たらしい。

 僕はあまり関わらなかったが、大量にアンデッドを始末してくれてると言う報告は、提出された書類で確か見た。


 バクダール海王国はヒルブルク程に豊かではないが軍事力は上回る大きな国で、国内で星五ランクの認定を行えるし、星四ランクの認定もわざわざ首都に出向く必要はないそうだ。

 要するにバクダール海王国の中でもそれなりに大きな港町であるザラックの冒険者ギルドなら、星四ランクの冒険者位は然して珍しい物ではないとの事。

 今日来たばかりの僕を除いても、四人の星四ランク冒険者が居ると言う。



「へぇ、兄ちゃんみたいな若さでもう星四かい。いいねぇ、才能に溢れる若者だね。今日はおっさんに楽をさせておくれよ」

 だからこんな風に突然起きた緊急依頼で、他の星四ランク冒険者と組むのは、それ程珍しい事じゃないらしい。

 そう、緊急依頼だったのだ。


 冒険者ギルドへの挨拶を終えた僕が、幸歌仙の確保してる宿に帰ろうとギルドの扉を出る直前、町に鐘の音が鳴り響いた。

 大慌てで僕を呼び止めたララーセ曰く、あの鐘の音は魔族の襲来を知らせる物。

 軍からも迎撃が出るが、冒険者ギルドからも迎撃の船を出す為、それに参加して欲しいと言われて、今僕はここに居る。


「あぁでもこの国には来たばっかりか。だったらあんまり迎撃の勝手もわからんよなぁ。今日の所は指示に従って貰って良いか?」

 そんな風に問い掛けて来るのは、星四ランク冒険者のジギィ。

『投げ槍』のジギィと言われる彼は、四十程の人間の男性だ。

 何でも魔法で槍を強化して投げ、百メートル先の海上に浮かべた小舟を木端微塵に出来るらしい。

 ジギィの言葉に素直に頷けば、彼も、一緒に乗り合わせた五人の星三冒険者達も安堵の表情を浮かべる。


 そりゃあ見ず知らずの、行き成りやって来た流れ者と組めと言われても、彼等だって扱いに困るのだろう。

 性格もわからなければ何が出来るのかもわからないのだ。

 なのに星四冒険者と肩書だけは彼等のリーダーと対等なのだから、どうしても気を遣わざる得ない。


「遠距離攻撃は仙……少し変わった魔法で可能だよ。近接戦闘もそれなりに出来るから、特に守られる必要はないね」

 あまり下に出てもそれはそれで気遣われそうなので、ややぶっきらぼうに、自分の出来る事を告げた。

 ジギィが満足気に頷いてるから、多分こんな感じで良かったのだろう。

 ドンドンドンと太鼓が打ち鳴らされ、船が港を出航する。

 今乗ってる船は小型のガレー船で、太鼓の音は櫓を漕ぐリズムを取る為の物だ。


 ガレー船の漕ぎ手と言えば、僕等の世界の、大航海時代と呼ばれる頃には奴隷が主流だったらしいが、今乗ってる船はそうじゃない。

 そもそも南方では、奴隷はそんなに多くないのだ。

 別にこの大陸の南方で、人権思想が進んでて奴隷が否定されてる訳じゃない。

 ただ単に、人同士での戦争が非常に少ないから、敵地から人を浚って奴隷にするって行為がなされないのである。

 南方の人々は、人同士で争う余裕があるなら一人でも多くの魔族を殺すと言う考えが普通だった。


 勿論全く人の国同士の争いが皆無って訳じゃないけれど、国力が低下して魔族と戦えない国は存在するだけで害悪だからと、滅ぶ時も非常にスムーズに滅亡するらしい。

 と言う訳で南方では、ガレー船の漕ぎ手や鉱山労働等の、奴隷が担わされがちな労働を行うのは貧民だ。

 貧民と奴隷がどう違うと思われるかも知れないが、南方では貧しい暮らしから抜け出したければ剣を取って魔族と戦えば良い。

 ただそうしようとするだけで、貧しい暮らしからは抜け出せる。

 当然戦いに勝てばの話だが。


 ガレー船の漕ぎ手は、そう言う意味では戦いに近い場に出て、危険も大きい為に貧民の間では、或いは市民からも一定の敬意を得られる仕事だ。

 最初はガレー船の漕ぎ手として海に出て戦いを知り、剣を握って海兵になったり、操船を覚えて船乗りになったり、或いは漁師になった者も多い。

 魔族は海からやって来るから、漁師だって危険な仕事である。

 話は逸れたが、要するに南方は激戦区で、人は皆、戦いながら生きていた。




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