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「やっと来たわね。でもクヨウアキラ、状況はあまり良くないわ」

 ヒルブルクの首都、バシュータに幸歌仙が確保した隠れ家の中、久しぶりに会う彼女は少し大きく成った様に見えた。

 勿論馬頭琴と言う楽器が仙人になった幸歌仙に肉体的な変化はない。

 けれども、そう、背筋が伸びて雰囲気が少し変わったから、そんな風に感じたのだ。

 それはきっと、幸歌仙が腰に佩いている魔剣、彼女にとっての弟分か妹分の存在がそうさせているのだろう。


 その事自体は、僕から見れば好ましい変化だった。

 しかし同時に、守るべき物が出来た彼女は、他の仙人との敵対と言うリスクは出来るだけ避けようとする。

 故に今から行われるのは、幸歌仙を戦場に引っ張り出す為の交渉だ。

「お互いに時間は惜しい状況よ。手っ取り早く行きましょう。クヨウアキラ、貴方はこの事態を止める為に私の力を求める。なら対価は何?」

 先手を切ったのは幸歌仙。

 ……驚く程に、僕に対して好意的な対応だった。

 最初から協力を前提にして話を進めようとしている。


「この騒動の後に君の追手は僕が何とかする……、では足りないね。神聖騎士がどんな物かはわからないけれど、現地人と仙人の相手じゃ、流石に釣り合わない。寧ろ対価に、何か希望はある?」

 ならばこちらも下手な駆け引きはやめにして、彼女の望みを受け入れよう。

 実際、幸歌仙の言う通り、余り状況は良くないし、時間も惜しい。

 バシュータに入る際にわかった事だが、死者の群れは恐らく何時でもこの首都を陥落出来るだろう。

 何故なら単なる城壁頼りの籠城戦等、緑青仙の弟子が防壁を破壊すれば一発で崩れ去るのだから。


 では未だに首都、バシュータが陥落していない理由は何なのか。

 無論都市の守備軍や、幸歌仙の追手であった神聖騎士の奮戦もあるだろうが、それ以上に恐らくは待っているのだ。

 各国の軍や冒険者等の優秀な戦士、つまりは優秀なアンデッドの素材が、バシュータを救う為に向こうから集まって来てくれるのを。

 そして充分に優秀な戦士が集まったなら、手元に残しておいた精鋭を投入し、一気に収穫に入るだろう。


「別にそれで良いわよ。クヨウアキラには借りがあるから。それにあまり神聖騎士を、現地人を舐めない方が良いわ。少なくとも私をずっと追いかけて来れる程度には手強いから」

 ……えぇ、本当に、一体何があったんだろう。

 以前との変わり様に少し慄く。

 どれだけの苦労をしたのかわからないが、やっぱり僕から迎えに行ってあげれば良かったかと思ってしまう程だ。


 ただ話が纏まったのは有り難い。

 幸歌仙の力を借りれるならば、取れる手段は大きく広がる。

 相手に主導権を握られっぱなしの状況を、およそ盤面の半分は僕が動かせる位には変えられるだろう。




 それから五日後、僕は援軍の冒険者も含めた、現在ヒルブルクに在る全ての人側戦力の軍権を握る。

 これ以上アンデッドの素材を死者の陣営に渡さない為にも、より多くのアンデッドを屠って本命、緑青仙の弟子と温存してある精鋭を引っ張り出す為にも、軍の指揮権は絶対に必要だったから。


 行った事は単純で、僕は幸歌仙と共にヒルブルクの王に会いに行ったのだ。

 死者の群れに首都を取り囲まれた現状に、ヒルブルク王は心底、誰かに助けて欲しいと思ってた。

 だから幸歌仙が思考誘導を行えば、少しだけ力を見せた僕に、全てを託してでも助けて欲しいと思わせるのは、あまりに容易い事である。

 次に王が首都軍の高官を呼び集め、やっぱり彼等もこのままでは首都が陥落すると思い込んで居たので、王の紹介する僕に頼る様に、思考誘導が行われた。

 後は王から預かった書状を持って幸歌仙と共に敵中を走り抜け、二軍~九軍の指揮権を持つ者に会い、王からの勅令と思考誘導の合わせ技で僕の指揮下に入らせたのだ。


 これにより各々が独自に協力しながら動いていた二軍~九軍、方面軍が統括され、各軍の連携が強化されるだろう。

 首都の防衛で得られた敵アンデッドの情報が方面軍にも送られて、より効率良くアンデッドと戦う為の戦術が構築される。

 つまり、そう、敵包囲を破り、方面軍の戦力が首都に合流する為の準備は整いつつあった。



 だがその動きに待ったを掛けたのは、死者ではなく人間。

 そう、遥か東方から西方まで幸歌仙を追って来た為、思考誘導を見抜ける人物、サルドリア・ベルーシャとサーニャ・ベルーシャ。

 二人の神聖騎士だった。


 首都防衛軍に神聖騎士として協力している、要するに強力な戦力にして立場ある客人の二人は、真っ直ぐに僕に面会を申請して来たのだ。

 面会を断る事は出来るだろう。

 何せ僕は今、本当に忙しい。

 方面軍の進軍ルートや、日時の決定、それに呼応する首都軍の動きなど、決めねばならない事は山の様に在る。


 でもそんな状況だからこそ、下手に面会を断って、場を引っ掻き回されたくはなかった。

 故に僕は人払いを行ってから、首都の王城内、貸し与えられた部屋に二人を招き入れた。






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