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聖水騎士様はブラックが許せない  作者: 寺内ワタル
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SS タンポポ染め

「これって、何を使って染めてるんですか?」


 今日は染物ギルドの要請で、染め入れ場の仕事に来ている。

 大量に染める槽とは別にある小さめな作業スペースに、見慣れない鮮やかな黄色の布が干されていた。


「リュド君、こいつはサフラン染めだ」


 サフランはめしべを乾燥させて香辛料にする花で、ダンドリオン村でも栽培されている。

 しかしサフランの花は紫色だ。どうしてこのような色にと考える俺の表情で察したか、親方が理由を説明してくれた。


「花じゃなくてめしべだ。あれで染めるとこういう色になる」

「へえ、じゃあこれってやっぱり……」

「うん、高いね。個別の注文だからなおさらだ」


 サフランはダンドリオン村でも栽培されているが、めしべを乾燥させた香辛料は高価で、村人が食べることは多くはない。

 早朝に収穫作業があり、その仕事を「金粉を摘みに行く」という言い方をしていたほどだ。


「こういう鮮やかな黄色に染めたいんですけどね」


 万が一のことを考えても、下半身に履くものが黄色だと安心できる。しかし、こちらの世界にはあまり鮮やかな黄色のボトムスが売られておらず、俺は薄いクリーム色のもので我慢していた。


 日々真面目に勤めてそれなりに貯金もしていることだし、がんばって買うべきかと思案する俺に、親方はがっかり情報を追加する。


「あー、でもこれも色が定着したあと一回洗ったら、ここまで鮮やかな色じゃなくなる」


 それなら高い金を払ってでも、とはならない。


「そうですか、何か黄色の染料で安くて綺麗なものはないんですかね」


 気落ちせずに休憩中の雑談を続けた俺に、親方は今度は驚きの情報を告げる。


「タンポポの花でもけっこう黄色に染まるけど」

「なんですと?」


 春から夏にかけ、俺は日々せっせと聖タンポポ茶葉を作っている。

 現状はたまっていく一方だが、ゆくゆくは大量に必要になったり、村から離れた仕事になる可能性もある。ストックは多いほうが安心だ。


 ただし葉と根はしっかり役に立てていたが、花はほとんど捨てていた。揚げれば食べられるそうなのだが、家族に聖の力が宿ってしまっても困る。

 もったいないと考えていただけに、この使い方は朗報だ。


「親方、今度タンポポの花をたくさん取ってくるんで、染めるのをお願いしてもいいですか。お金も払いますので」

「構わんよ。何を染めたい?」

「こういうボトムスを染めたいなと」


 親方はハンカチ程度を想像していたようで、驚いていた。

 それなら布から染めて仕立ててもらうほうがいいということ、花を準備する量の目安、お互いの仕事の隙間時間が多そうな日などを話して、その日は仕事を終える。


 それから当日までは、帰宅後の空き時間にしっかり聖タンポポを集めるように心がけた。







 親方は大量の花を煮出すところから手伝ってくれた。


 花を煮込んで、絞って、こす。

 再度温めて布を漬け込んだところで、親方の奥さんの出番だ。


「少ない染料でも、【浸透】があれば染まりが全然違ってくる。俺はこいつと一緒にならなきゃ、親父の染め場をたたまなきゃいけないところだったんだ」


 親方の奥さん自慢が始まった。

【浸透】はかなりの難度で、使える人は希少だ。親方は水術を選択したが習得できず、奥さん頼みになっているらしい。ただ二人とも水術のせいか、力仕事や乾燥役で土か風の徒弟が欲しいらしく、いつも募集をしていた。


「まあ当然だが、徒弟もゆくゆく独り立ちしたいと考える者ばかりだ。そうなると染め場の弟子入り希望は水使いばかりでね。うまくいかないもんさ」


 もうすぐ堅信式の長男は風か土予定らしい。

 こういう人の一時しのぎのために聖教会の派遣制度があると考えると、やはりよくできているものだと思う。


 雑談を終えて布を取り出し、今度は定着させるためのミョウバン液に漬け込む。


「この後、干すのはやっておく。明日以降でまた取りに来てくれ」


 親方はかなり代金を安くしてくれた。





「おやー、今日はなんだかとってもおしゃれさんだねー」


 受け取った布で仕立ててもらったボトムスを、アンナが目ざとく見つける。

 ただし直後に同じ色で五着も仕立ててもらっていることを言うと、途端にあきれ顔をされてしまったが。


「これはおしゃれとは違う。俺にとっての制服みたいなものだ」


 この色なら聖水の秘匿にも役立つだろう。

 以後グレーの上着と鮮やかな黄色のボトムスは、俺のトレードマークのようになった。


 聖タンポポで染めたボトムスは発色がよく、色落ち知らずだった。

 しかも履いたボトムスを通して、自身の土術力が聖術力に変えられることにも気づいた。

 大量に術力を必要としない場合、もう聖タンポポ茶は要らなくなるとぬか喜びしたが、どうやらその用途で使うほどに効力は薄れていくらしい。


 気づいたときはがっかりしたが、逆に考えると、他の人間に限定的に聖の術力を使わせる道具にできるということだ。

 今は特にその必要性も感じないが、今後役に立つときもあるだろう。

 茶と同じで劣化しない特性があるなら、聖タンポポ染め液もこれからは作ってストックしておかなければならない。

 相変わらず俺の土曜日は、休みになりそうな気配がなかった。



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