アリーゼVSキャロルⅢ
いつからだろうか、勝利の瞬間や余韻ではなく、戦いそのものを楽しいと感じるようになったのは。
村の自警団の一員として、初めて魔物と戦った時は無我夢中だった。
闇雲に剣を振り回し、魔物の一挙一動を恐れて盾を構えたのは覚えてる。
だが、その後はどうだったか。
次に村に魔物が現れた時には私は魔物の殺し方を理解していた。
村を離れ、冒険者になり、仲間と出会って、別れて。
色々あった、本当に色々あった。
それでも戦いの中にある時、私はどんな時よりも楽しい時間を過ごしていたと思う。
戦う相手が強ければ強いほど、厄介であればある程、血湧き肉躍った。
薄皮一枚で剣を避け、眼前に迫る魔法を弾いた時には心の臓が早鐘のように脈打ち、高鳴った。
それはどうやら生まれ変わっても変わらない。
キャロルとして育っても私はどうやら、戦闘狂の気は抜けないようだ。
眼前に迫るアリーゼの戦鎚を寸での所で屈んで避け、水面蹴りを放つ。
アリーゼもソレを跳んで避ると、隙だらけのキャロルに今度こそ戦鎚を振り下ろすためにキャロルと同じく宙に足場を作り、加速し、戦鎚を振りかぶる。
しかし、キャロルが地面に着いた手から広げた魔法陣。
そこから伸びた無数の岩石の杭がそうはさせまいとアリーゼの眼前に迫る。
「っちい!」
舌打ちしながら眼前の杭を戦鎚で薙ぎ払うアリーゼ。
岩石で出来ているはずの杭は積み木でも崩すかのように容易に弾け飛び、破片が弾丸のごとく飛散して壁や地面に穴を穿った。
しかして、この行動がアリーゼにとって致命的な隙になる。
相手がキャロルで無ければまだ戦う余地はいくらでもあった筈だった。
しかし、着地して、一瞬離した視線を戻した時にはアリーゼの眼前にはキャロルの剣の切っ先が突き付けられていた。
「ま、負けたわ」
「いえ、良い手合わせでした」
「いや、あたしは巻き添え食って死ぬところだったんだが」
見ればセシルのすぐ横にアリーゼが砕いたとはいえ、大人すら潰せそうな残骸が刺さっていた。
「あれ、終わっちゃった感じかな?
残念、面白そうだったのに」
ふと、聞こえてきた声の主を確認してアリーゼが拳を軽く握り、胸に当て、敬礼する。
キャロルとセシルが振り返った先、闘技場の入り口付近にいたのはルクスとリアの二人だった。




