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「ハハハッ、面白い。異世界の者が関われば、眺め飽きた樹の下ですらそんな事が起きるのか」

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、心底愉快そうに笑うエルドラ。


 世界樹の頂点、エルダーグリーンドラゴンのエルドラの巣に戻った僕は、下での出来事を土産話として彼に話した反応がこれである。

 どうやらエルドラは、かなり刺激に飢えているのだろう。

 守護獣であるエルドラの立場からすれば、幸歌仙は世界樹を狙った不埒者なのだ。

 本来ならばその傲慢さを怒りこそすれ、面白いと笑ってる場合ではないと思うが、

「いや、勿論その通りだ。我以外の守護獣が聞けば、きっとその話には怒りを覚えただろう。しかし我はクヨウ、汝を知るし、汝が同郷の者の暴挙は既に食い止めた。ならば最早怒る必要はあるまいよ」

 そんな風に言ってエルドラは笑いを止めない。

 その信頼を喜ぶべきか、呑気さに呆れるべきか少し悩む。


「しかし、ふぅむ。単純に強いだけでなく、そんな技の持ち主も居るのか。やはり行ってみたいな。クヨウが魔王を二柱とも倒してくれれば、守護獣が一体位この世界を離れても問題はないと思うのだが……

、なぁ?」

 なんて事を言うエルドラに、僕思わず苦笑いを浮かべた。

 エルドラが僕等の世界に現れたなら、さぞや大騒ぎになるだろう。

 戦闘機が迎撃に出撃したり、貴重な竜を殺すなんてとんでもないと大反対が起きたり。


 勿論エルドラが五悪仙の誰かの弟子になれば、目立たぬ様に隠蔽もしてくれるだろうが……。

 うん、まぁそれも決して悪くはない。

 魔王を倒して、守護獣とされる竜を五悪仙の弟子に引き込んだなら、評価は他の追随を許さぬ程に高くなる。

 でもまぁ仮にそうするとしても、それはもっとこの世界に関して知り、戦闘経験を積んでからの話だ。

「まぁ考えとく。でもその時は、エルドラも一緒に戦うんだよ」

 戦闘経験と言えば、トロールとの戦いは楽しかった。

 あんな風に多くの戦闘を経験出来たなら、確かにもっとうまく自分自身を、力を扱えるようになるだろう。


 だからこそ僕は、そろそろ大樹海の外も見たい。

 この世界の人々がどんな暮らしをしているのか。

 魔王や魔族はどんな風に世界を脅かしているのか。

 そして僕の同類である、他の五悪仙の弟子達は一体どう動いているのか。

 気になる事は沢山あった。


 尤も大樹海の中にだって、まだまだ見てない物はあるだろう。

 例えばエルドラ以外の世界樹の守護獣がそうだ。

 守護獣の一体には、エルドラよりも遥かに大きな、支樹と同等の小山程の大きさの亀が居るらしい。

 その亀はバキバキ大樹海の木々を砕きながら進むが、発する生命力の影響で足跡からはにょきにょきと木々が生えて伸びるんだとか。

 まるで骨の新陳代謝、破骨細胞と骨芽細胞を連想させる生態だが、実にファンタジーで見てみたいと思う。


 けれどもそれは、まだしばらく後で良かった。

 世界を見て回った後、僕は再び大樹海にも訪れる。

 外の世界は刻一刻と時が過ぎるが、大樹海の中の時間はゆっくりだ。

 エルドラは勿論、エルフ達だって長生きだから、再会を急ぐ必要はない。


「つまり要するに、エルフ達に英雄扱いされるのは居心地が悪いのであろう? わかるぞ。奴等は態度が恭し過ぎて我も時折面倒臭く思うからな」

 ……と、そんな事をエルドラは言うが、まあ実はそれもある。

 単純にとチヤホヤされたり、エルフの美女に囲まれたりするのなら僕も素直に喜んだが、そう、確かに彼等の態度は恭し過ぎた。

『尊敬すべき武人だ!』『強さに奢らぬその心が素晴らしいです』『流石は守護獣に招かれるほどの御方、正に英雄と呼ぶにふさわしい』

 なんて言葉を並べられても、正直重たい。

『凄い!』とか『素敵!』って言葉一つで、美女が頬に口付けてくれる位で充分なのに。


 傍に居たシェイファは美女だったけれど、弟子入りとか、旅に同行とか、ブツブツ呟き悩んでた様子だったので、大急ぎでエルドラの巣まで逃げ帰って来た次第だった。

 まぁ暫く樹海の外をうろうろすれば、そのうちほとぼりも醒めるだろう。



「さて、まぁ汝がしたい様にすれば良い。では背に乗せて送ってやるが、クヨウよ。汝は一体どこへ行きたい?」

 東か、南か、西か、北か。

 この大樹海は大陸の中央だから、どちらに行っても手間は変わらないとエルドラは言う。


 まず東は、かつて多くの神々が過ごした場所だった。

 神々の遺産が多く存在し、それを扱える者は神聖騎士と呼ばれるそうだ。

 宗教国家である聖王国と、それを守護する四方の国、更に大きな湖があるらしい。

 湖には世界樹でなく神に仕えた竜、水竜が棲み、大陸東部を守護すると言う。

 エルドラ曰く、見所はそれなりに多いが、変化に乏しく堅苦しい場所だとか。

 つまり今の気分的にはパスである。 


 次に南は激戦の地だ。

 ローレンス大陸を攻める魔王は二柱だが、その片割れが南の海に浮かぶ島を支配する赤の魔王だった。

 すると当然ながらその配下の魔族達は南の海からやって来る。

 故に南の地には強力な海軍を持つ国家が幾つかと、それを支える周辺国家があり、南海の防衛を担っているらしい。

 また南部には東西を結ぶ大街道が、大樹海をぐるりと迂回する様に通っており、大街道の周辺は商業的にも栄えているそうだ。


 その次は西。

 西はローレンス大陸の中で最も栄えた地だと言う。

 国の数も最も多く、人間以外にも獣人が多く住む場所なんだとか。

 西部で使われる言葉はローレンス大陸の多くの場所で通用するらしい。

 そう言えば、エルフが最初に僕に話し掛けてきた言葉も、確かローレンス大陸西方域汎用言語だった。


 しかしまぁ言語の事はさて置き、豊かな穀倉地帯を持つ上に南と北を繋ぐ交通の要所でもあるので商業も発達している。

 但し魔王や魔族の直接的な脅威に晒されない分、人同士の諍いが最も多いのも西らしい。

 だがそうやって人同士が争う事で新たな戦い方が生まれたり、傭兵となった者が南や北に向かうので、一概には否定も出来ないのだとか。

 更に西からは南と北、魔王や魔族と戦う地への食料や物資が供与もされて、大陸の防衛に寄与していた。


 最後に北は、南と同じく激戦の地だが、東西南北の中では最も寂れた場所である。

 何故なら大陸北部の殆どは、険しい山に覆われているからだ。

 つまり人が住むには全く適していない。

 けれどもそんな場所にも人間の国はあり、北方帝国を名乗っていた。

 北方帝国の戦士は皆屈強で、獣の毛皮を身に纏い、巨大な両手剣のみを頼りに魔族と渡り合うのだとか。


 北の島を支配するのは青の魔王。

 赤の魔王は海をも沸騰させる炎の使い手で、青の魔王は海をも凍らせる氷の使い手だと言う話だ。

 配下の魔族の能力は様々だが、やはり主である魔王と同じく南は炎、北は氷の使い手が多いらしい。


 他にも北部の山にはドワーフが住み、高品質な武具を生産しては西部に売り、そこから大街道を通って南や東に持届けられると言う。

 またエルダー種ではない、エルドラに比べればずっと弱い竜の巣も多く在るとの事だった。

 


 うん、どうしようか。

 東をパスするのは決定だとして、戦いたいなら北か南。

 でも北は寒いらしい。

 南は暑くて、西は普通。

 色々な物が多く集まるのは西だから、情報が集まり易いのも西だろう。

 西からなら、南も北も行きやすい。

 だから西かな。

 うん、西が無難だ。


「ちょっと迷うけれど、エルドラ、西にお願い」

 そう言って、僕はエルドラの背によじ登る。




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