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ある朝の話

翌朝。

キャロルは窓から差し込む日差しで目を覚ました。

まだ重たい(まぶた)をこすり、タオルケットをめくる。


パジャマと大して変わらないワンピースに着替え、衣装棚の近くにある姿見で自分の姿を確認しながら跳ねた寝ぐせを手串でもってとかしていく。

自分の姿を見ながらキャロルは考えていた。


なんとも奇妙な光景だ、と。

男であった自分が新たに生を受け、今女性として生きている。

救いだったのはこの世界が以前いた世界とよく似ているということだ。


セシルの話だとこの世界はセシルの以前いた世界とは完全に別世界だという話だった。

セシルよりはまだ恵まれているという事か。

文句を言いたいわけではないのだ。

少し、いや、間違いなく今のこの生活を楽しんでいる自分がいる。

勇者の資格を得てからという物、このように日常を甘受したことはなかった。

だが、それにも限界が近い、私にはそう思える。

神は時間が無いと仰っていた。

それでもここまでは無事に成長できた、女手一つで私達を育ててくれたお母様には感謝してもし足りない。


身嗜み(みだしな)を整えたキャロルは自室のドアを開け、朝食を作っている母親の元へと向かった。


「おはようキャロル」

「おはようセシル」


丁度セシルの部屋の前を通った時、扉が開いてセシルがひょっこり顔を出した。


「セシル、髪を整えなさい、ぼさぼさじゃないの」

「え~、めんどくさい」


ほぼ日課となった朝のやり取りをしながらリビングに着くと、母親は二人を笑顔で迎える。

世界を救う、その前に、この生活を全力で守りたい。

ただ、そうするためには、どの道、世界を魔族の支配から救わねばならない。


「おはようお母様、今日は礼拝に行く日ですよね」

「おはようキャロル、セシル。今日は日曜日だしね、ご飯食べ終わったら教会に行きましょうか」

「ああ、いけない。忘れてたわ、じゃあちゃんと髪とかさないと」

「セシルいいわ髪は私がはやってあげる、お母さんにまっかせなさい」


ああ神よ、約束いたしましょう。

私は全力をもってこの世界を救ってみせます。


双子の胸中に込み上げてくる決心。

転生以前は縁も因もない他人だった彼らだったが、今の彼女らは間違いなく血の繋がった姉妹なのだ。


しかし、やはり問題は性別と年齢。

男は15にもなると成人とみなされ、徴兵を待つまでもなく義勇軍への参加も許されたが、九歳の女の子がいかに勇ましく吠えたところで軍へ参加などさせてもらえるはずもない。


今の二人にとり、当面の問題はそこだけだ。


こっそり抜け出してちょっと行って魔族を倒してくる。

それは無理な話だ、最前線からここ、トラリシア王国までは距離がありすぎるのだから。


「さあ出来た、今日はベーコンエッグよ。さあいただきましょうか。じゃあ今日の祈りの言葉はセシルにお願いしようかしら」

「はい、母様」


母親が食事を並べ、席に着くのを待ってセシルは胸の前で両手を合わせて握る。


「天におられる我が神よ、皆が救われますように、神のご加護がありますように、御心が天に行われる通り、この地でも行われますように。

私達の日ごとの糧を今日もお与え下さりありがとうございます。

私達の罪をお許し下さい、私達も人を許します。私達を魔からお救い下さい」


「神のご加護を」最後に三人で揃ってそう言うと親子は食事を始めた。

その中でキャロルは祈りの言葉を思い出しながら思うのだ。


『私達の罪、今こうしてのんびり暮らしている事かな』と。

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