夕闇に響く声
「やあやあ人類諸君初めましてかな? 私はパンデモニウス連合軍の総領、魔王と言った方が分かりやすいかな? まあその魔王、アンジェリカだ」
その声が聞こえたのは午後、夕刻を告げる鐘の音が町に響き渡った頃。
空と大地が交わる地平がオレンジから宵闇に染まり、急激に空を黒に染めると、次いでその闇空を魔法陣が覆ったと思った矢先の事だった。
「……あの魔王め」
「この術式、広域拡声の……でも規模が大きすぎる」
キャロルは聞き覚えのある声に苦虫を噛んだように顔をしかめ、セシルは見覚えのある術式に呆れ顔を浮かべていた。
「さて、諸君、ラデラ平原での活躍はお見事でした。
崖っぷち、と言う表現が正しいかな?
そんな状態にも関わらず、君達は大変よく頑張っているわね。
そんな君達人間の健闘を称えて、私達はしばらく進軍を止めてあげるわ。
油断してるって思ってる?慢心してるって思ってるでしょう?その通りよ。
でもまだ、まだ足りないのよねえ。
ラデラ平原に現れた8人程度の戦力では私に遙かに及ばないからね。
だからね、もっと強くなって私を楽しませてくれないかしら、私からの、お、ね、が、い。
ああそうそう、最後に一つ、次の再会を楽しみにしてるわよ、小さな小さな勇者のお、じょ、う、ちゃん。
ふふふ、あはははは!」
アンジェリカが言いたいことを、言いたいだけ言い終わると空の様子は元に戻り、再び茜色に染まった。
「なんだろう、イラッとする」
「っぶ!」
普段使わない言葉を使い、眉間に皺を寄せるキャロルの姿についついセシルは吹き出してしまう。
シルヴィアはキャロルが怒り心頭なのをどうなだめれば良いか分からず、先程からオロオロしっぱなしだ。
「確かに今の私は子供だが、アイツにだけは言われたくないのだけど」
「そうね、小さな勇者のお嬢さ、んっふ!?」
やり場の無い怒りを静めようとした矢先のセシルの言葉に、手刀がセシルの頭頂部に振り下ろされる。
避ける事もできず、モロに手刀を喰らったセシルは頭を抱えてその場で悶絶することになった。
「ご、ごめんなさい」
「分かれば良いのよ、分かれば」
おおよそキャロルの予想通りの理由で進軍を止めたアンジェリカ。
この度の進軍停止は2人がこれから向かうグランゼリアの勇者養成機関、通称ブレイブファクトリーへと入隊するために丁度良い時間になる。
だがそれは、どうにも魔王アンジェリカの思い通りになっているような気がするのがキャロルのかんに障ったわけだ。
「まあまあ、確かに今の体のままじゃ戦いにくいわけだしね、待ってくれるって言うんならせいぜい準備に時間を割きましょうよ」
そう言いながらセシルは頭をさすりながら立ち上がると、キャロルの体を見てあることに気が付く。
その差を確かめる為に、セシルは自分の胸を触り、直後、キャロルの胸に触れる。
「勝っ」
宿屋に平手打ちの音が響くのに数秒は掛からなかった。




