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ルクスVSキャロル

 試験の形式を聞いた時から、キャロルには予感があった。

 相手は恐らく、ブレイブファクトリー最強の男ルクス・ヴェルだと。

 確信があったわけでは無い、しかし何故かキャロルにはそう思えて仕方無かった。

 アリーゼと戦った時に感じたのだ、止めに入る前のルクスの視線を。

 アレはそう、例えるならば好奇心に心躍らせる少年のソレだ。

 詰まるところ。


 「総隊長も戦いがお好きなようだ」


 「まあ、嫌いなら総隊長なんてやってないよね」


 違いない、とキャロルは心の中で共感する。

 かつて、前世の世界でも旅の途中、仲間に似たような事を言われた。

  

 「なんだかんだ言って、勇者って戦闘狂よね」


 セシルにも以前言われたが、この言葉は前世の世界で仲間の一人に言われた言葉でもあった。

 その言葉に「まあ嫌いなら勇者なんてしてないさ」と仲間に返した事を思い出してつい笑みがこぼれてしまう。

 

 闘技場に上がるルクスとキャロル。

 円形の闘技台の端に立つ両名はお互いに剣を抜く。

 ルクスは、長さは身の丈程、幅はそれ程太くは無いが、常人では持ち上げるだけでも苦労しそうな重厚感の大剣。

 一方のキャロルも似たような剣だが、それは体格が小さいためにそう見えるだけであって、キャロルの持つソレは、ブレイブファクトリーの正規兵が持つロングソードその物だった。

 

 「ごめんねキャロルちゃん、ちょうど良いのがなくて」


 「いえ、少し軽いですが、良い剣です。

 この試験の間は保つでしょう」


 「良い鍛冶職人を知ってるから、また今度教えてあげる、専用の剣を打ってもらうと良いよ」


 「ありがとうございます。

 では、そろそろ」


 「うん、やろうか」


 和やかな空気が一変。

 ルクスとキャロルが同時に剣を構えた瞬間、観戦席から音が消えた。

 二人共に剣を両手で肩に担ぐように構える。

 示し合わせたかのようなその同じ構えから、これから起こる事が候補生達にも分かるのだ。

 ルクスもキャロルもありったけの強化魔術を剣と自身に掛けていく。

 

 「真っ正面からぶつかる気かあいつら」


 「剣士の考えはアタシには分かんないなあ」


 試験を終えたリアとセシルが並んで闘技台から離れた壁際で観戦していた。

 闘技台で剣を構える二人が少し膝を曲げ、前傾姿勢になる。

 しかし、まだ両者前に出ない。

 張りつめられた弓の弦、伸びきったスリングショットのゴム、銃の引き金に掛けられたいつ動くか分からない指。

 そんな物がルクスとキャロルの状態から連想出来た。

 息を呑む事すらはばかられるような緊張感、ファクトリーの総隊長ルクスからソレを感じるならまだしも、幼い子供にしか見えないキャロルからも同じ緊張感を感じる面々。

 

 「バケモンがよお」


 「同感っす、アレの前には立ちたくないねえ」


 冷や汗が滲むリア、苦笑するセシル。

 闘技台に渦巻く魔力と闘気、その密度は凄まじく、訓練された軍人でも二人の間に割って入る事など不可能だろう。

  観戦席の誰かがその息の詰まる緊張感に耐えきれず、固唾を呑んだ瞬間だった。

  

 爆発音が闘技場に響いた。


 爆発物の類いではない。

 闘技台でにらみ合っていた二名が、一歩大きく踏み出した際、闘技台を踏み砕いた音だった。

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