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 この世界に来て数ヶ月が過ぎたが、己の未熟さを思い知らされてばかりである。

 勿論自身の未熟さは知っていた心算だったが、師匠と言う大きな目標に対して足りない足りないと思うばかりで、具体的に自分の欠けたる部分がこんなにも多いとは思ってなかったのだ。

 少しばかり凹む話だった。

 けれども凹んだ所で意味は特にないし、欠けたる部分を自覚させられる出来事が多いと言う事は、それを埋めれる経験を得ていると前向きに考えた方が健全だろう。

 と言う訳で反省を終えて、今後どうするかを少し考えてみる。


 合流予定の幸歌仙は、無事に東方を脱出して南方に入ったらしい。

 但し封印を解除した魔剣を追って、神聖騎士が追撃を掛けて来てるそうだ。

 本来ならば直接戦闘をする力は兎も角として、攪乱能力には非常に長けた幸歌仙だから、そう易々と捕まる事はないだろう。

 しかし今の彼女は禁術の代償に片腕が動かなくなっている。

 少しばかり、そう、本当に少しなのだけれど、心配だった。


 迎えに行ってやっても良いのだが、これ以上に僕への借りが増える事を恐らく幸歌仙は善しとはしない。

 そしてその気持ちは僕にも良くわかってしまう。

 己の師に対してなら兎も角、同格である他の五悪仙の弟子に対して一方的に借りを作り続けるなんて、自分だけでなく師の格をも落としてしまう気がするから。


 幸歌仙が僕の元にやって来て合流すると言う以上、僕からは動かない。

 追手に関しては、まぁ幸歌仙が合流して、それでも尚、彼等の国とは大陸の反対側にある西方まで追って来てる様なら、僕が相手をすれば良いだろう。

 神聖騎士が扱うと言う神の遺物には興味があるから、その好奇心を満たす為に戦うならば、幸歌仙への一方的な貸しではないと言い張れる。

 神の遺物が誰にでも扱える物なのか、それとも魔法の様に極一部の限られた者のみが扱える物なのか、前者であるなら僕にとっても有用だ。



 あぁ、動かずにこの国で幸歌仙を待つとの結論が出てしまったので、このまま魔法に付いて考えよう。

 エルフ達が使っていた精霊魔法と、トロールの使っていた魔法は別物だった。

 これは術理が違うのみでなく、そもそも根本的に使用エネルギーからして異なるらしい。


 精霊魔法は、精霊に活力を捧げて現象を起こし、捧げた活力は世界樹に還る。

 一方トロールの使っていた魔法は、大樹海の外、人の世界で使われる魔法と同種で、今は世界を去った叡智の神が与えた魔法だそうだ。

 故に神々に導かれた人は、この叡智の神から与えられた、神理魔法を使う。

 神理魔法に使われるエネルギーは、人の心が生む力、だと言われる。

 例えば物を考えたり、感情を発するのに使用するエネルギーを使って、神理魔法は行使されるのだ。


 このエネルギーを魔法を使う力、魔力と呼ぶ。

 だから神理魔法を使い過ぎれば思考力が鈍り、億劫になって感情を発しなくなってしまう。

 それを回復させるには、心を休め、穏やかに静かに過ごさねばならない。

 睡眠は魔力を回復させる為に非常に良い手段とされる。


 思考や感情を発する事は誰にでも出来るので、魔力は誰でも持っているだろう。

 但しそれを利用出来るのは、己の中に在る魔力を認識出来た者のみだそうだ。

 因みに獣人は本格的な神理魔法が苦手で、あまり使用者は居ない。

 しかし以前に遭遇した獣人の星四ランク冒険者、スラーク等は、己の強い感情によって身体能力を大幅に引き上げており、アレも神理魔法の一種だとされる。

 この身体能力の引き上げに関してのみは、扱える獣人がそれなりに居るらしい。


 ……何とも俄かには納得しがたい話であるが、心に力があると言うのはまぁ確かだ。

 もっと詳しく魔法に関して知りたければ、それに関する研究が盛んな国に、獣人ではなく人間が主な住人である国へ行くしかないだろう。

 西方で最も豊かな国とされるヒルブルクか、或いは賢者が集う国と言われるザーロック辺りに。


 動かずに幸歌仙を待つと決めたのだから、国の移動は無理だけれども。

 


 そう、つまり今の僕は、割と暇なのだ。

 少なくともこんな事をうだうだと考えてしまう位には、時間と気持ちを持て余していた。

 これも僕の未熟さの証明みたいで恥ずかしいが、瞑想しても短時間では心定まらず、取り込もうとした気が散ってしまう。

 かと言って幸歌仙が到着するまでの期間、それこそ一月や二月を、ずっと瞑想して過ごすのも、何だかどうしても惜しい気がしてしまうのだ。


 何故そうなってしまうかは、実はもうわかってる。

 僕は今、寂しさを感じているのだ。

 このイル・ファーン国、ラジャールの町に長居し過ぎて、知り合いも大分と増えた。

 彼等との別れが近付いている事が、どうしても寂しい。

 仙人として人より長く生きてるから、今までだって無数の別れはあったけれども、でも何時も師匠が傍に居たから、別れを惜しくは思っても寂しいとまでは思わなかった。

 しかし今は、師匠が隣に居ない。


 ……はぁ、情けない話である。

 わかってはいたけれど、僕は師匠に頼り過ぎだったのだ。


 再び自分の足りなさを自覚するところに戻ってしまった。

 前を向いた方が健全だろうと始めた筈の思索だったのに、余計に深みに嵌った感じがして仕方ない。

 取り敢えずは、部屋を出て動いた方が良いだろう。

 別れまでの時間を惜しいと思うなら、彼等の顔を見に言った方が有意義だ。

 あまり依頼を受ける気分ではないが、冒険者ギルドに行ってラーセン氏を訪ねれば、お茶位は飲ませてくれる筈。

 



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