魔王城会議
人間界と海を挟んだ遥か南の大陸、その中央に位置する魔王城。
その城の1室ではその日、魔界の各地を束ねる貴族達が集まり会議を行っていた。
円卓に集まった貴族の中にはもちろん現魔王、アンジェリカの姿もある。
「バジリウス、紅茶じゃ味気ないわ、コーヒーに変えて頂戴」
「かしこまりました陛下、いつも通り砂糖とミルクは多めで構いませんね?」
「お前の世界にあったコーヒー牛乳位には甘くしてもらえると嬉しいわねえ」
「お任せください、では」
バジリウスがカップを持って退出するのを手をヒラヒラ振ってニコニコ笑顔のアンジェリカ。
だが、上機嫌に笑っているのはアンジェリカだけで他に集まった貴族達は眉間に皺を寄せ、苛立ちを顕にしていた。
しかし、皆が一様に苛立っているわけでもない。
中には目を伏せ浮かない表情の者もいる。
「陛下! いつまで進軍を停止するおつもりですか!?」
「そうですぞ魔王様! 陛下のお力と魔獣達の数、そして我々魔族連合軍なら人類の殲滅など、もはや容易いではありませんか!!」
「何故停戦などと仰るのか! 理由を、我々が納得出来る理由を教えて頂きたい!!」
ある貴族の言葉を皮切りに次々と声が上がる。
それらの言葉の雨をアンジェリカは無視し、隣に座って顔を伏せている貴族の1人に手持ちの菓子を渡した。
その魔族は額から2本の角を生やした鬼人族の女性で名をカンナ・リュウザキと言う。
このカンナ、というよりはカンナを含めた鬼人族は遥か昔、この世界に転生した日の本の人間が先祖におり、名前と鬼人族の文化にその特徴が色濃く受け継がれている。
それこそ今カンナが身につけている着物などがそうだ。
そのカンナだが、アンジェリカに渡された菓子を受け取ると、辺りの目を気にすることなく静かに口に運ぶと「あら、美味しい」と舌鼓をうっている。
「くっ、この――」
声を荒げ、くそ餓鬼、と言いそうになったのを我慢する貴族の1人が拳を握りわなわな震える。
アンジェリカはさることながら、このカンナも鬼人族代表としてこの場にいるが、見た目には人間で言うところの十代半ばくらいにしか見えない。
実際長命な魔族の中ではアンジェリカとカンナは若い部類だ、アンジェリカに至っては生まれてから本当に十年しか経っていないのだから。
「構わないわよ? 言いたい事があるなら言いなさいな、不服なら私がお兄様をそうしたように私を殺して新しい魔王になれば良いわ、世襲なんて下らないの、実力が魔界では全て、戴冠式に私が言った筈よ?
反乱、謀反、クーデター、まあ意味は一緒か。
内通、謀略大いに結構、私を楽しませてくれるなら何でも良いの。
今回軍を止めたのもそう、私が楽しむためよ? 大好きなステーキを前に焼き加減やドレッシングを選びながら舌舐めずりするのはいけない事かしら?
大好きなデザートのストロベリーケーキを前にストロベリーを最初に食べるか、最後に食べるか悩むのはいけない事かしら?」
「ケーキの話はともかく、お肉を前に舌舐めずりは、はしたないですよ陛下」
「ん、確かに例えがお下品だったかしら」
アンジェリカの言葉にカンナが口元を抑えながら言う。
まるでこの二人だけ会議と言うよりは談笑しに来たような雰囲気である。
「こっの! 下手に出ていれば――!!」
頭に血が登った1人が円卓を叩き、立ち上がるとアンジェリカに向かって魔術行使の為に手を翳さした。
「私とて先々代とは魔王の座を争った身、奴の孫娘だと目を掛けてやっていたがもう我慢ならん!! 魔王の座を渡してもら――」
パチンと指を鳴らす音が会議室に響いた。
その音と同時に、アンジェリカの対面で魔術を行使しようとした男の上半身が破裂し、血飛沫が舞う。
「奇襲強襲は迅速的確に、そんな事常識じゃなくって?」
指を鳴らしたアンジェリカが意地の悪い笑みを浮かべていた。
「まあ、こうなりたいなら何時でもおいで、私は逃げも隠れもしないわ。
進軍停止は最低でも5年よ、それまでは軍備の増強、新兵器開発、練兵に時間を費やしなさい。
まあ準備が整えば向こうから先にダンスのお誘いがあるかもしれないけどね」




