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「トロールは貰うから、他は任せるよ」

 エルフ達にとっての混成軍の首魁、騒ぎの元凶とされているトロールは、この戦いでは一番の手柄首だ。

 しかしエルフ達からは、それを僕に譲る事に関して、誰も反対しなかった。

 少なくともこの精鋭部隊に関しては、皆が僕を認めてくれているらしい。


「えぇ、お任せください。決してクヨウ様の戦いを邪魔させません」

 精鋭部隊のエルフの言葉に、僕は頷き前に出る。

 見られている事はわかってた。

 凜香仙の弟子にとって、僕は計算を狂わせた闖入者で、排除すべき競争相手だ。

 思考誘導したトロールを使い捨てにしてでも、僕の手の内は把握したいのだろう。


 でも実際の所、例え今回の戦いでエルフが負けていても、凜香仙の弟子が世界樹を手に入れられたかどうかはかなり微妙である。

 ゴブリンやオーク、オーガやトロールにとっては、エルフが世界樹を握っているとの印象で、恐らくそれを凜香仙の弟子も真に受けたのだろうが、その認識は誤りだった。

 何せエルフを排除した所で、その後にはエルダーグリーンドラゴンのエルドラを始めとする守護獣が控えているのだ。

 エルフに成り代わって世界樹の近くで静かに暮らす位なら守護獣は動かずとも、実際に手中に収めようとすれば牙を剥いた守護獣との激突は避けられない。

 僕は守護獣の一体であるエルドラに勝ったけれども、それは宝貝までも含めた能力的な相性の結果で、直接戦闘を得手としないタイプにとっては、仙道であってもエルドラはかなりの脅威だろう。



「――――――!!!」

 相変わらず何を言ってるかはわからないが、トロールが僕に向ける視線は怒りで真っ赤に染まってる。

 余所者が争いに介入するなと言ってるのか、一人で自分の相手など舐めるなと言ってるのか、僕が武器を持ってないからやはり舐めるなと怒っているのか。

 幾つかそれらしい事は思い付くが、真相を確かめる手段はない。

 師匠に貰った理解の符は、エルドラに使った一枚きりなのだ。


 だが意思疎通が出来なくても、凜香仙の弟子に利用されてるだけだとしても、目の前の彼は侮って良い相手ではなかった。

 サイズこそオーガに劣るが、肉体強度は上回り、更に術理は違えどエルフが集団で対処せねば防げなかった魔法の使い手。

 武装は黒い金属製鎧で身を固め、巨大な両手剣、グレートソードだとかそう言った類の物を背負ってる。

 当然それを扱えるだけの技量も身に付けているのだろう。

 であるならば、素手で相手をするのは少しばかり厳しそうだ。


 とは言え宝貝は使用しない。

 この戦いを盗み見ている凜香仙の弟子に宝貝を晒したくないのは勿論あるが、余りにも無粋が過ぎるから。

 何せ僕の宝貝、破山を使えば、肉体強度も金属鎧も両手剣の技量も、全てを意味のない物として一振りで終わる。

 相手が同じ仙道だったり、余程の大軍だったり、エルドラのような巨大生物だったりするなら兎も角、多少大きく強くても、単なる人の類に使う代物ではないのだ。

 決して相手を侮る訳じゃなく、例えるならば、そう、たった一人の人間を相手取るのに軍が空爆を行う様な物だから。

 まだ見ぬ未知の存在、魔王や魔族が相手なら、ひょっとしたら破山を抜くかも知れないが、まあそれも出会ってみなければわからない。



―金行を以って貫く槍を為す。ここに在れ―


 地に手を突き、土気を金気に換え、武器を引き抜く。

 そして構えるのは、穂先だけでなく、柄までが鋼で出来た槍。

 あの頑丈そうな鎧を貫くならば、ある程度の重量はあった方が良い。


「グオォォォォォッ!」

 僕が槍を構えた途端、トロールの口から発せられた声は、言語はわからずとも気合の咆哮である事は理解が出来る。

 トロールの巨体が思い切り良く飛び込んで来た。

 触れる物は全て真っ二つにせんとばかりに上段から振り下ろされる斬撃を、僕は斜めに構えた槍の柄で受け、地に流す。

 けれど両手剣は切っ先が地に沈む前に、トロールの膂力によって無理矢理止められ、更に前蹴りが飛んで来る。

 軽身功を用い、ふわりと後ろに飛んでそれを躱すが、金属の具足で覆われた蹴りは、まともに喰らっていれば簡単に内臓が粉砕されただろう。


 実に荒々しい攻めだった。

 まるで防御に意識を割いてないかの様に攻撃一辺倒の姿勢だが、恐らく鎧と自らの肉体の頑強さに絶対の自信があるのだ。 

 攻勢により相手の意気を挫けば、中途半端な反撃が来たところで鎧と自らの肉体との自信が。

 まあ確かに、下がりながら繰り出す攻撃では、今のトロールにダメージを与える事は難しい。


 しかも彼の攻撃は、両手剣での斬撃や、具足を纏った拳や蹴りばかりではなかった。

「―――――」

 相も変わらず理解の出来ぬ言葉をトロールが発すれば、幾つもの炎の飛礫が宙に現れ、僕に向かって放たれる。

 咄嗟に槍を風車の様に回転させて炎の飛礫を弾き散らすが、更に行われた突撃からの斬撃は、流石に防げる体勢じゃないから、飛び退って逃げるより他にない。

 僕に逃げを選ばせるなんて、実に厄介で、手強い相手だ。


 でもだからこそ、少し楽しくなって来た。



―木行に命じて根を動かす。縛れ―


 トロールの攻撃から逃げながら、トトンと足を踏み鳴らす。

 多くの血が流れたり、トロールの魔法で多少樹木が焼かれたが、それでも大樹海の中であるこの場所は、やはり木気が一番強い。

 故に僕が選択した仙術は、根の操作。

 地表を突き破って伸びた幾本もの太い根が、トロールを捉えて巻き付き、縛る。


「――――!!!」

 勿論ただの根で、怪力を誇る彼を縛り付けておけるとは思っていない。

 ぶちぶちと根を引き千切り、振り払おうとするトロール。

 だがそれでも、動きは一瞬止められた。


 全身のバネを使い、担いだ槍を振り被って投げる。

 確かに彼が身に纏う鎧は頑丈で、彼自身も頑健だが、それでも鎧の素材は鉄か何かで、肉体は肉と骨と皮でしかない。

 充分に気を通した鋼の槍なら、貫く事は難しくなかった。


「―――」

 咄嗟に動けぬ彼が行える唯一の抵抗手段、何らかの魔法を発動させようと、或いは発動させたのかも知れないが、投擲された槍はそのままズブリと鎧と彼の肉体を突き破って、背中側に穂先が突き出る。

 トロールはゴブリン、オーク、オーガとは比較にならない強力な存在だと言われるが、それでもやはり人を元と生き物だ。

 心臓の位置は他と変わらず、心臓を失って生存出来る例外でもなかった。

 周囲の戦いはまだ続いているけれど、それはエルフ達に任せよう。


 だから僕は、こちらをずっと観察していた視線に向かって顔を向け、

『次は御前だ』

 ……と、僕達にわかる言葉で唇を動かす。



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