2-12 検証後半と闘技大会の残り試合
前話
クルーザの上級が暴発する理由
「ということは四番に問題があるんでしょうか」
「ところが、それも違う」
「えー」
「じゃあ四番が原因じゃないという理屈も説明しよう」
話が長い自覚もあるが、これは「クルーザは悪くない」ということを理解させるために必要なことだ。
「余談なんだが三番と四番が独立した手順なら、クルーザは三番が原因じゃ無いと、もっと早く気づけたかもしれない。ただ実際はどんな効果を、どういう出し方で、というのは同時にやらないと術が発動しないからな」
「ふむー」
「じゃあ四番について考えよう。術の出し方っていくつかタイプがあるが体を包む系、設置する系、放出する系、混ぜる系とかだな。じゃあクルーザ、本来は設置する系の【着火】だが、それを前に放出するような出し方をしてみてくれないか」
「はい、やってみます」
クルーザが出した【着火】は前方に飛び、石畳の上に落ちて燃え尽きた。
「ばっちりだ。じゃ次は【風吹】を放出する感じじゃなく、自分の手を包む感じで出してみてくれ」
同じく、【風吹】がクルーザの手のひらの周りにまとい、ほどなくして消えた。
「そもそも四番は難しくない。難しくないがあえていつもと変えると、狙いの効果が変な飛び出し方をするって感じだ。混ぜる系以外は、まず失敗がそもそもありえない。つまりクルーザの四番に問題があるわけじゃない」
「混ぜる系ってどんな術ー?」
ここにぴんとこないのはしょうがないか。
「俺なら【聖約】だな。クリスの【拡声】も多分そうだと思うが、このタイプだけ、出し方のイメージに慣れるまでは難しい」
「声に混ぜるイメージだ。うまくいかないと普通の声と風が出るだけだな」
ここまでの話だと、一、二、三、四すべてを否定しただけで、クルーザの不可解そうな表情はいっそう強くなっている。アンナも少しじれてきたようだ。
「じゃあ結局何が原因なのー?」
「俺は二番だと思ってるんだ。正確に言うとクルーザの二番に問題は無いが、巨大な術力が二番を破綻させるって感じだ。これにも裏付けが一つある」
さあそれを聞かせろと言った空気なので、そのまま裏付けを見てもらうことにする。
「アンナ、【衛生】を今、俺の手にかけてみてくれないか。みんなは、アンナの手の間を見ててくれ」
アンナが【衛生】を放つ。青い光が現れた場所から、一、二粒の水滴が落ちた。
「これだ、この水滴」
「【衛生】のときに出てくるな」
「あー、これも小さい暴発ってことかなー?」
「そのとおりだ。【衛生】の青い光は触れても濡れない。それなのに水滴が出てくる。これは変換イメージがかかってないというよりは、神術を発動する瞬間の出口にも、体を流れる術力がこぼれ出てきてるんじゃないかと思う」
三人ともが感心したようにうなずいている。納得してもらえているようで何より。
「最後に、俺の考えた例え話を聞いてくれ。」
これもうまく伝わればいいのだが。この手のイメージを共有する例え話は非常に苦手だ。
「水が満ちている水おけをかたむけて、コップで受けとめ果汁を入れながら、台に置く」
「水が術力、水おけが体、コップが手のひらの間、果汁が変換イメージ、台に置く行為が出し方イメージってところか」
「そうだ。そしてクルーザの水おけは中から大量の水が湧き続けている。コップにもとんでもない量の水が勢い良く流れこんでこぼれるから、果汁もすぐに飛び散る」
「じゃあ手のひらに術力を集めたあと、体の術力を消す練習で解決するー?」
アンナの発言を受けて、クルーザは感触をたしかめるように、手のひらに術力を集めてみている。
「最初に言ったが解決策はまだわからん。ちなみにそれをやると手のひらの術力も消える」
「そうですね。コトゥさんから二番について丁寧に確認するように言われながら練習したこともあるんですが」
俺の問いかけにクルーザも即答する。
「基礎神術は術力一定だからそれ以上体の術力が流れ込まずに成功する。それ以外はクルーザの努力とは無関係で、術が発動する段階であふれでるんだから、二番を丁寧にやろうが、どうしょうもない。この考え方についてどう思う」
「異議なし」
「なーし」
「あ、ありません」
「『巨大な術力が暴発している』っていうのは、わざわざこんな話をしなくても同じようにみんな考えてたんじゃないかと思う。俺が言いたいのは三番の変換イメージ練習じゃなく、体をめぐる術力の流れ込み阻止のほうが必要だと言いたかった」
「で、その方法は、今のところまだ思いついてないってことか」
まとめ大臣クリスに深くうなずき、これにて説明終了だ。
「話をようやく戻せる。今回は大洪水をうまく使おうって話だ」
「は、はい」
クルーザは杖を握り直した。
「考えてみれば水は大量に出てるんだから、ある意味で【上級水作成】みたいなもんだ。ちなみに【上級水作成】を使うときはどんなことに気をつけながらやってる?」
「術力が水になること、見えてる容器に入るような量と出し方になること、この二つを考えてます」
俺は大きく深くうなずき、クルーザの両肩を抱いて口を開いた。
「よし、それを綺麗さっぱり忘れよう。必要なのは出す方向だけだ」
今回はもうクルーザは驚いた顔にはならなかった。
「まず術力がそのまま出たら水だから変換イメージなんて要らない。量はこれぐらいとか考えたところで、どうせ大量にあふれてくるから要らない。それより手の間から前に向かって術力を思いっきりだすことだけ、考えよう」
「やってみます」
狙いどおり、クルーザは手のひらから正面方向だけに巨大な津波を出した。
様子を見にきたコトゥさんが流されたが、尊い犠牲というやつだろう。
「すごーい! これなら投網も押し返して、逆に相手が網にかかっちゃうね」
「さすがクルーザだ。抑えようと思わなければ、こんなにでかい津波になるとはな」
アンナは感激しきり、そしてクリスは褒め上手だ。やはりイケメンは違う。
「ついでにこの津波で、俺の突撃に推進力をつけるつもりだ」
俺の突撃が外れても、津波が足をさらう状況では相手も思うようにうごけないだろう。
そして俺にはもう一つ策があった。まあこれだけでも楽勝だとは思うが。
「クルーザ、次は出す方向、そして水の出口を狭くするように意識してみてくれ」
この発想は当然、地球の消防士が使う放水銃や放水ホースだ。
デモ鎮圧でも使われるし、この水量そのままで細くなればかなりの威力になるだろう。
こちらは四、五回暴発させたが、それからはしっかり成功させられるようになった。
狭くしすぎると予想外の威力が出て、内庭にあるレンガの花壇が壊れたほどだ。逆の意味で威力に気をつけなければいけない。
その日は訓練よりも、むしろ【加工】で花壇を作り直すほうが大変だったが、手伝うクルーザは終始笑顔だった。
残りの三試合も、特に問題なく勝利した。
ベスト8は宮廷学校の風・水ペアで、弓とムチを手にしていた。
弓使いは最初の俺の突撃を横に回避し、着地中の俺の体側面を弓で狙っていたようだが、津波に耐えきれずにそのまま流された。万が一矢をつがえたとしても、輪っか状にした【盾】で弓士の指は抑えつけてはいたが。
水術使いのほうは、今回もクルーザが放水銃であっさり倒した。
準決勝は聖教会学校の土・水ペアで、手甲マッチョと槍だった。
マッチョはすっぽり盾に隠れた俺に攻撃するのではなく、盾を受け止めた。俺と組み技か寝技勝負をするつもりだったらしいが、勢いそのままに俺のマウント状態になり、聖タンポポ茶の身体能力強化もあって相手が沈む。これも溺死してはいけないので、ほどほどのところで引き上げた。なお、水術使いのほうは安定の放水銃で倒れていた。
決勝戦も聖教会学校の風・水ペアで、二人とも剣を持っていた。
開始と同時に大きく左右に展開して津波の角度から逃れたため、俺も津波には乗らずに男を追尾して距離をつめる。
俺とは逆側に離れた水術使いはまっすぐクルーザを狙いに出たが、カウンターで放水銃が入って二対一。
残った風術使いは剣で俺の盾を叩きながら逃げの一手になったが、進行方向に打たれた津波に足を止められ、俺の盾打撃でダウンした。
どの試合もクルーザの強さが目立つ展開となり、訓練どおりの結果となった。
表彰式の賞品の進呈役はジラール伯爵だった。
「はは、パートナーまで強いとは恐れ入ったよ」
賞品を手渡す際、きりりとしたイケメンオヤジは急に笑顔になり、狩りでよくやるハイタッチの姿勢をとった。
これもクリスの言っていた仲が良いアピールというやつだろう。もちろん俺にとっても望むところなので、満面の笑みで応えておいた。
受け取ったオリーブの葉冠をクルーザが俺の頭にかけると、王宮前広場に拍手が広がった。
次は俺の番だ。ジラール伯爵から銀のネックレスを受け取る。
クルーザはこちらを向いているため、うなじのうしろに俺が手を伸ばして金具を止める格好になる。慣れないことに不安を覚え、手元を見ようと少し身を乗り出すようにした瞬間だった。
クルーザは俺のほほに手を添え、軽く口付けをした。
広場は喝采に包まれ、あっけにとられる俺に抱きついてクルーザは言う。
「ありがとう、リュド。今は不束者の婚約者ですが、これからよろしくお願いします」
短い小説も書いてみました。
良かったらそちらもよろしくお願いします。
「高齢者は魔動車運転免許を返納せよ」です。




