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聖水騎士様はブラックが許せない  作者: 寺内ワタル
22/25

2-13 転換

前話

闘技大会ペアの部優勝

「おはよう、色男」

「おはよう、事情通」


 翌日、クリスが満面の笑みで声をかけてきた。


 表彰式後、ペア闘技優勝者の習わし、シュシュを送る意味、クルーザのリアクションについてクリスからこっそり解説を聞いて、俺はクルーザのキスの意味を知ることになった。

 まさに大洪水に流された婚約だ。もちろんクルーザのことはタイプなので、何も問題は無い。

 むしろ今回、人生の生活設計に沿った可愛い婚約者を、ラッキーパンチで得たことを歓迎するべきだろう。


「ま、まだ婚約ですから。ダメにならないように、私がんばります」


 クルーザは肩に力が入った姿勢のまま、真面目に返答した。


 しかしクルーザの言うとおりだ。成人ですら、まだ一年半もある。

 安心するには早く、これからも誠実に勤め上げ、後ろ盾に守られながら生きていかなければならない。




 学生の部は昨日で終わり、今日は通常の個人の部が開かれている。

 本来は休みの聖曜日だが、聖都が人でごった返すため、聖教会学校生は総出で警備の応援だ。

 気を利かせてもらっているのか、俺は大通り巡回経路担当で、クルーザとペアだった。

 街の人たちが俺たち二人の姿を見ては、ねぎらいや祝福、賞賛の声をかけてくる。


「おめでとう、昨日はとてもよかった」

「お二人とも衛士をなさるのね。とてもお似合いだわ」

「武器を使わぬ治安の術、まさしく聖都にふさわしい」


 クルーザは戸惑っているようだが、彼女がこのように褒められて、俺としても悪い気はしない。



 昼過ぎ、王宮前広場から離れた東寄りの経路を進むと、道の混雑も目立たなくなってきた。先ほどのようなひっきりなしにかけられる声も無くなると、クルーザは歩きながらぽつりぽつりとしゃべり始める。


「私は両親から王宮筆頭医師になることばかりを言われて育ったんです。生まれたときから住み込みの神術教師もいましたし、あまり外に遊びに行くようなこともできませんでした」


 幼少時から大人の集める術力に触れることで、体をめぐる術力量が増すという説がある。もっとも【洗礼】前は術力が見えないため検証が難しく、八歳未満の術訓練は意味がないとする反対意見もある。

 ダメ元でたまに、という程度はどの家庭もするようだが、クルーザの両親は本気のやり込み教育だったようだ。


「堅信式までは自分も宮廷医師になれると思ってました。両親も私の術力を見て本当に嬉しそうでしたし」


【回復力強化】はかける術力が巨大なほど、大怪我や大病に効果的となる。

 複数の人間が同時にかけてもその効果を得られないため、術力の大きな水術使いは宮廷医師から王家専属へ、最終的に王宮筆頭医師という最高のエリートコースが用意されているらしい。

 クルーザの術力なら当然、その期待は大きかっただろう。


「でも【回復力強化】どころか一つも上級を使えなくて、両親のいらだちも、両親同士の喧嘩もすごく多くなって……」


 日本の教育ママによくありそうな話ではある。期待値が上がったことが、余計に落差となったのかもしれない。

 術力が洗礼式以後に大きく上がることがないことを考えると、両親としても頼みの綱がなんとかつながり直して欲しい気持ちが先行してしまったのだろう。


「ため息ばかり、怒られてばかりで自分に価値がないって思ったり、家に戻って侯爵家に嫁ぐのもしょうがないかもしれないって思ったり」

「そんなことはない」


 表にあまり出すことはなく、たまに自虐で話していたクルーザだったが、この様子だと本心はかなり苦しんでいたようだ。

 ましてや巨大な術力があだになって、しかも幼少時からの訓練の効果かもしれないとくれば、ここまでの人生の意味を考えさせられるような気持ちになってもしょうがないのだろう。



 王宮と東門の中央にある広場にはルゥド河の水を引き込んだ噴水がある。子供たちは夏に戻ったような暑さをかき消すように、水を蹴り上げて遊んでいるようだ。

 クルーザは急に暗い顔が切り替わり、こちらを向いて明るくなった声で質問してくる。


「一緒に訓練した日、あれって多分私のために説明してくれたんですよね」

「や、まあ」

「ふふ。なんかあれで、もやもやが晴れてすっきりしたような気がします」


 クルーザは俺の返事を待たずに少し小走りで先行し、ミュールを脱ぎ捨てて泉に入った。

 続けて両手を真上にかかげて水を放つと、頂点で霧吹いた水は正確に真下に落ちる。

 これまでと同じようにびしょびしょになったクルーザが、これまでとは違う笑顔で高らかに宣言した。


「これからは、私らしくがんばっていきます」


 霧吹いた水は、秋晴れの空に虹を掛けていた。








   ◇◇◇◇◇

 闘技大会の熱冷めやらぬ聖都は聖騎士と婚約者のうわさで持ちきりだった。


「婚約された術士様の戦いぶりも、すばらしいものだった」

「天に虹を掛ける、水の女神よ」

「水の女神じゃ、水に守られた聖都の象徴じゃ」




 小柄な女は、男に体を預けて言う。


「リュド君も、クルーザちゃんに水色のシュシュを送ったんだって」


 体格の良い男は、目を細めて笑う。


「うちと一緒だな。じゃあペア闘技は、いいきっかけになったということか」


 それを聞いた女は、笑いながら男に口付ける。

 長い髪を束ねて縛っているシュシュが揺れた。


 贈ることが「束縛の許可を求める」ことを意味する、聖都で流行りの求婚の品である。

 聖騎士が婚約者を優しく抱きしめるその姿は、まるで優しく髪を束ねるシュシュを思わせ、以後いっそう年頃の女性の憧れの品となったという。





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