路上にて②
「お嬢さんの傍から離れろ、変態め!」
「うるせえ、お前の方が変態だろうが」
変態達が私を挟んで、喧嘩を始めてしまいました。
緊急事態です。早く帰りたいです。
「お嬢さん、もう少しの辛抱ですよ。今助けてあげますからね」
ゼンラサンは優しい声で、私に話しかけます。
もしかすると優しい方なのかもしれませんが、全裸なので信用なりません。
「おい、こいつは俺が見つけた獲物だぞ。オマエなんかに渡せるか!」
目の前に居るコート姿の変態は、乱暴な人のようです。
コートを羽織っているだけマシな方だと思っていましたが、ゼンラサンの方がひょっとすると良い方なのかもしれません。人は見かけによりませんね。
でも結局は、二人とも全裸なので信用なりません。
(お嬢さん、私が合図をしたらこちらへ走りなさい)
なんと不思議なことでしょう。
頭の中に直接ゼンラサンの声が聞こえるではありませんか。
もしかすると私は混乱のあまり、幻聴を聞いてしまっているのでしょうか。
(安心しなさい、お嬢さん。私はネイキッドサンなんだ。これは”全裸ボイス”という技で、特殊な周波数を使って、君にだけしか聞こえない声を出しているんだよ)
ネイキッドサン……?ゼンラボイス……?
さっぱり意味が分かりません。
「おい、なんだこの間は!やるってなら、さっさとやろうぜ」
コートの男は苛ついている様子です。
男は右手を私に伸ばします。
何をする気でしょう。怖いです。
「いまだ!走れ!」
ゼンラサンの叫び声を聞いて、私はゼンラサンの方へ走りだします。
あ、プランプランしてる。
私は力が抜けて、その場に座り込みました。
そんな私の首に、太い蛇が巻き付きます。
どうやら、コートの男の腕が私に巻き付いてるらしいのです。
「離して!変態!」
私は叫びましたが、男の締め付ける力は強くなるばかりです。
「くっ、大丈夫か!くそー何か薬を盛られていたのか」
ゼンラサンが悔しそうに叫びます。
いえ、盛られてないです。貴方が全裸なのが悪いのですよ。
私は薄れゆく意識の中で、ゼンラサンにそう心の中で注意をしました。