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中庭での出会い

 ファクトリー内の様子はキャロルとセシルの予想を遙かに超えるとは言わないが、それでも広大な物だった。

 外から見えた大聖堂はあくまで外面をとり繕う物。

 一度門を抜ければそこには大聖堂をはじめ、複数の施設が建ち並び、コロシアムのような建造物も見受けられる。

 

 「はあー、広いなあ」

 

 セシルがキョロキョロ見渡しながら案内してくれている騎士の後ろに続いて歩く。

 その後ろを歩くキャロルはと言うと、すれ違う他の騎士や職員と思しき人物や、制服らしき物に身を包んでいる事から、勇者候補生と思われる人物達から向けられる好奇の視線に対し、軽く会釈しながら付いては行っているが、すれ違った候補生らしき十代後半の女性達に「見た?あの子達、可愛い」と言われて若干ではあるが、気恥ずかしさを感じていた。

 三人が各施設の中心なのだろうか、中庭らしき庭園に差し掛かった時だ。


 「やあ、お勤めご苦労さま」


 と、一人の青年が案内をしてくれている騎士に話しかけてきた。

 その青年は今まですれ違った人物達とは違い、つなぎに厚手の手袋、黒縁の眼鏡、首元にはタオルと、完全に見た目は農家のお兄さんといった風貌だ。

 整った顔立ちではあるが、とびきりの優男といった風でもなく、黒髪の青年は一見どこにでもいそうな印象を受ける。

 どうやら土いじりをしていた様で、つなぎのあちこちに土が付着していた。


 「ご苦労さまです、この度、試験を受けたいという二名を連れて参りました」

 「こんな小さな子が? うん、分かった。

あとは僕が預かるよ、君は今日門番だったよね? いつもありがとう」

 「恐縮であります、では私はこれで」


 ここまで案内してくれた騎士に頭を下げるキャロルと軽く手を振るセシル。

 話しの流れでこの農家のお兄さんが試験官かと考えたが、どうやらそうではないらしい。

 

 「じゃあ試験官の所に行こうか、えーと?」

 「キャロルと申します」

 「セシルでえす」

 「うん、キャロルちゃんとセシルちゃんだね、僕はルクス、よろしく。ああ、ここに来た理由は聞かないよ、合格すれば話す機会は山ほどあるしね」


 そう言うと、青年は生活魔術、洗浄を使用してつなぎの泥を落として歩き出した。

 中庭を抜け、向かったのは大聖堂だ。


 「ルクスさんはあそこで何を?」

 「ああ、花を植えてたんだよ、好きなんだよねガーデニング」

 「用務員さんなんです?」

 「はは、まあ兼用って感じかなあ」


 キャロルとセシルの問いに笑って答えるルクス。

 風貌もさることながらその爽やかさから一見して軍人などには見えない。

 やはりセシルが聞いたように用務員のような立ち位置なのだろうか。

 

 「あっちょっと失礼、先に連絡しておかないと」

 

 そう言ってルクスは手を耳に当て、術式を発動。

 遠距離の相手に連絡する術式だというのはルクスの発言から簡単に理解出来た。


 「やあ僕だけど、試験を受けたいって子を連れて来たんだけど。 

 ……まあ募集期間ではないけどさ……まあまあ、とりあえず会ってあげてよ、驚くと思うよ?」


 驚く?自分達の容姿の事だろうか?

 などと思っていると、大聖堂の正面、大扉の前に辿り着いた三人。


 「じゃあ開けるよ? 準備は良いかな?」

 「はい、私達はいつでも大丈夫です」

 「ここまでありがとうね、お兄さん」

 

 ルクスが手を翳すと、堅牢にして重厚そうな扉が独りでに開いていく。

 中には石柱が並び、いつか死後に見たあの空間を思い出させた。

 そして大聖堂内の奥、祭壇の前に、鎧を着た女性が一人十字架を背に佇んでいた。

 ステンドグラスから差し込む光が女性の鎧に反射して光り、神々しいとさえ言える。

 そして、その女性の元へとキャロルとセシルは歩き出し、ルクスも二人の後に続くのだった。

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