最終話 充実していた証は小麦色で
「四中〜、ファイ、オー、ファイ、オー」
二十人近い女の子達が集団で走っている。みんな真剣でどことなく緊張感もある。
「次はどこと対戦だっけ」
「夕霧市の東中、石川高松ペアだよ」
「次勝ったら県大会だよ! 信じられる? うちらが県大会っ!!」
最後尾に近く、指導教員から遠い位置にいた二人がしゃべり出す。
「まだ決まってないでしょ、東中の石川さんはシングルで去年の県大会で入賞してなかった? 強そうじゃない。でも私達、勝って県大会行こうね!」
笑顔がキラキラと眩しい。思わず目を見開き、柚木と顔を合わせた。
松坂さんはこんな明るい笑顔を振りまくキャラじゃない。中の人が記憶にある冷静沈着で毒舌なメガネの子だとは思えない。でも、さすが松坂さん。対戦相手の情報はリサーチ済ですか。
「そこ、おしゃべりしないっ!! 佐々木さん、新井さん、まだ地区大会です。気を抜かないで頂戴。外周り十週追加!!」
「「ハイッ!!」」
女子中学生達は顔合わせて青ざめ、クスっと笑い合いながら、正門の外に走り去っていった。
正門の桜の木は新緑を迎え、心地よい風は塩気の含んだ生ぬるい風に変わってきている。
夏がくる。
「マリィ、変わったね」
「そこは松坂さん変わったね、だろ」
「僕のマリィは家庭科部で、お裁縫は苦手だけど、お菓子作りは得意な女の子だったんだ」
「まず、お前のじゃないし、今の佐々木真里衣ちゃんはテニス部でステキな小麦色の肌だ。俺は中の人が松坂さんっての方が信じらんない。橋本くんが聞き間違えたっつー方が納得する」
「あぁ、マリィ。アスカたんほどではないけど健康的な白い肌だった、ちょっと内気なミラクル・マリィ」
黒うさぎは両前脚で口を抑えて、首を左右にふるふると振る。
「松坂さん、勝気だったからなぁ。ゼミの質疑応答タイム、ほとんど松坂時間だったじゃん。……俺、胃が痛くなってきた。話しかけんの止めとかない? 元気そうならいいじゃん」
俺は小心者だ。認めよう。
「この世界が救われたことくらい伝えなきゃじゃない? ついでに僕達もいることとか」
「松坂さんは別人になりたかっただけでしょ。この世界が魔王が攻めてくるファンタジーな世界だって知らないんじゃない? アニメのモブと一緒だよ。どうやって世界の危機を知るん?」
「……僕達のことはどーする?」
「あとでまた橋本くんの『希望』の女神サマとやらに聞きゃいーだろ。そうだ。女神様経由で連絡してもらえば? うん。そうしよう」
「待ってぇ、ユウナは? せめてユウナの姿、見て帰らない?」
「ユウナ? 優奈なら今日バレエの発表会のリハーサルって言ってたから学校にはいないと思うぞ」
「は? なんで知ってんの」
「相模さんが今日のランチ一緒に食べるんだって楽しみにしてたからな」
「なんで相模さんが出て……」
「従兄妹だろ、相模優奈は。お前、言ってたじゃないか。優奈は、イケメンで優秀な兄に劣等感を持った普通の女の子だって。卒業式で見かけたんだ。相模さんの従弟を」
——そこじゃない。なんでそんなトコだけ覚えたのかな。
柚木の心の声と思われる言葉がテレパシーとして伝わってくる。
——お前こそ、なんで気付かなかったんだ? あんなにデカいハーレムだったのに。てか、その前に名前で思い出せよ。
黒うさぎがピンッと耳を立てて、青い目を鋭くさせた。
「テレパシーしてた。お前」
俺は何度かサトウさんに同じことしてる。強く考えてしまうと近くの相手に届いてしまうのだと思う。
「そっか、ごめん。転生ヒャッハーし過ぎて、アスカたん以外のこと疎かになってたね。ストーリー全部知ってたから過信してたのもあるし」
黒うさぎは明らかにしょんぼりと耳を垂れる。
「相模さんは一人暮らしだったし、そのアパートにもほとんど寝に帰ってるようなものだったから。それにほら、筋肉の付き方全然違うじゃん」
俺はとりあえずフォローを入れた。
「相模って苗字、あんまメジャーでもないから気付いても良かったよね、僕。今日は止めとこう。ちょっと僕もう帰るね、アスカたんに慰めてもらう」
黒うさぎがボソボソと呟きながら、小さな風に包まれて消えた。
そんな落ち込むことかな?
ま、いっか。橋本くんち行ってお菓子もらってこよう。ついでに、松坂さんのこともお願いしよう。うん。なんていい考え!
母なる大地は、今日も平和です!!
これにて本編終了です。
PVとか増えたら、またお礼SS書きたいと思います。
閲覧ありがとうございましたm(_ _)m