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魔王様の提案

 魔王城の中庭。

 ここはアンジェリカが造ったお気に入りの場所だ。

 魔王城に務める魔族であろうとも、結界で隔離されたこの場所にはアンジェリカが許可した者しか立ち入る事が出来ない。

 荒涼とした魔王城周辺の景色と違いこの中庭には蒼い芝生が広がり、花が咲き誇っている。

 その中庭の中央、屋根付きのテラスにはアンジェリカとバジリウス、そして円形のガラステーブルを挟んで鬼人族の代表であるカンナが座っていた。

 その中庭でバジリウスの入れた甘くて冷たいコーヒーを一口飲むと、アンジェリカは満足げに微笑む。

 

 「ん~、美味しい。

 バジリウス、あなた何でも出来るわねえ」


 「陛下の為ならなんでもしますよ、私の存在は陛下あってこそですから」

 

 「じゃあ私が死ねって言ったら死ねるかしらん?」


 「もちろん、あなたの為なら」


 意地の悪い質問に、真顔で応えるバジリウス。

 そんなバジリウスにアンジェリカはため息を吐くが、どこか満足げに微笑んでいた。


 「姫様はバジリウス様がお好きなんですね」


 「面白い事を言うわねカンナ、まあ確かに嫌いなら傍には置かないけど」


 「で、姫様。

 私をこの場所に呼んだのは何故なんです?」


 「ちょっとお茶がしたかっただけ。

 ってわけじゃ無いわ」


 再びカップに口を付け、コーヒーを飲み干すアンジェリカ。


 「カンナ、貴女は信頼できるから此処に呼んだわけだけど。

 まあ今回の停戦期間中にね、バラバラになっている魔界でも統一しようかと思ってるのよ

 連合軍を結成しているし、今は私が魔王の座についているわ。

 でもこの戦争が終わった後はどうなると思う?」


 アンジェリカの質問の真意は見えない、しかしなんとなくではあるが、カンナにはアンジェリカが何を言いたいかは想像出来ていた。

 

 「そうですね、人間界の勢力を一掃できたとしても、次は魔族同士で土地の奪い合いが始まると予想しますが」


 「そうね、そして魔族もいつかは滅びるわね」

 

 「故に姫様が真の意味で魔界を統一すると?」

 

 「そういう事よ。

 だからとりあえず古い体制と、それにしがみつく古狸達をまずはぶち壊して、後はそうね、人間の真似事でもしてみようかなって」


 「人間の真似、ですか」


 「あっちに勇者養成機関があるように、此処に魔王養成機関でも造ろうかしらって思ってね、古い家系の中でも使えるリュウザキ家には色々手伝って欲もらいたいわけ」


 悪戯を思いついたようなアンジェリカの笑顔。

 その笑顔と提案にカンナは一瞬考えるが、断る理由があるはずも無い。

 リュウザキ家はアンジェリカの言った通り魔界で1、2を争うほどに歴史が古く、そして遥か昔から魔王の一族と共に生きてきた。

 ならば答えは決まっている。


 「分かりました、魔王陛下の頼みでしたらなんなりと」

 

 「よし、では使える人材の洗い出しをバジリウスと共に頼む。

 私はちょっと停戦に反対した奴らを殺してくるよ」

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