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 ラジャールの冒険者ギルドのギルドマスター、ラーセン・ミット氏。

 竜人はエルフ程では無いが長命な種族で、ラーセン氏は今年で二百四十歳になる徳の高そうな御老人だ。

 大体三百歳位が寿命らしい。

「まさかエルドラ様の友人がこんなに若い人間とはのぅ。いや、見た目通りの年齢ではなさそうじゃが……。一体何者なのか、聞いてもよろしいかの?」

 頭部に生えた角を撫で、ラーセン師が問う。

 うーん、人間で言う所の、頭を掻くような動作だろうか?

 竜人の特徴は、顔の一部と首や背中、腕の後面や手の甲、太腿の外側、脛等に生えた鱗と、頭部に二本生えた角である。

 鱗の生えている部位は要するに体の外側で、他の獣人が毛深い位置とほぼ変わらない。

 ああ、そう考えれば、竜人が獣人の一種に含まれると言う話も頷けた。


「秘境で修行し、エルドラと出会って友人になった。……じゃ駄目でしょうか? 欲しいのは仕事と、仕事をする為の身分の保証です。エルドラからは鱗を見せれば竜人なら助けてくれると聞いてますが」

 嘘ではないが、何一つ言ってないも同然の答えを返し、僕はラーセン氏の瞳を見詰める。 

 否と言われれば仕方ない。

 別の竜人を探すだけだし、それでも駄目なら冒険者の仕事以外の、他の金稼ぎを考えよう。

 ついでに次に会った時、エルドラには鱗が役に立たなかった事で揶揄うだけだ。


「あぁ、いやいやいや。とんでもない。我等竜人にとって、その鱗を、生きた魔力の通ったエルドラ様の鱗を持ってる事が、何よりも身の保証じゃ。客人よ、私の好奇心をお許し下され」

 慌てた様に頭を下げるラーセン氏に、僕は安堵の息を吐く。

 どうやら冒険者を諦める必要はないらしい。

 いやいやと両手を振り、別に怒りを覚えた訳ではないと態度で示すと、ラーセン氏も安心した様に顔を上げた。


「しかし身分の保証は兎も角として、仕事ですか? エルドラ様の御友人であるなら、働かずとも我等竜人がある程度の資金は出し合って融通しますがの」

 そんな事を言い出すラーセン氏だったが、僕は首を横に振る。

 確かにそれは有り難い話だが、僕は冒険者をやってみたいのだ。

 それにそれなりの立場のある竜人が、複数人で資金を出し合うなんて、一体どれだけの額を集める心算なのか少し怖い。

「お気持ちは有り難く。でも冒険者の仕事もやってみたいので、今は気持ちだけを戴きますね」

 戴く気持ちとは、冒険者になる為の身分保障だ。

 それさえして貰えれば、後は自分で稼ぐ事も、この世界での修行の一つだ。


「然様ですか。では身分保障と冒険者登録はお任せいただきたい。最上位にすると目立ちますが、最下位にするとそれはそれで侮られてトラブルもあります故、中位の星三つで登録しておきましょうぞ」

 そう言って、右手を差し出すラーセン氏。

 どうやら握手の習慣は、この世界でもあるらしい。

 確か武器を持つ利き手を相手に預ける、互いの信頼を示す動作って意味だっただろうか。

 僕はラーセン氏の右手を握り、頭を下げて礼の言葉を口にする。

 この恩は、冒険者として働きながら、ギルドに貢献して返して行こう。


 取り敢えずは、今日の宿代を稼ぐ為にも、最初の依頼を受けねばならない。




 と言う訳でやって来たのは町の外。

 昨日の夜に着地した森の付近だ。

 冒険者としての登録料は、ギルドマスターであるラーセン氏が自ら手続きしてくれた事で掛からず、この町の出入りも冒険者として依頼を遂行してる間は掛からない。

 実にありがたい話であった。

 初仕事として受けたのは、町の周囲のモンスター駆除。

 農場や街道の安全を確保する為に常設されている依頼で、倒したモンスターの定められた部位を提出すれば報酬が支払われる仕組みだ。

 勿論定められた部位、討伐証明部位以外も持ち帰れば、ギルドで買い取りが行われる。

 町の周囲の安全を守る為の依頼なので、倒すモンスターは何でも構わないが、その危険度によって支払われる報酬が変わるらしい。


 ……とまぁ、良く物語で見かける設定なので、特に疑問はない。

 一応、町の周囲に出没するモンスターに関しては、ラーセン氏から教えられて討伐部位も把握済みだ。

 気を付けなければならないのは、旅の途中で倒した魔物は、この依頼の達成には無関係と言う事位だろうか。

 あくまでも町の周囲の安全確保が目的だから、遠い場所で倒された魔物の討伐証明部位を持ち込まれても、ギルドとしては困るのだ。

 故に町で依頼を受けてから、一定期間内に討伐証明部位を持ち帰った場合のみ、討伐報酬は支払われる。



 ここにやって来た狙いは、当然昨夜僕を追いかけ回してくれた気配の持ち主だ。

 別に追い掛けられた事を根に持ってる訳では無いけれど、まだ気配をハッキリと覚えているから探しやすいのがその理由である。

 そして捉えた気配は森の中。

 どうやら彼等は夜行性で、昼間は森の中で眠り、夜になると草原に出て狩りをする生き物らしい。

 つまり僕は、これから彼等の寝込みを襲う。


 気配に向かって真っすぐに、潜みながら森を進めば、小さな広場を寝床にして、七匹のモンスターが眠りに付いていた。

 ヴィーオと言う名のそのモンスターは、僕の知る恐竜の一種に似た姿をしている。

 地を駆ける発達した後ろ脚と短い前脚、体長は2m程で、集団での狩りを得意とし、別名を走竜とも呼ばれるらしい。

 討伐証明部位は右前脚。

 牙や爪は飾り細工に使われ、肉は鳥肉に似て食用に向く。

 特に尻尾の肉は高級品なんだとか。

 割と金になる魔物の為、駆け出しの冒険者が挑んで返り討ちになって食われる事多しだそうだ。


 僕は気配を殺したままに地を蹴って跳び、一頭のヴィーオの首を踏む。

 ゴキリと、鈍い音が辺りに響く。

 音に気付いた一匹が不審気に瞼を開くが、それが開き切る前に僕の足がその首を踏む。

 次は一斉に四匹程が気付いたが、起き上がる前に近くに寝ていた二匹が同時に首の骨を砕いて死んだ。

 勿論僕が踏んだからだ。


 起き上がった二匹が襲い掛かってくる前に、僕は未だに寝こける鈍い、一番大きな一匹を踏み付ける。

 さて残るは二匹。

 流石に起きて立ち上がってしまった相手とは、真っ当に戦わねばならない。

 そんな風に考えて僕は構えを取ったけれども、恐らく最後まで寝こけていた一匹が群れのリーダーだったのだろう。

 一番大きなその一匹を殺した途端、起き上がった二匹は僕に背中を向けて森の中を駆けて逃げて行く。


 一瞬呆気に取られてしまった僕は、やはり能力は兎も角、心構えは未熟者の様だった。

 追い付いて始末する事は出来る。

 けれども既に仕留めた獲物が五匹。

 それを放置して、逃げた二匹を追う事は躊躇われた。


 まあ、仕方ない。

 相手が賢く、僕より少し上手だっただけの話。

 金の為に狩りに来ただけで、別に恨みがある訳でもないのだ。

 素直に相手の判断を褒め称え、狩った獲物を持ち帰ろう。


 流石に全ては持ち帰れないので、仙術で刃物を出し、右前脚と尻尾、それから爪と牙を剥いで持ち帰る。

 その後ラジャールの冒険者ギルドでは、ギルドマスターが直々に登録した新人が、いきなりヴィーオの群れを仕留めて帰って来た事が、少しばかり騒ぎとなる。




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