生まれた双子
王国歴にして500年の節目を迎えたこの年、花も咲き乱れる温暖期。
大陸の片隅に存在する小国、トラリシア王国の城下町に双子が生まれた。
珍しい双子の誕生と母体の無事に近隣住民は喜び、双子と母親の退院を待って町の広場でパーティーが開かれる事となった。
「まあ、なんて可愛いのでしょう」
「双子と聞いていたけど髪の色は違うのね」
「見て、この寝顔、とても愛らしいわ」
赤子を抱く夫婦を囲み、ご近所の奥様方は上機嫌に賛美の声を上げている。
そこから一歩下がった場所で、その奥様方の旦那達は喜ばしい出来事に笑みを浮かべてはいたが、どこか物悲しそうだった。
「ああ、こんな時代に生まれてきてしまうとは」
「戦争さえなければ平穏無事に過ごせたろうに」
つい呟いてしまった言葉に、一瞬和やかな場に影が差した。
トラリシア王国は周辺国家との連合王国のうちの一国である。
その連合王国は現在、戦時下にあった。
トラリシアは連合王国の中でも最も敵地から離れた場所に存在するものだから、まだ平穏な雰囲気ではあった。
彼らの敵は、魔物を率いた魔族の国家。
デモニウス連合を名乗る魔族らは、人間たちが住む大陸とは別の大陸で暮らしてきた。
人間は北の大陸、人間界で、魔族や魔物は海を挟んだ南の大陸、いわゆる魔界で。
決して遠くない距離に二つの種族は存在したが、それでも数年ほど前まではお互いに不干渉を貫き生きてきた。
しかし、新たに就任した魔界の王は人間界に土地の割譲を要求、これに拒んだ最南端の国との間で起こった小競り合いから、いつしか北の大陸と南の大陸を巻き込んだ戦争に発展していった。
「二人に神のご加護を」
「我ら人類に光を」
魔族の戦力は圧倒的と言ってよかった。
前線を押し上げる屈強な魔物達、魔族の強力な魔術でもっての後方からの援護術式。
読んで字のごとく人間達は抵抗するのが関の山となっていた。
さらに言えばこんな状況にも関わらず、人間界に住む人という種族は同族だというのに自国の国力拡大の為にと隣国と戦争を始める国まで現れてしまった。
そんな混迷する時代に生まれた新しい命を、それでも夫婦は祝福してくれた。
「キャロル、セシル。君たちは私たち夫婦の宝だ。守るよ、この命にかけて」
パーティーが行われた翌週の事、双子の父親は義勇軍として国を発ち、翌年、双子が一歳の誕生日を迎えたその日、双子の父親の戦死の報せが家に届いた。
泣き崩れる母親、その背中を二人は見ていることしか出来なかった。
そして、月日は流れ、ついに人類最大戦力を保有すると言われていたルゼリア帝国が敗北、加速する魔族達の人間界蹂躙はとどまることを知らず、北進を続けてくる。
それでも、人類は抵抗を諦めなかった、戦力としては帝国に劣っていたものの強固な防御壁を有するパレドシア王国の攻略に魔族の侵略は難攻したのだ。
そして侵略の手を広げすぎたことにより魔族側は戦力が分散、兵站も滞り、状況として戦況は、魔族優勢ではあるものの膠着状態へと陥った。
だが、それも長くはもたなかった、パレドシア攻略を優先した魔族は戦力を結集、それに対して人類は籠城戦を敢行。
攻略には相当の時間を要したが、パレドシアもルゼリアに続いて敗北した。
幸いだったのは、このパレドシア攻略戦により戦力を消耗した魔族が一旦北進を止め、南へと戦力補充の為に撤退したことだった。
魔族が戦力を再編成し、再び侵攻を開始したのは、双子が生まれて九年目の事だった。