ある朝の話Ⅱ
朝食を食べ終え、母は支度をするために自室へと向かった。
その間、暇を持て余した二人はテーブルの上に今朝の新聞を広げ、椅子の上に立ってそれを見下ろしていた。
「今日のこの新聞の一面キャロルはどう思う?」
「連合軍優勢、先日の攻撃は魔族に大打撃を与えた、か。嘘ね」
「同意見よ、でも、根拠は?」
母親が聞いている可能性を考慮し、出来るだけ女の子らしく話そうと試みる二人。
既に数年女の子として生活しているためある程度慣れてはいたが、それでもどこかぎこちない、とくにセシルは話しにくそうだ。
「まず、次の見出し、各国の代表や王家の人間が会議の為にトラリシアの南に位置する街、レダニアに集結するとあるが、開戦して随分経つというのに、時期外れのこの会議、私はこれを各国代表の緊急避難と考えているわ。
次がその隣、彼女が枢軸国であるグランゼリアから、ここトラリシアに来臨するとあるが、これも前者と目的は同じに思えるわね。巫女である彼女が首都を離れるってよっぽどの事よ?」
「おおむね同意見、というか私はそっちの巫女様の記事しか見てなかったわ」
彼女、グランゼリアの巫女といえば、この世界で最高位の女性神官であるシルヴィア・プレトリウスの事を指す。
その彼女、シルヴィアの仕事はグランゼリアにある世界最大の神殿の奥で祈りをささげ、時には神託を告げる、いかにも神職らしい仕事である。
年齢は20代半ばであるが、彼女の能力は本物で、告げられた神託は間違いなく現象として民の前で起こり、彼女の祈りは病気や呪いの解呪にも効果がある。
色白で線が細く、美人で優しい。
それゆえ、グランゼリアの民の中には神ではなく、彼女を偶像として崇め奉る者までいる始末だ。
そんな彼女が普段絶対に離れない神殿から外出し、しかも、グランゼリアからは恐ろしく遠いこのトラリシアに来臨するという。
「確かに、避難という見かたもできるけど」
「トラリシアよりも軍備の整っている国はまだあるわ、わざわざここに避難する理由はないと思うのだけれど」
「神託かしらね?」
「さあ、こればっかりは推測の域をでないわ」
腕を組んで考え込むキャロルとセシル。
二人の会話が途切れた丁度その時、母親が自室から姿を現した。
鞄を持ち、外出用の服に着替え、準備万端といった風だが。
椅子の上に立つキャロルとセシルを見て、母は一瞬目を丸くすると、すぐに眉間に皺を寄せた。
「こおら、二人とも、その椅子の上に立つのを止めなさいって何度言ったらわかるのかしら?」
「しまった、警戒を怠ったわ」
「ごめんなさい母様」
「まったく、あなたたちったら。もう9歳になったんだからね? 来年の今頃にはもう10歳になるのよ? たまにこうやって女の子らしくない事してるせいで、お母さんはあなたたちの将来が心配で——」
こうして、教会に出かけるまでの少しの間、しばらく母の説教が続くのだった。