第二話 目覚めは新緑で
風が心地良く冷たい。
大きくあくびして、コキコキっと首を鳴らす。青空が広がり、清々しい朝だ。
草っ原で寝てたけど。
遠くに森も見えるよ。
ここどこ?
まず、落ち着こう。意識してゆっくりと息を吐く。ふと、下を見た。自分の目がおかしい。毛皮を見た。白い毛。目を擦ろうとして、肉球が目に入った。小さなピンクの肉球。
NIKUKYUUUU!!
「のぉおおお!!」
鈴の音のような可愛い声が辺りに響いた。
「ミリィのプリティーな声でそんな雄叫びあげないでよ」
スカした声で元凶と思われるヤツが言った。そんなヤツも人間ではない。
「夢よ! 覚めろ!」
両腕を前に突き出す。小さな細い前脚が見えた。白い毛皮のついた俺の腕と思われるもの。ほわほわと柔らかい。
「ミリィは何してもかわいいね。竹内くん、気分はどう? お酒残ってる?」
柚木の声で、黒い毛皮のうさぎが聞いてきた。リアルうさぎではなく、二足歩行のうさぎ。柚木が好きなアニメに出てきそうな、大きくデフォルメされたうさぎ。頭を抱えてしゃがんだ。二日酔いではない頭痛がする。
「大丈夫? 女神様も二日酔いくらい治して転生させてくれたら良かったのに」
女神? 転生? 理解が追いつかない。あぁ、でもいつものことか。柚木のアニメ語りは真面目に聞いたことがない。勝手にしゃべってもらって、自分はスマホをいじってたりする。
「あ、でも、転生か転移か分かんないなぁ。ま、でもこの世界、楽しんじゃおっと。マリィに早く会いたいな。もちろんアスカたんにも、それにユウナにもナデナデしてもらいたーい」
俺は、自分の肉球を開けたり閉じたりした。グーパーグーパー。
「僕がヒナタだもんね。うふ。ぐふふ」
キモい。思わず黒うさぎを見る。青い目がキラキラして輝いているが、キモいものはキモい。
「はふぅ、そんなミリィの蔑みの入った目も滾っちゃうぅ! もう、分かってるって。マリィには近づかないよ。はじめは僕達、敵同士だもんね!」
どうしてくれよう。なんだか、肉体言語で話し合いたくなってきた。
「ぐふっ……」
黒うさぎは静かになった。
白うさぎは少し胸がすっとした。
どうやら、俺はアニメの世界に入ったらしい。柚木は今、流行りだよ! と力説したが、どうせ流行りなら違う流れに乗りたかった。理解したくないけど、柚木の話す女神様はもしかして、暗闇の中で聞いたあのヒステリックな声の女性のことだろうか。夢だけど、夢じゃなかった! フ◯ック! 今、人間の俺は眠っている状態なのだろうか。あー。分からない。
「ねぇ、これから僕達、ヒロイン達に力を授けに行こうよ。」
最後にもう一度、黒うさぎの腹に渾身の右ストレートを入れてから落ち着こう。うん。