日曜礼拝での出来事
シルヴィアがグランゼリアを発っておよそ二週間。
特に何事もなくトラリシア王国へとたどり着けたのは神のご加護という事だろうか。
花が咲き乱れる草原を、心地よい風が吹き抜ける。
普段、神殿から見えるのは石造りの街並みだけ、シルヴィアの目に映る今の光景は疲れたシルヴィアの心を確かに癒していた。
そして、トラリシア王国の王城とその城下町が遠目に見え始めた頃から、シルヴィアの目に美しい景観以外のある物が映っていた。
「なんて、美しい光なのでしょう」
馬車の窓から見えたのは、城下町のある一点から放たれている光。
しかし、その光は馬車に同乗していた従者や、馬車の近くを騎竜にまたがり駆ける近衛の兵達では確認することができなかった。
そして、長い旅路も遂に終わり、シルヴィアはトラリシア王国の城下町外縁の城門をくぐることになった。
待っていたのは歓迎の音楽と城下町の住人たちの列、一目有名人の姿を拝もうと、常駐の兵士達までもが民衆の列に加わっていた。
戦時下での訪問でありながら、ここまで華やかな雰囲気での歓迎はここトラリシアが初めての事だ。
そして、シルヴィア一行はひとまず王城へと挨拶にむかうのだった。
一方で、キャロルとセシルは、この日。
風邪をこじらせて床に伏してしまった母親の看病をしていた。
「ほら、キャロル、セシル、あなた達もシルヴィア様の歓迎に行ってらっしゃい、私は、大丈夫だから」
「いえ、お母様がこんな状態なのに」
「放って出かけることなんか出来ないわ」
激しく咳込みながら言われても、行けるはずがない。
というわけで、この日一日、キャロルとセシルは母につきっきりだった。
「回復魔法を使えば一瞬で治せるんだがなあ」
「それやったら母様になんて言うんだよ」
「お母様の為に魔法を勉強しました! とでも」
「九歳の子供が独学で、昨日まで使えなかった魔法を一瞬で取得しましたとか軽く事件になるわ」
リビングで声を殺しながら話す二人。
冗談もそこそこに、キャロルは新しい手ぬぐいを絞るための水を汲みに近くの井戸へ。
セシルは母の為に食べやすいスープを作るために、台所に立つのだった、もちろん立っているのは椅子の上だが。
「役割が逆じゃねえかなあ」
二人の看病の甲斐あって、母は翌々日には回復し、またいつもの調子を取り戻した。
そして、この日は日曜日。
母と双子は毎週の習慣である教会の礼拝へと向かうのだった。
しかし、今日はいつもと様子が違った。
信者しか訪れない筈の日曜礼拝に、いつもと違う顔ぶれを教会の前でちらほら見る。
ちらほら、というか明らかに礼拝の参加者がいつもより多い。
「聞いたか? 今日は教会にあのシルヴィア様がお越しになるそうだ」
「ほう、そりゃあ行かねえ訳にはいかねえなあ、せっかくだしお近づきになりてえもんだぜ」
教会までの道すがら、城下町を見回っている警備の兵達から聞こえてきた会話から察するに、どうやらそういうことらしい。
今、教会の目の前に集まっているのは信心深い信徒などではなく、有名人見たさの野次馬という事だ。
母娘は一様に有名人目当てに礼拝に参加するとは、と同じようにため息を吐くのだった。