第四話 悪役令嬢は亜麻色で
夜明け前。今日のお日様がもうすぐ顔を出す。良い天気になりそうだ。
海が見える見晴らしの良い公園は立派な戦場となっている。ただの丘陵ではない。
「はぁぁぁあ! たぁああ!」
黒いミニスカートがひらりと舞う。
パンチラなんて絶対に起こらない。
同じく黒の総レースのインナーは見えても良いのだろうか。カボチャパンツを見て喜ぶタイプも世の中にはいる。俺は幼女趣味ではないが心配になった。その前に、彼女自身恥ずかしくはないのだろうか。
「今だ! 長峰さん!」
度重なる二人の攻撃に耐えかね、魔物の膝が崩れた。
「はいっ!! エキストラッ! ラブリィーッビーィンム!」
赤とピンクの二色の光がハートの形を作りながら敵に届き、爆破が起こった。
ゴスロリ少女と全身ジャージのマッチョなおっさん。異質な組み合わせだ。
……何も言うまい。
「つまらない相手でしたわ」
左様ですか。え? 決め台詞? 唇に軽く右手の中指を添える決めポーズ付きで戦闘終了なのですか。そうですか。
決め台詞つくる? と疑問を込めて御仁を見上げる。彼は静かに首を横に振った。
目で語り合う俺達。気は合うのかもしれない。すすっと両手を出してきたので、慰労を込めて抱っこさせてやる。
「さすが僕のアスカたん! かっこかわいい!!」
黒うさぎが少女に駆け寄る。
「あ、ありがとうございます」
ポッと頬を赤く染め、俯く彼女は確かにかわいい。けっして、黒いレースたっぷりのゴスロリ風魔女っ子衣装のせいではない。
「背面からの足払い、よく分かったな。カウンターも決まってたし。すごいな。自分うかうかしてると主役持ってかれるなぁ」
ははは、と笑う豪傑。
あ、もう少し耳の裏、撫でてくれ。
動物慣れしてますな。モフモフマスターの称号を進呈しよう。
魔法少女はゴスロリ服から紺色のミニスカートつきのかわいいジャージに一瞬で着替える。魔法なのか早着替えが得意な子になったのか、俺には分からない。日本人離れした顔立ちや薄茶色の髪、青い目の色は変わらないから、外国の方が血縁者にいるのだろう。
「め、滅相もない! 相模さんに教わった通りに動いただけですわ」
一気に丘から走り下り、俺達の目の前に立ち止まって少女は答えた。耳まで赤くさせているのは走ったからだと思いたい。走ると暑くなるよね。けっこう距離あったもん。
「アスカたん、待って! 近寄っちゃダメ。脳筋が移っちゃうでしょ!!」
もう、原作気にしなくていいんじゃないかな。
桜が舞う卒業式、俺は魔王退治を女の子ではなく、たまたま出会った御仁にお願いした。相模さんは驚きつつも、快く引き受けてくれた。本当に感謝している。その場で住所を教えてもらい、後日、任命の魔法をかけに行った。その後は一人で魔王の手下どもを退治していたようで、めっちゃ強くなってる。すごく助かる。いい人だ。
服装? 相模さんお気に入りの青みがかった黒の上下のジャージに蛍光イエローのスニーカー(ともにアディ◯ス )に俺が保護魔法をかけて対応した。魔法少女の衣装よりも防御力が下がってしまうのだが、しょうがない。……しまった。女装姿を想像してしまった。オェッ。
出会ってから、早一ヶ月。俺は花粉症を知らぬ体に感動し、教わった魔法で試し打ちして遊んでいるうちに、相模さんは原作の中間ボスまで倒していた。
相模さんの戦闘服は、俺が魔法かけた時より防御力や回避率が上がっている。相模さんが自分で魔法を上掛けしているのだろう。
今、彼は俺を黒うさぎに押し付け、悪役令嬢の子と仲良くストレッチしている。うん。良い師弟関係だね。引き合わせたかいがあったよ。体育の先生と生徒に見えなくはない。縦巻きロールお嬢様とその専属コーチ、の方が違和感ないかな。
あ、相模さん、電車の時間になりますよ。早くしないと通勤ラッシュに巻き込まれちゃうから急がないと。足元のジャージを少し咥えて引っ張る。
「竹内くんのせいで、アスカたんのいじめっ子シーンなくなっちゃったじゃないか! 騙されたことに激おこするアスカたんも見たかったのに!」
俺は早く物語を終え、俺の知る日本に帰りたい。まだるっこしいコミニュケーションはカットする方向だ。魔王さえ倒せば良い。
「マリィー! ユウナー! 会いたいよぉ!!」
彼女達は今頃、夏の県大会に向けて朝練中じゃないかな?
主人公の色彩感覚が残念。亜麻色の髪と藍色の目って書きたかった。
乙女には春だが、筋肉には届きません。