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 戦後処理の話をするなら、今回の事件を起こした死の王は、僕の仙じゅ……魔法に焼き尽くされて、死者の軍勢を放棄していずこかに逃げ去った。

 ……と言う事になっている。

 実際に死者の群れは戦争中に停止して、一気に崩れ去ってしまったのだから、その結果を疑う者はそんなにいない。


 勿論真実は、白黒仙も死の王、ラーデント・バルネットも、僕に南の魔王への戦いを譲り、その結果が出るまでは活動を控える約束で終戦しただけだ。

 恐らくヒルブルクの多くの人は、真実を知れば僕に怒りを覚えるだろうし、白黒仙や死の王は絶対に許せないだろう。

 でもまぁ別にその人達が真実を知る事はないし、そもそも僕にとっては見知らぬ人々はどうでも良かった。


 同じ五悪仙の弟子である白黒仙がラーデントを友人だと言うのなら、僕はそれを敢えて討とうとは思わない。

 僕を英雄と呼ぶ人もヒルブルクには居たらしいが、王を含めた首脳陣に軍権を返し、後始末の道筋を示したら直ぐに首都であるバシュータを出たから、その後どうなっているかはあまり知らないのだ。


「勿体ないとは思わないの? チヤホヤされるの、嫌いじゃないんでしょ」

 そんな風に問い掛けて来るのは、同行する幸歌仙。

 彼女が僕と居る理由は、協力関係が維持中である事と、また神聖騎士が追って来たら僕に擦り付けて逃げたいからだとか。

 その気持ちは、サルドリア・ベルーシャとサーニャ・ベルーシャの二人を見、また元神聖騎士の僵尸、カイロードと戦った僕には良く理解が出来た。

 神聖騎士は、そう、厄介だ。

 最初は神聖騎士の相手を少し楽しみにもしてたのだけれど、実際に会ってみたら、その考えの甘さが良くわかる。


「あまり長居してあの二人の神聖騎士が戻って来たら面倒臭いし、南の魔王を倒す為に動くって約束したしね」

 戦後、すぐに二人の神聖騎士は祖国であるフロンタ聖国に帰還する旅路に付いた。

 多分僕や幸歌仙等、複数居る悪しき者、つまりは五悪仙の弟子に対してどう対処するかの協議の為に。

 そしてもし僕等を討つべしとの指示が下ったならば、あの兄の方、サルドリアは僕を倒す為に色んな準備をして来るだろう。

 幸歌仙なら色んな手を使って逃げ回る事も出来るのだろうが、僕は彼女ほど器用に敵を欺けないから、場合によっては厄介な戦いを避けられない。


「ふぅん、でも私とも約束したのだから、あの二人がまた来たらクヨウアキラが相手をしなさいよ」

 そう、場合によってはと言うか、高確率で戦いは避けられない。

 まぁそれも約束なのだから已む得ぬ事である。

 考え方次第では、良い修行になるとも言えるだろう。




 僕等は今、大街道を南に向かって歩いてた。

 結局、ラーセン氏にもルエーリアにもミネットにも、その他色んなイル・ファーン国の人々に、別れを告げれてはいない。

 その事にも、そして別れ自体にも強い寂しさを感じるが、多少辛辣な面があるとは言え、大分と態度が柔らかくなった幸歌仙の同行が、多少はそれを紛らわせてくれる。

 あぁ、そう言えば同行者は、本当はもう一人居るのだ。

 それは幸歌仙が腰に佩いた魔剣。

 恐らく意思を持ち、会話を行う事が可能であろうインテリジェンスソード。


 ただ、彼か彼女かもわからない魔剣は、幸歌仙とは会話をしている様子だが、僕に声を掛けて来る事はない。

 時折視線と言うか、僕を見てる気配は感じるから、全く興味を持たれてないって訳ではなさそうだけれど。

 さて、この旅の最中に、その声を聞いて打ち解けれる機会は来るだろうか。


 大街道を南に歩き続ければ、やがてヒルブルクを抜け、地域は西方から南方へと変わる。

 勿論西方の大街道の殆どを抑えてるヒルブルクを抜けるには本来は長い日数を旅する必要があるけれど、僕も幸歌仙も仙人だから、その気になれば移動は早い。

 幸歌仙の片腕は未だ使えぬままだけれども、追手を躱しながらでなければ彼女とて、馬を使うよりもずっと早く旅が出来るのだ。


 この世界の常識から言えばあり得ない速度で旅をする僕達だが、西方から南方に地域が変わって最もそれを感じた事と言えば、やはりそれは言語だろう。

 気温は高くなり、日差しは強くなり、住む人々の肌の色も濃くなって行く。

 けれどもそれよりも、道を歩きながら聞こえてくる言葉に僕が聞き取れない物が混じり出した事が、地域の移動を実感させた。

 具体的には、ローレンス大陸西方域汎用言語だけでなく、南方で使われる言語を話す人が増えて来たのだ。

 既に一度この地域を旅している幸歌仙曰く、ローレンス大陸西方域汎用言語は最も多く広まってる言語だから、大街道沿いでなら多くの人が話し掛ければそれで応じてくれるらしい。

 しかし大街道を外れてしまえば、特に田舎の村等では誰一人としてローレンス大陸西方域汎用言語を話せないなんて事も、決して珍しくはないと言う。


 尤も彼女は、別にローレンス大陸西方域汎用言語以外のどの言語でも意思の疎通が出来るそうだが。

 急に幸歌仙が頼もしく見えて来て、少し腹が立つ。

 因みにこの辺りで話されている言葉は、南方ダヌール語と言うそうだ。

 その名の通りに大国であるダヌールと周辺国家で使われていた言語だが、ダヌールは魔族の強襲によって国力が衰退して滅びた為、今この辺りにはバクダールと言う新たな巨大国家が出来上がってる。

 南方では他に南方グラル語と南方ヴィザッシュ語が使われるが、三つの言語には共通する部分も多く、どれか一つが使えたら六割位は異なる二つとも会話が通じるらしい。

 いっそ言語統一しろと思うが、どの道僕はその三つの内の一つも喋れないので意味がない。


 まぁ大街道沿いや、大きな国にのみ滞在すれば、言葉に困る事も然程ない。

 そのうち少しずつ聞き慣れて現地の言葉も理解出来るだろうし、そうなる前に用事が済む可能性だってある。

 




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