局長のクロエ
ルクスの案内でやって来た扉の前。
扉の造りはルクスの執務室と同じく他の隊員達の部屋より若干装飾に違いが見られる。
つまる所、この扉の向こうにいる人物はルクスとほぼ同等の権限をこのファクトリー内で持っているということになる。
「今からキャロルちゃんに会ってもらうのは、このファクトリーの勇者達全員の武器防具製造を研究開発している第一人者でね。
まあちょっと変な人だけど悪い人じゃないから」
「聞こえてるわよ、誰が変な人よまったく」
ルクスが扉をノックしようとした瞬間に開かれた扉から1人の女性が現れた。
赤い髪を後ろでまとめた眼鏡を掛けたその女性は扉を開け放つと着ている白衣を翻し、部屋の奥へと向かって行った。
「失礼します」
ルクスとキャロルはそう言いながら部屋に入る。
まずキャロルの目についたのは壁に掛けられた折れた大剣だった。
「ソレは当時の私がルクス君に作った一本でね、最強の勇者に最強の武器をって意気込んで打ったんだけど。
まあご覧の有様でね、戒めとして飾ってるのよ。
じゃあまず自己紹介からかしら、私が装備開発研究局局長のクロエよ皆からはクラフトマスターとかウエポンマスターとか、マスタースミスとか呼ばれてるわ、よろしくね新人さん」
「お初にお目に掛かります、この度トゥルースの末席に加えさせて頂きました、キャロル・リフテルです。
よろしくお願いしますクロエ局長」
「うん、良い子ね。
さあ後はこっちに任せてルクス君は仕事に戻りなさいな」
「そうさせて貰います、じゃあクロエさん、後を頼みます」
そう言い終わるとルクスは部屋を後にする。
クロエが綺麗好きと言うのは本当のようだが、部屋自体は片付けられているが、執務机の上だけは散らかっている。
どうやら探しものをしていたようだ、書類の上に何やら鍵が1つ置かれていた。
「さて、用件を済ませちゃいましょう。
話はその後でゆっくりと」
「はい。
私の武器を用意してくださるそうですが」
「そうよ、あなた達勇者、特にトゥルースの武器は基本的に私が造ってるの、で、キャロルちゃんにも武器を用意したんだけど、まあちょっと着いてきて見てもらいましょうか」
そう言うとクロエは机の上の鍵を取り部屋の奥へと向かう。
「ああ、その前に」
不意に足を止め、振り返ったクロエが指を執務室に向けると魔法でもって散らかった書類達を重ねて片付けていく。
「よし、じゃあこっちに来てちょうだい」
手招くクロエ。
その表情はこれから幼気な少女にプレゼントの洋服やアクセサリーを見せる前の優しげな笑みを浮かべていた。




