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「今んとこ、一番楽しんでるのは間違いなく瑛花のとこの明だな」
そう言って鎧姿の豪傑は、ぐびりと壺の中の酒を呷る。
「そうだな。あれは未熟だが善き子だ。瑛花は良い弟子を持った」
鋭い風貌の男は、少しだけ唇を緩める。
「そりゃあ奴のミンだからね。でも本当に、あの子は実戦経験が足りなかったんだなって思うよ」
久陽・明の師、瑛花仙は苦笑いを浮かべた。
「今回は認めるわよ。うちの子が負けたんだから、アタシがごねればうちの子の株が下がるわ。流石は瑛花姉様の弟子ね。でもアイツ、特に目的なくふらふらしてるだけよね? 一番邪仙らしく動いてるのは、緑青の弟子じゃないかしら」
そんな風に、美貌の女は鼻を鳴らす。
「別に良いじゃないか。好きに動けば良い。既に目的があっても、新たに目的を探すのも、好きにすれば良い。邪仙の呼び名も、勝手に他がそう呼ぶだけの事。しかしあの竜は良い。骸が欲しい」
青白い顔の青年は、表情を変える事なく言葉を返す。
「でもまぁ、今んとこ一番酷いのは孔狼の弟子だぞ」
「あぁ、うむ。そうだな。そればかりは否定出来ぬ」
「まあ、ほら、まだ始まったばかりだから、ね?」
「見ていてつまらないにも程があるわね。アタシ達に忍耐を強いる度胸だけは認めるわよ」
「仙道としては間違っていない。私はそれなりに好ましく思う。勿論評価は出来ないが」
…………ある日、朝起きたら、枕元に一枚の紙があった。
その内容は、
『孔狼7点。双覇7点。緑青6点。凜香5点。瑛花9点。合計34点』
と言う物、
あぁ、うん。
これまでの評価か。
師匠の字で『暫定一位だよ。流石は奴のミン。頑張り過ぎなくて良いから、精一杯楽しんでおいで』と書いてある。
紙から花の匂い、師匠の匂いがした。
裏を見れば、
『孔狼の弟子0点。双覇の弟子22点。緑青の弟子30点。凜香の弟子17点』
とも記されていた。
あぁ、これが現在の、他の弟子の評価か。
凜香の弟子、つまり幸歌仙の評価が低いのは僕に負けたからだろうけれど、……孔狼仙の弟子は何をしたらこうなるのだろうか。
全員から0点評価って、ちょっと逆に尋常じゃない。
僕以外で評価が高いのは緑青仙の弟子で、それほど大きな差がなかった。
緑青仙には活動的なイメージがないから、その弟子が大きく活動してる事には少し驚きを覚える。
一体どこで何をしているのだろうか。
異世界に転移してから、今日で一ヶ月が経つ。
暫定一位を取った件も嬉しいけれど、字や匂いに、師匠を感じれた事が何より嬉しい。
さて今日も、この世界を楽しんで行くとしようか。




