勇者対勇者
二人が先程まで立っていた場所に、小さなクレーターが出来ていた。
キャロルは背中から後方に向かって魔力を噴出させ、一気に加速。
その様子はルクスや他の者からはキャロルが翼を生やしたように見えていた。
一方でルクスも大剣から魔力を噴出させ、その勢いで加速する。
ルクスの魔力はキャロルの翼とは違い、激しく揺らめく蒼い焔を思わせた。
翼を広げた少女と、蒼い焔を纏ったファクトリー最強の男。
踏み込む両者の距離はあっと言う間もなく狭まり、お互いの射程圏内に入る。
どんなに加速していても、剣を振り下ろす際には止まる必要がある。
威力を乗せるためならなおさらだ。
闘技台の中央で二人は同時に止まるが、その制動力に闘技台が悲鳴を上げた。
円形の闘技台に中央から放射状にひび割れ、遂には隕石でも落ちたのかと思うほどに捲れ上がった。
もちろん隕石など落ちる訳がない。
闘技台の中央で両名ともに相手目掛けて剣を振り下ろしただけだ。
鳴り響く爆音、逆巻く爆風、立ち上る土煙。
更には闘技台に張られた幾重もの結界がまるで硝子が割れたように砕け散る。
惨状だけ見れば闘技台の中央で極大の爆裂術式が炸裂したようにしか見えなかった。
「二人共吹っ飛んだんじゃねえの?」
この惨状にはセシルも冷や汗を滲ませる。
思えば姉がここまで力を行使したのは初めてだ、トラリシアでアンジェリカと戦った時ですら
全力は出していない。
まあそれはアンジェリカにも言える事なのだが。
「いるのか、ルクスと正面きって戦える奴が」
リアが目を丸くして言った。
ラデラ平原の魔族の大侵攻。
あの戦いを勝利に導いたのは確かにブレイブファクトリーのトゥルース達だ。
しかし、ルクスに至っては一人で敵陣最奥に突貫すると、獅子奮迅の活躍で後続を殲滅していき遂には背後からの挟撃でラデラ平原の魔族を全滅させている。
傍から見れば優しそうな、いや、普段は優しく、花いじりが好きなこの男が間違いなく、現人類最強なのだ。
ふと、風が凪いだかと思うと、闘技台の土煙が晴れた。
ルクスが剣を振った風圧で土煙を払ったのだ。
しかし、晴れた土煙から現れた大剣はその刀身を半分程度失っていた。
「いやぁ、凄いね、本当に凄いよ。
まさか折られるとはねえ」
「こっちは無くなってしまいましたよ」
闘技台、いや闘技台だった瓦礫の中央に立つキャロルは、柄だけになってしまった剣だった物に視線を落として肩をすくめた。
爆心地にいたはずの二人だが、軍服は一部破れたりしているが怪我などは見受けられない。
「一合打ちあえば力量は解る、とはいえ、真正面からぶつかって来るとはねえ」
「知りたかったんです、人類最強と呼ばれる総隊長のお力を」
「お眼鏡にはかなったかな?」
「全力を引き出せなかったのは残念ですが、堪能させて頂きました」
「全力を引き出せなかったのは僕の方も同じだよ、でもまあコレは試験だから。
合否は言うまでもないけどね、改めてようこそブレイブファクトリーへ僕達は君達姉妹を歓迎するよ」




