武器を振ってみた
そそくさと離れるセシルを追わず、キャロルは闘技台へと上がった。
剣を構え、まずは一振り横薙ぎに振る。
「ああ、壊れる心配は無さそうだ」
確かな手応えと安心感に安堵の笑みを浮かべるキャロル。
しかし、笑みを浮かべるキャロルとは対象的に闘技台を囲む兵士達は戦々恐々といったところだ。
それと言うのもキャロルの一薙の剣圧が訓練場の壁に傷を穿ったからだ。
「さて、では全力ではどうかな」
そして、キャロルが次の瞬間には自身と剣に強化術式を掛け始めたのを見て、一同は次にキャロルが何をするのかを簡単に想像できた。
「総員、結界術式起動、範囲は闘技台周辺のみだ。
対物理防御特化、ほら急げ、また闘技台ぶっ壊れるぞ。
セシル、お前も手伝え」
「了解っす姐さん」
込められていく魔力の量と質に冷や汗を浮かべるリアは、指示を出し終わると、自身も兵士達と同じく結界術式を起動させる。
闘技台周辺の機材による結界術式発生装置と、リアやセシルも加わり兵士達と協力して何重にも結界術式や防御術式を掛けていく。
クロエはリアとセシルの後ろで腕を組み一人完全に観戦の体勢。
リアはセシルと共に結界術式を多重起動していくが胸中は穏やかではない。
「コレ、押さえ込めるか?」
「任せて下さい姐さん、アタシが着いてますって!」
「不安しかねえ」
この魔力の奔流の中、一人笑顔だったのはセシルだけだ。
そして、キャロルが魔力を込めるのを止めた時、それが皆の想像を想像通りになぞった瞬間となった。
肩に担ぐように剣を構えるキャロル。
その姿に入隊試験時のルクスとキャロルの最後の一撃を繰り出した姿を皆一様に思い出していた。
「ふー。
はああああ!!」
一呼吸置いてから、キャロルの雄叫びと共に剣は振り下ろされた。
害意も敵意も殺意も無い、ただの素振りではあるが、恐らくこれが、キャロルがキャロルとして初めて出す全力の一撃。
結果はセシルが貼った結界術式がギリギリ崩壊しなかった以外は全損。
闘技台消失、入隊間も無い兵士の失神とリアにとっては惨憺たる有り様。
キャロルにとっては自分の全力に耐えうる武器との出会いという最高の結果となった。
「凄い。
神に与えられた聖剣ではなく、人が造った武器が私の力に耐えきるとわ」
剣を掲げるキャロルと、見届けた開発者であるクロエは晴れた表情だが、リアはそんなキャロルが招いた惨状に頭を抱えた。




