王城での朝
お茶を濁したのは確かにセシルだったのかも知れない。
だが、キャロルの疲労も相当な物だったと自身が理解したのは着替えを終え、案内されたベッドに寝そべった瞬間だった。
母マリエラを中心に川の字で寝転がって尚、左右に余裕のあるベッドの上、母に何か話さなければと思うキャロルだったが、襲ってきた睡魔はどうやら魔王よりも強力らしい。
抵抗の余地など無く、キャロルは瞼を閉じ、眠りへと誘われた。
一方セシルはというと、部屋に案内されるなりベッドに突っ伏して眠ってしまっていた。
特別な体であろうが、魔力が急速に回復しようが、前世の記憶を持っていようが、二人共に10歳にも満たない子供なのだ。
体力には限界がある。
しかし、体力の限界というならマリエラも似たようなモノだ。
避難した先で娘2人が戦う姿を魔術越しで見た後、着慣れないドレスでの国王との謁見。
母マリエラの心労たるや、もしかするとキャロルやセシルを上回るかも知れない。
お休みを言う間もなく、3人は夢の世界へと旅立っていった。
そして翌朝、3人は同じタイミングで目覚めると、同じタイミングでアクビをし、また同じタイミングで伸びをして微睡む。
それからしばらく経ち、マリエラがセシルの髪を部屋に用意されていた櫛で梳かしていると、部屋の扉がノックされた。
顔を洗い、身支度を整え、再び訪れる着付けタイム。
しかし、今日はセシルもマリエラも大人しくメイド達に着付けを任せていた。
2人の表情を見るに慣れた、という訳ではないようだ。
どちらかと言えば諦めたという感じに見える。
着付けを終えた3人は、食堂へと案内される。
長い机の上にはスープやパン、ハム等、様々な料理が並べられていた。
「おはようございます、キャロル様、セシル様、マリエラ様」
「おはようございます、昨晩は良く眠れましたかな?」
母娘3人が案内された椅子に座った矢先、シルヴィアと、その後に続き国王が姿を表した。
「おはようございます、陛下、シルヴィア様」
国王もシルヴィアも席に着き、朝食が始まる。
しばらく経ち、朝食を終えると、国王が口を開いた。
「キャロル様、セシル様、もし宜しければ、いかがでしょう、午後からお二人の活躍を称えてパーティーなど」
「お気持ちだけで構いません陛下、今は戦時下です。
前線で戦っている兵を差し置いて、パーティーというのは気が引けます。
パーティーは戦勝の際にでも派手にやりましょう」
国王の言葉に応えたのはキャロルでは無くセシルだった。
キャロルも同意見ではあったが、2人の考えには差異がある。
キャロルはセシルの言った言葉の通りに、戦時下にパーティー等は気が引けると思っているが、セシルは言葉の裏に別の意図があった。
と、いうのもパーティーなど開こうものなら、子供であり、シルヴィアや国王が天使と崇める自分達は客人達に挨拶攻め、質問攻めにされ、もみくちゃになるのは想像に難くない。
そして何より、このヒラヒラフリフリのドレスを何時までも着ていなくてはならないハメになる。
それがセシルには我慢ならず、とっさに思いついたそれっぽい理由で国王の提案を拒否した訳だ。
さらに、セシルにとっては追い風よろしくキャロルが口を開く。
「この度襲って来た魔族の2人、アレはデモニウスの総領、いわば魔王とその側近でした。
あの2人の狙いは恐らくシルヴィア様だったのでしょう」
この時点でキャロル、セシルの両名には敵軍の長が誰なのかと言う情報は入っていない。
話しているのはあくまで推測だが、2人には推測以上に確かな、確信に近いモノを感じていた。
前世で戦った魔王が誰かの指揮下にある、そんなことがあろう筈が無い、と言うのがキャロルの考えだ。
セシルにしても、前世で対峙した世界を滅ぼそうとしたマッドサイエンティストが大人しく付き従っていたのを見た限り、キャロルの言う通りだろうと思っている。
「あの2人も私達の存在は知らなかった様でした。
ならば、敵軍の総大将が、失礼な物言いですが、こんな辺境の国まで来た理由は恐らくグランゼリアの巫女、シルヴィア様がトラリシアに向かった理由を直接確かめに来た、と、私は見ています」
その結果、自分達と相対する事になったのだ。
魔王、アンジェリカの目論見は間違いでは無かったという事になる。
で、あるならば。
「私達がこの国に留まっていれば、いつか必ずあの2人は再びトラリシアを襲うでしょう。
あの2人にとって私達は天敵、トラリシアという国を人質に、私達を殺す為に」
「では、お二人はこれからどうするおつもりで」
「前線に向かいます、前線で戦って敵軍を撃滅する天命を私達は賜っていますので」
国王の問いに、毅然と答えるキャロル。
「そんな、前線なんて」
マリエラの震える声、国王もシルヴィアも表情は決して明るくない。
戦う姿は確かに見た。
しかし、2人の容姿は幼く儚い。
中身はそうでもないが、そんなことは本人達にしか分からないところ。
幼い少女が戦争の最前線に向かう。
そんな話しを聞いて、笑顔を浮かべ、浮かれるような大人はまずいない筈だ。




