第三話 出会いは桜吹雪で
サクラサク
ヲタを書くのも難しい。残念イケメンのはずが、ただのバカうさぎになっていく。。。
桜の花は掃除が面倒だ。
あまり好きではない。
「ホント、ごめんってばぁ。竹内くん寝ちゃった後、女神様と盛り上がっちゃってさぁ」
散る桜を見ながら、コンビニの外掃除を思い出す。バイト、無断欠勤になるなぁ。店長に謝りたい。俺、元の世界に戻れるかな。人間の俺、死んでいませんように。
両手の肉球同士をくっつけ、目を閉じる。あの女神は信用してないから、どっかの優しい神様に祈る。
「竹内くん聞いてる?」
「んあ?」
機嫌の悪そうな女の子の声がした。
今の自分の声が聞きなれない。そして聞きたくない。口を真一文字にして、眉間に皺を寄せる。
「人の話、聞いてた?」
全然覚えてない。長々としゃべっていたのは知っている。
上を向いて首を傾け、肩をすくめてジェスチャーした。
「ひどいっ! でもっ! それでもミリィはかわいいっ」
黒うさぎは前脚で目を抑え、ふるふると首を動かす。短い足だ。しかも、デカすぎる目がはみ出てる。抑えきれてない。頭蓋骨の中はほとんど目玉で埋まってるだろうと推測する。
「ねぇ、覚えて? マリィの名札は赤。フルネームはササキ マリイ。今はまだ中学生一年生だよ。ポニーテールをピンクの細いリボンで結んだ女の子だからね。可愛いからすぐ分かるよ。ユウナはサガミ ユウナ。カッコよくて頭の良い生徒会長だったお兄さんにコンプレックスを持ってるお団子頭の普通の女の子だよ」
肺の中の空気を吐き出し、まぶたを閉じる。柚木の話によると、この世界はアニメの世界で、女の子達が殴って蹴って振り回して、最後にみんなの力を合わせて、魔法でとどめを刺す。強さのインフレが起きつつも、ラスボスの魔王を倒せば物語は終わる。初っ端から魔法使えばいいのに。なぜバトる? そんな武闘派な魔法少女の任命は、俺達うさぎの役目らしい。
「卒業、おめでとう!」
突然、野太い声が耳を貫く。
驚いて眼下を見渡す。
桜の舞う青空の下、この中学校の卒業式は無事終わったみたいだ。卒業証書を持った中学生達がぞろぞろと出てきた。あちこちで卒業を祝う声が聞こえる。微笑ましい。もう少し近くで見たい。
涙を流す中学生が眩しい。
謎の草原から、柚木の魔法で原作主人公が通う中学校にやってきた。ここで原作の白うさぎは主人公に初めて出会って、彼女を魔法少女にする。
「たーけうちくん。もう、話聞いてよ! 僕はもうアスカたんに会いに行くよ! ちゃんとマリィに会って魔法少女にしてあげてね!」
黒うさぎは、小さな竜巻に包まれて消えた。ふっ、と長い耳が風になびく。
「魔法、使い方分かんねーんだけど」
自分の声と認めたくないから、あまりしゃべりたくない。けど、自己中に振り回され、思わず愚痴がこぼれた。
女子中学生にバトらせて、しかもこの世界の存亡まで任せるなんて出来ないから、まぁいっか。
桜は未だに、これでもかというほど舞い上がっている。黄色い悲鳴がただの悲鳴に変わっていく。誰かラッキースケベあったかな? とニヤニヤしながら地上を眺める。
中坊のくせにハーレム作ってるヤツの顔が赤かった。……一度死ね。
俺達は未確認飛行物体。自分自身、なんなのか分からない。普通の人間には見えないという柚木の言葉を信じて、正門横の駐輪場に下りる。
「何だ? お前」
ドスのきいた声に全身が痺れる。
首根っこを掴まれ、縮こまる。なくなってしまったナニも小さくなってる気がする。
申し訳ございません! 不審者ではありません! いたいけな少年を一発殴ってやろうなんて物騒なこと考えてません!!