路上にて①
私の家の近所に、最近【ゼンラサン】という全裸の男の人が現れるそうです。
色々な噂を耳にします。
1、【ゼンラサン】の下腹部を見ると、気絶してしまう。
2、【ゼンラサン】の下腹部を見た女性が、ショックのあまりビルから飛び降り自殺をした。
3、【ゼンラサン】は子供が好きで、彼に気に入られた子供は連れ去られてしまう。
4、【ゼンラサン】はマッハ3で走る
5、【ゼンラサン】は男の人を見つけると抱き着く
怖い人です。
私はこの噂を知ってからというもの、一人で下校するのがすっかり怖くなってしまいました。
けれど、今日は智花も舞子も用事があって一緒に帰れないというのです。
なので私は仕方なく、一人で家路につきました。
学校の周りは、商店街などがあって、活気があります。
それであまり怖くなかったのですが、家に近づくにつれて閑静です。閑静な住宅街です。事件の香りです。
何故もっと学校の近くに家を建てなかったのかと、両親に文句が言いたいです。
私はなるたけ速足で、家路を急ぎました。
すると、目の前に真っ黒なロングコートを着込んだ若い男が現れました。
彼は私から数十歩ほど前にある電信柱の影に、ぼうと立っています。
私はすっかり顔から血の気が抜けてしまいます。
きっと彼が、【ゼンラサン】に違いありません。
あのコートを脱いだら……想像するにも恐ろしい。
私は怖くなって、来た道を引き返します。
ちらっと背後を確認すると、【ゼンラサン】は私に気が付いたようで、走って追いかけてきました。
私もそれを確認すると、全力で走りだしました。
こんなに早く走れたのか、私。ちょっとびっくりです。
しかし次に後ろを振り返ったら、【ゼンラサン】は私に髪の毛が触れそうな距離まで迫っていました。
「きゃーー」
私は叫びます。
忘れてました。そういえば、こいつはマッハ3でした。
私は逃げきれないと察し、鞄を思い切りにぶん回します。
けれど【ゼンラサン】はそれを片手で軽々と受け止め、にたぁと気持ちの悪い顔で笑います。
「お嬢さん、【おちん〇んが好き】と言いなさい」
「【おちん〇んが好き】!」
私が即答すると、男は面を喰らったような顔をしました。
勿論、本当ではありません。けれど、命の危機です。
ここは、男の言うことには素直に従った方が良いでしょう。
【ゼンラサン】はちょっとすると調子を取り戻し、また先の気持ちの悪い笑みを浮かべ、自身のコートの衿あわせを両手で掴みます。
「じゃあ……これでもぉぉ」
口裂け女方式です。間違いありません。
私は「やだーーー」と叫びます。
お願い、誰か助けて!
「待て、そこの変態!」
背後から大きな声がしました。
【ゼンラサン】は目を見開いて驚いています。
そして、こう言いました。
「へ、変態だ!」
自己紹介でしょうか?
私も【ゼンラサン】の驚きの理由が知りたくて、後ろを振り返りました。
そして、すぐに理解しました。
コートの男は【ゼンラサン】ではなかったのです。
だって本当の【ゼンラサン】は、今、目の前にいるのですから。
目の前の彼は、まごうことなき全裸でした。
でも変な赤いマスクを被ってます。
そこが、変態性をかさ増しさせているのです。
「全裸マン参上!さあ、お嬢さん。私が来たからにはもう安心だ」
何が安心なのかさっぱり分かりません。
私はただただ変態二人に前後を挟まれてしまい、大変困ったことになってしまった様なのです。