2-10 ヴィドック戦
前話
クルーザとペア結成
翌日、クリスは俺とクルーザを内庭に呼んだ。暇をしていたアンナも見物に来ている。
クルーザはさっそく水色のシュシュを着けてくれていた。おでこを出したポニーテールも似合っている。やはり可愛いは正義だ。
「ヴィドックについて、知り合いの宮廷学校生から少し情報をもらってきた」
用意周到なイケメンって素敵。しかもたった一日で。
三人揃ってクリスのブリーフィングに耳を傾ける。
風術と水術のペアで、どちらも術力はなかなかだということ。
パートナーは分家の次女で従妹であること。
剣のほか、金属線を編み込んだ大きな布を複数持ち込んでくることをクリスは説明した。
「その金属線が入った布をどう使うのー?」
「その布を丸めて足元に大量に用意し、開始同時に相手方向に放るらしい」
なるほど、まったくわからん。
「丸めた布はすぐに広がるようになってるそうだ。それを【上級風吹】と【上級水作成】で前方に吹きだして、布が相手を包んでから剣と金属杖で打撃を狙うようだな」
何やらせこそうな戦い方に感じる。とはいえペアどちらも術力が高く、先日の自信がありそうな態度を考えると油断は禁物だ。
「投網みたいだねー」
「それだ」
「それだな」
「それですね」
風と水ですぐに距離を詰めさせないのは、短時間だけなら有効だ。
術力が切れたあとに反撃されないよう、投網を同時にかぶせていく作戦なのだろう。
まとわりつかれてしまうと、金属線入りで水も吸ってる布はかなり動きを制限されそうでもある。
火術使いでもすぐに燃やしきることはできないだろうし、その強度なら土術使いのパワーも抑え込める算段なのだろう。
風同士の場合は押し負けない術力が戦略のベースにあるのかもしれない。
「で、勝算はどうだ」
「想定した準備ができるなら楽勝だ」
できなくても苦労はしないと思うが、言う必要もないだろう。
「どうやって戦うのー?」
「それはこれから始めるクルーザとの練習次第かな」
「わ、私ですか……」
クルーザは自信のなさで猫背気味になってしまった。
「俺がクルーザと練習したいことは――」
練習はすぐに実を結び、連携のテストも順調にうまくいって、闘技大会当日を迎えた。
聖都王宮前広場は中央の石畳のみ、色が異なっている。
どうやらここが闘技スペースとなるらしい。
排水溝もちゃんと作られていることに安心する。
しかし気になるのは観客の近さで、最前列まで四十メートルぐらいしか距離がない。
巻き添えになっても自己責任と係員が呼びかけているが、日本じゃありえないような大雑把な対応だ。
俺たちの試合では前のほうの観客はずぶ濡れになるだろう。
心の中で最前列の観客に謝罪をし、出場者の控えスペースへ向かった。
学生の部のソロ闘技は参加四十二名、ペア闘技は十五組だった。
抽選だと聞いていたが、示し合わせたかのようにヴィドックと俺は初戦のカードになっている。
ひょっとすると主催の王家がうわさを聞き、注目度の高い対決として組み合わせたのかもしれない。まあ好都合ではあるが。
一日目土曜日の朝一から始まった学生の部のソロ闘技は順調に消化され、今は決勝戦が行われている。
宮廷学校と聖教会学校の対決になっていて、生徒の応援も熱がこもっているようだ。
控えスペースから観戦していると、聞き覚えのある声が後ろから投げられた。
「ふん、逃げ出さなかったのはほめてやろう」
さらりとこんな発言ができるあたり、投網先輩はどうやら厨二病らしい。
歌のセンスといい、実は芸の才能が豊かな人なのかもしれない。
「決勝がおもしろいと思ったが、まさか初戦とはな」
「対戦できてよかったです。約束したので、もうあの店員さんのところでシャリヴァリはやめてくださいね」
「二日ほどからかっただけだ。どうでもいい」
従妹の前で恥をばらされたせいか、ヴィドックは少しいらだった表情になった。
ソロ闘技は宮廷学校のボウガン使い、しかも女性が優勝した。
【水壁】や【上級水作成】で距離と時間を稼ぎつつ長期戦にし、足の規定防具の隙間を狙っていくスタイルだった。
ボウガン使いが剣士や槍士の攻撃をかわしつつ戦う様子はアウトボクサーのようなはらはら感もあり、美人でスタイルもいいせいか、観客には大うけのようだ。
そこまで強くはないと思っていた水術使いへの認識は、改めたほうがいいかもしれない。
ソロ闘技決勝から時間を置かず、ペア闘技が始まった。
進行役の呼び出しの声が広場に響く。最後にもうひと押し聖タンポポ茶を飲んでおいた。
立ち上がって開始位置に向かうと、広場にざわめきが広がる。
「なんと、聖騎士様は武器を持っておらんぞ」
「大きな盾だけで、ペアの術士様も杖のみだわ」
「どのような戦い方をするのか、想像もつかんわい」
武器無しの俺に不安そうな声がちらほらと聞こえた。
おそらく、俺に大きく賭けている人なのだろう。
俺の真後ろにクルーザが立ち位置を取る。
ヴィドックを見ると、前情報どおりの武器を持ち込んでいた。大きさはメロンぐらいなので、どちらの手でも投げてくるのだろう。
準備の時間に制限があるわけではないが、闘技前に毎回これをやるつもりだったのかと言いたくなるぐらい、ヴィドックはたくさんの布を足元に準備した。
終わったあとに片付けるのも大変そうだが、二つの意味で今回はその必要もないだろう。
【始めっ!】
審判役の【拡声】が秋の高い空に響き渡る。
速攻で決めるという打ち合わせのとおり、俺とクルーザは同時に術力を開放した。
金色と白の術力がみなぎる体で駆け出す。
クルーザは真上ではなく、正面前方のみに巨大な津波を発生させた。
駆け出した俺は、津波が背中に到着する直前に飛び上がる。
背筋を伸ばし、大盾を正面に構え、膝を立てる空中姿勢をキープした。
大量の水が俺の背中を押す。今回は我慢する必要も無いのでタンポポ茶も大量に飲んできた。
この身を弾丸とした俺は、尿意すらも推進力に変え、ヴィドックに突撃する。
「なっ?」
ヴィドックは、予想外の事態だと言わんばかりの声と顔だ。
「輝く聖騎士様が、津波に乗って距離をつめたぞ!」
「ルゥド河に抱かれた、堅固なる聖都のようだわ!」
「あの構えに攻撃を加えられる隙なぞ無い! まさに聖なる壁じゃ!」
敵は驚きつつも、布と風と水を前方向に送ってきている。
しかし、布は俺の後方から押し寄せる大量の水にすぐに押し返された。
圧倒的な質量を持った津波はそのまますべてを飲み込む。
大盾で正面から胸を強打されたヴィドックは、そのまま仰向けで後方に転倒し、流された。
ヴィドックの胸に【盾】をおいて上から押さえつけることもできたが、この流れていってる状況でそれをやると溺死確実だろう。そのまま何もしないで問題はない。
残るは従妹――
そう思って左を見たタイミングで、従妹のほうも片付いていた。
膝上ほどの高さの津波に必死に耐えていた従妹だったが、続けざまにワインの瓶ほどの太さとなった水流を胸部に痛烈にぶつけられ、そのままそれが決定打となった。
振り返ると、クルーザは満面の笑みだ。
狙っていた結果になって本当に良かった。
練習内容の話は長いので次話です。




