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聖水騎士様はブラックが許せない  作者: 寺内ワタル
20/25

2-11 クルーザの暴発検証

前話

闘技大会の対ヴィドック戦


いったん回想話ですが、今回と次の話は細かい話です。


細かい話が嫌いな人のための三行まとめ


暴発するのは巨大な術力のせいで訓練は関係無し

いっそ大洪水出していこう

出す方向だけ前にお願いします

 時は内庭の訓練にさかのぼる。


「俺がクルーザと練習したいことは、大洪水を利用する方法、だ」

「だ、大洪水をですか」


 クルーザが困り気味に復唱した。困らせたくはないが、俺は大洪水のクルーザがいいのだ。


「実はクルーザが上級神術を暴発させる理由は見当がついてるし、いくつか裏付けも確認できた。だけど闘技大会までにそれを解決する手段となると厳しい」

「理由、聞いてみたいなー」


 アンナと違って口には出さないが、クルーザも目で訴えてきている。

 本人にしてみれば現状を変えるきっかけになる可能性はなんでも欲しいといったところだろう。


「じゃあまず神術の四つの手順をおさらいだ。術力を体全体で『流す』のが一番」


 体に術力をめぐらせる。聖タンポポ茶を飲んでないので、体を包む光は弱い。


「手の間に『集める』のが二番」


 続いて、光を手のひらの間に集める。


「個別の効果をイメージして『変換』するのが三番、その後にそれを狙ったところにイメージして『出す』のが四番。実際には三と四は同時だけどな」


【土壌良化】を発動して、白く小さなたくさんの光が地面にひらひらと落ちていくのを見せる。ただしここは石畳なので特に関係はないが。


「みんなは、この四つの手順のどこに問題があって、クルーザが上級神術を暴発させてると思う?」

「三番だ」

「三番だと思うー」

「三番だと思ってずっと訓練してます」


 これは予想どおりの答えだ。


「だがずっと三番の変換イメージの訓練をし続けている状態が、一年半続いている。そこを疑ってみたい」


 さっそく悩ましい顔になった三人に、続けて質問をぶつける。


「じゃあ質問なんだが、一、二、四じゃないと思う理由ってなんだ?」

「体に流すのも手に集めるのも、見た目で問題なくできていることがわかる」

「そうだな、むしろクルーザは誰よりも術力が多い」


 クリスと俺のやりとりを聴きながら、クルーザは体に青い術力をめぐらせ、そして手のひらに集めた。やはり抜群の術力の多さだ。


「三番の変換が失敗だと思う理由も、たぶん見た目だよな。なんせ出したい術の効果じゃなく、実際に出てきたのがただの水なんだから」

「うんー、【回復力強化】とか【氷作成】を失敗したときは水が落ちるよー」


 三人ともが力強くうなずき、アンナは具体例を挙げる。コトゥさん含む教衆者たちも、クルーザへのアドバイスは三番に終始していた。


「実際、俺も三番は苦労する。【土壌良化】は土を豊かに、【加工】は境目って感じのイメージなんだが、それを掴むまでは時間がかかった。だから術の練習イコール三番の練習だと思っていたぐらいだ」

「俺もその認識だ」


 クルーザだけは返事がないが、一つも習得できてない身だと発言しづらいのだろう。


「でも、一年半で成果がゼロってぐらいに変換下手だったら、クルーザが基礎神術の【着火】【風吹】【地固め】を問題なく使えるのはおかしいと思うんだ」


 そう、クルーザは水以外の基礎神術は問題なく使えていて、なぜか【水作成】は堅信式以後、暴発するようになっていた。

 三人はさらに難しげな顔になった。おそらく三人ともこの違和感はどこかであったはずだ。


「そこが気になったこともあったが、基礎神術と上級は別物ということで考えないようにしてたな」

「そーだよねー……」

「わ、私も基礎神術よりずっと上の変換イメージが必要なんだと思って……」

「むしろ、どうしてこの三つだけが使えるのか。そしてなんで堅信式から、もともと使えていた【水作成】まで暴発するようになったかが鍵だ」


 返答がなくなってしまった三人をよそに俺は説明を続ける。


「次に、先人の神術研究者が発表した説を紹介したい。『基礎神術の術力一定説』だ」

「難しそー……」


 アンナが露骨なしかめっつらをした。なるべく言葉だけにならないように、見せる説明を意識しながら続ける。


「実験をしたい。アンナ、今でも【水作成】を使えるか?」

「使えるよー」

「じゃあアンナ、【水作成】と【上級水作成】の違いってなんだ? 変換イメージは別か?」

「大きさかなー、イメージは全く一緒だよー」

「じゃあ俺の【水作成】よりも小さく、爪の先ほどの水の量を作ることってできるか?」

「こんな感じー?」


 アンナは器用に言われたとおりに少しの量の水を指先からたらした。


「実は俺とクリスにはこれができない」

「できないな」

「えー?」

「次にみんな【着火】を出してくれ」


 俺に合わせるように三人とも【着火】を使う。それぞれの手の間に、同じ大きさの火が灯った。


「誰かこれより大きい火、または小さい火を出せるか?」


 クリスは俺の言いたいことに気づいたようだが、アンナとクルーザは何回か【着火】をやりなおしして確かめていた。


「できないなー……」

「できないです」

「コトゥさんはこれができるってことだな?」


 クリスの説明含みの先走りはありがたい。


「そういうことだ」

「つまり、どういうことー?」


 聖タンポポ茶で術力が増やせるようになった直後に、俺もこのことには気づいていた。


「【洗礼】直後の講義で、どれだけ術力を集めるかなんてまったく教わってもないし、考えてもない。でも堅信前は、誰がいつどこでやっても同じ大きさの火・水・風が出るし、同じ硬さになる」

「基礎神術は使う術力が常に一定で、調整ができないってことだな」


 クリスは助手のワトソン君的な存在になりつつある。


「そういえば上級の習い始めに『これからは得たい効果や、規模に応じた術力の調整も必要になる』って教わりました」


 クルーザの発言に、アンナもそういえばと言いたげな顔になった。


「そうだ。そしておそらく【堅信】にはその基礎神術の術力一定の縛りを、選んだ属性のみ、消す効果がある。つまりアンナは【上級水作成】を新たな術として習得したんじゃない。【水作成】の術力一定の縛りが消えて、【上級水作成】に格上げになっただけなんだ。そして今でも使えていると思ってる【水作成】は、実は【上級水作成】を意識的に小さいサイズに調整して出してるだけなんだ」


 俺の言いたいことを裏付けてくれるかのように、クリスは手のひらの間の風を大きくしたり、小さくしたり操作してみせた。


「それと【堅信】にはおそらく、体に流れる術力がその属性に変わる効果もある」

「堅信式のあと、体の術力の色が変わりますね」

「この予想の裏付けだが、堅信式直後、選択しなかった属性の基礎神術って、難しく感じるようになるよな」

「あーあるあるー、私も【着火】は練習し直したー」

「堅信式前は体の術力が言ってみれば属性無しだ。堅信式で属性を得るから、他の属性の基礎神術に再変換するとなると少し難しくなるって感じなんだと思ってる」


 これはこの場に居ない人からも、あるあるネタだと聞いている。


 実はもう一つ、司教様に聞いた話で裏付けになるものがあった。

 過去にも術力の大きさで「神童」と呼ばれた子供の一部に、堅信式以降、術が暴発するようになった者が知る限りでも五人いたらしい。

 そして水術だった三人は問題なかったが、火で堅信式を受けた者は直後の炎の暴発で焼死、風を選んだ者は竜巻で転落死した。そのこともあって、術力が巨大な子供には水術を勧めるようにしている裏事情もあるのだとか。まあ水術の三人も結局生涯、上級を使えなかったそうなのだが。

 つまり「神童」も度をすぎると、冗談抜きの死亡フラグらしい。もちろんこの話を今ここでする気はない。


「つまり、クルーザが上級を使おうとして水が暴発するのは、『術力がそのまま飛び出てきている』現象だってことだ」

「それならやっぱり三番なんじゃないのー」

「そう思ってしまうところが罠だな。さっきアンナが言ったように【水作成】と【上級水作成】にイメージの違いはない。縛りが消えただけの同じ神術だから当然なんだが、クルーザは【上級水作成】だって暴発する。だから三番が原因じゃない」


 三人も『なるほど、ここまでは理解した』と言わんばかりの顔になった。


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