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盗賊襲来

 空にアンジェリカの声が響いたあの日から更に数日が経過し、グランゼリアまでの道程もあと少しというところで、一行はグランゼリア手前に広がる山岳地帯へと差し掛かろうとしていた。

 この山岳地帯の峡谷に、馬車が二台横並びでギリギリ走行できる山道があるのだが、その山道に入り、しばらく一行が進んでいると問題が発生する。

 行きはよいよい、帰りは恐い。

 シルヴィアがトラリシアに赴く際、行きの道程での問題は全くなかった。

 しかして、帰ってきたと思えばどうだろう、一行は二十数名の山賊たちに取り囲まれることになる。

 護衛の騎士も三十名と数では勝っているが、数が多ければ良いと言うモノではない。

 この狭い山道では部隊を展開するには難く、更に賊は一行の前方に陣取る者たちと、馬車の上、峡谷の岩場から弓で狙っている者たちとに分かれていた。

 

 「その馬車に巫女様が乗ってるのは分かってる、大人しく身柄をこっちに寄越しゃあ苦しませずに殺してやるぜ」 


 賊の狙いはシルヴィアの身柄、グランゼリアの重要人物を確保して国に身代金を要請するという、ありきたりと言えば、ありきたりなものではあった。

 しかし、そんな賊共の要請を護衛達が聞き入れるわけもない。

 

 「身の程を弁えよ、貴様らの要求など通るはずもない。

 我々とて無用な殺生は好まん、死にたくなければ道を開けろ!」


 護衛の一人の言葉を合図にするかのように、護衛の騎士三十名皆一様に抜剣し構える。

 

 「まあ、そう来るわなあ」


 と、シルヴィアの身柄を要求した盗賊が片手を上げた。

 それを合図に岩場に陣取る弓兵達が一斉に矢を放つ。


 「っく、こうも頭上に陣取られては」


 盾を構え飛来する矢を防ぐ護衛達。

 

 「法撃続けえ!」


 岩場に潜んでいたのは弓兵だけではなかった。

 魔術師が数名、風属性の切断魔術を使用し、護衛を襲う。

 

 「魔術!? いかん!」


 突然の事に、数名の護衛の騎士が負傷する事になってしまった。

 死んではいないが、運悪く鎧の隙間に当たった者は腕を切断する重傷者も出てしまっている。

 そこへ剣なり棍棒なり、各々得意な獲物を構え、盗賊達が切り込んだ。

 混乱する護衛達。

 そんな時だ。


 「テンプレ展開キター!」 


 と、叫びながらセシルが馬車の扉を蹴り開けた。

  

 「セシル様!?」

 「ちょっとセシル! 待ちなさい!!」


 キャロルが止めるのも聞かず、セシルは馬車の昇降口の淵から、逆上がりの要領で素早く馬車の天井へと昇る。

 その様子を、護衛の騎士たちも、もちろん盗賊達も視認していた。


 「おお、なんだ、巫女様以外にも乗ってんのか。

 まだガキだが上玉じゃねえか、変態貴族に良い値で売れるんじゃねえかあ?」


 盗賊の一人が下卑た笑いを浮かべ、舌なめずりする。

 しかし、笑みを浮かべていたのはセシルも同様にだった。


 「セシル! 力は抑えなさいよ!? 崖が崩落したら後々面倒なんだからね!」

 「分かってる分かってる。

 さあて護衛達にビビって逃げれば見逃しもしたけど、ちょっとお痛が過ぎるんじゃないあんた達」


 馬車から顔を出して声を上げるキャロルへの返答もそこそこに、セシルの登場で一瞬動きの止まった盗賊達に言いながらキャロルは宙に手を翳した。

 すると、小さな魔法陣が宙に描かれ、そこから二丁、ハンドガンサイズの銃が出現する。

 これはトラリシアを発つ際、どうしてもお礼がしたいと言ってきた国王に、セシルが頼んだどこにでもある短銃。

 それを以前アンジェリカの術式をかき消した際に、拝借したマスケット銃をそうしたように、セシルの元の世界の術式で概念武装化(デバイス化)した物だった。


 「正当防衛だからね、恨むんじゃねえぞテメエら!」

 「こらセシル! はしたない言葉使いをしないの!」

 

 黒い銃身に発行する青い幾何学模様の入ったその銃の引き金をセシルは引く。

 銃から放たれたのは銃弾ではなく、魔力で編まれた熱線。

 まずは岩場に陣取る弓兵と、魔術師の処理のため二丁の銃口を空へ向けた。

 放たれた熱線二つが岩場に陣取る盗賊一味達の更に頭上へ抜け、そこで形状を変え二つの球体に変わったかと思うと、その球体から無数の熱線が放出され岩場の盗賊達を紙に針でも刺すかのように易々と貫いていく。

 結果は岩場の盗賊達は全滅、しかしその結果を見ることもなく、セシルは口角を釣り上げて笑った。

   

 「いやあ、なんだかんだ言って、あたしも殺しって嫌いじゃないのよねえ、じゃなきゃ傭兵なんてやってないわけだし。

 さあ、次はあんた達よ」

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