#9 ナーガ
刻むねぇ
蛇はズリズリと湿った音を出しながら崩れ落ちていった。
「魔物相手には初めて使ったけどなんだこれ…ほとんどレーザーじゃねぇか…。」
刃物で切り裂いたかのように綺麗な断面を見ながらその威力に軽い恐怖を覚える。
んん…
かすかに聞こえた呻き声に壊れた馬車の存在を思い出した。急いで中を覗き込むと何やら半透明の大きな球体が、乗っていた男女2人を閉じ込めるように形作られていた。
オパールのように淡く濁るそれはおそらくこの2人のうちどちらかが貼った魔法防護壁だろう。
レオの母は攻撃系の魔法を専門としていたためこの防御魔法については彼にもあまり詳しい知識はなかったが彼の物理的侵入をこの薄い壁は拒んで見せたことからもこれがそうであると断定できた。
目立った傷もないし気絶してるだけだろう、ひとまず付近に座って様子を見ることにした。
しばらく伺っていたが一向に目覚める気配がない。さらには腐ったような特異な血生臭さが立ち込め始めそろそろ精神的にも辛くなってきたところだった。
「レオくーーーーん!」
声のした方を見ると商人が驚いた顔で叫んでいる。ちょうど良かった、何か助けを───
「このナーガ、レオくんが倒したんですかい⁉︎」
飛び出すようにして馬車から降りた商人はすごい剣幕でそう聞いてきた。
肯定する。これでも一応魔法使いなのだ。それなりに魔法を扱える自信もある。
「いやしかしこれは…。」
何やら商人が慌てた様子だ。
「何か変なことでも?」
「いや…このナーガって魔物は一流の魔道士が束になってやっと勝てるようなバケモンなんですよ…」