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三題噺  作者: 犬山
2/2

ティーシャツ

三題噺ではないです。

なんとなく書きたいなという思いから生み出した作品を供養するのにこの場が最適で且つ最短だったので

 暑い。

 作業帽の下は蒸れ、汗が首筋を這う。汗を吸ったティーシャツが背中に貼り付いていた。午前中降り続けていた雨のせいなのか、工場の中は蒸し蒸しとしていた。湿気と共に周囲を漂うノスタルジーを感じさせる匂いは、雨のそれだ。

 暑い。

 作業中、意識して取り入れた一息、私はティーシャツの袖で頬を拭った。メッシュ地のティーシャツの柔らかく程良いザラつきが、汗で濡れる頬を撫でる。

 乱暴に拭ってしまったのか、作業に戻ってから暫くの間、頬には生地が擦れた感覚が残っており、慎ましやかに、それでいて確かにその名残を感じさせていた。

 煩わしくも新鮮な残滓。何故新鮮だと感じているのか疑問に思い数秒、あぁそうかと得心を得る。

 退屈なのか、と。

 作業は一貫して同じ内容であり、私はこれを一年続けてきた。となると、体の動きや指先の動きは慣れたもので、それは食事をするときの箸の扱い方と似て、態々意識して行うことではなかった。

 故に退屈だった。

 肉体的疲労と退屈が感じさせる精神的疲労は、神経を麻痺させ、ごく当たり前の所作でさえ新鮮な物に感じさせてしまうのだろう。

 奇妙な事だと述懐しながらもその新鮮な感覚を求め、私は今一度袖で頬を拭った。

 ザラリとした感覚。すると今度は嗅覚が匂いを捉えた。

 ……実家の?

 それはティーシャツの匂いだ。

 連休中、実家から持ってきたティーシャツ。持って行く前にと祖母が一度洗濯してくれたようで、真っ白なティーシャツには洗剤の甘い匂いがついていた。

 普段使っている洗剤とは違う匂い。県外に働きに出る前、実家に居たときはこれが当たり前だったのだと、私はその甘さを懐かしんだ。

 住む場所が変わり、環境が変わり、私はこういった匂い一つでさえノスタルジーを感じている。それだけ故郷というものが遠ざかったのだと思い、そして、

「洗濯物の匂いは変わるのに、雨のにおいは遠くに居ても変わらないんだな」

 と不思議に思うのだった。

テーマ「共感」

 着想を得て構想を練っていくにあたって、これは大切にしていきたいなと思っていたもの。

 親元を離れて一人暮らしを始める、みたいな物語を幾らかみてきたが、そういった作品を親元でみるのと一人暮らしを始めてからみるのとでは見方が違った。「こういうものなのか」という想像が、「これわかるかも」という共感に変わった。だからこの作品を制作するにあたって、主観を多く語りすぎず、作成したプロット通りに文章自体はあっさりと淡泊に執筆していこうと決めた。

 さて、その「物語」であるが、話の内容は至ってシンプル。自分がゴールデンウィーク中に感じた事を「私」に語ってもらった。それは故郷を思わせるものであったため、この度共感ありきの文章でまとめさせて頂いた。

 ごく当たり前の事に案外真理が隠れているもので、衝動的に書き上げたこの作品が、そして書こうと指先を動かしたこの衝動が、その「真理」を捉え、そして表現してくれていることを切に願う。


 地の文の間に会話文を挟むという書き方を恐らく初めてしたので、正しくない文章が出来ているかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで

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