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王様と会った母娘

 グズる母とセシルを叱りつけ、やっとのことで着付けを終えた三人は、謁見の間、ではなく、招待客用の応接室へと案内された。 


 街から城までの移動時間、湯浴みの時間、そして先ほどの着付けの時間、いつの間にやらとは言わない、当然のように夜もとっぷり暮れて、城の真上には白い月が爛々と輝いている、今夜の月明かりなら照明用の火属性魔術や光属性魔術は必要ないだろう。

 城下の家々の光も減り、事件の後処理に追われる兵士諸兄以外の人々は寝静まる時間。

 そんな時間に、謁見の間で盛大に出迎える為とは言え、人を集めるわけにもいくまい。


 さて、応接室の前に案内された三人。

 キャロルは落ち着き払った様子で、王への謁見にあたり、無礼が無いかと身だしなみを整えていた。

 セシルはというと、フリル多めのオレンジ色のドレスをメイドに着せられ、やはり恥ずかしいのか、下を向いている顔が真っ赤になっている。

 逆に母は、着せられた藍色のドレスの触れただけで高価だと思い知らされる着心地と、これから王様と直に面会する緊張から顔面蒼白だ。


 「失礼いたします、お客様をお連れいたしました」

 「入っていただきなさい」


 否応なく、メイド長ニヤナは扉をノックし、応接室からの返事と共に開かれる両開きの大扉。

 三人を迎えたのは、トラリシア王国国王と、側近の騎士一人、そしてシルヴィアだった。

  

 「ようこそ御出でくださいました、天使様、聖母様。

 トラリシア王国国王、ハウンゼン・エトヴァルト・トラリシアですお初にお目にかかります」


 「先に名乗らせてしまったのは不敬でした、ご容赦を。

 式典などではご尊顔を拝謁しておりました、お会いできて光栄です。

 そしてこの度は王城へご招待いただきありがとうございます、私はキャロルと申します」


 王の言葉に道すがらメイド達に聞いた宮廷作法、それをキャロルは難なくこなして見せる、礼一つ見ても長年城に勤める者と遜色ない。

 そんなキャロルは小声で「ほら、セシルと母さんも」と言葉には出さなかったが、無言のプレッシャーを視線という形で向けた。


 「は、初めまして国王陛下、キャロルの妹、セシル……です」

 「母のマリエラと申します、あの、私、そんな聖母と呼ばれるような大層な者では……」

 「まあまずはお座りください、聖母様、天使様お二人も」


 招かれるまま、案内されたソファに腰を下ろす母娘。

 そのソファの柔らかさと言ったら、高級ホテルのベッドもかくやというほどの柔らかさに驚くばかりだ、特に母マリエラは驚いていたのか、座ったかと思うと一瞬腰を浮かせ、ゆっくりと座りなおした。


 「国王様、不躾なんですが一ついいですか?」


 まず、口を開いたのはキャロルではなくセシル。

 そのセシルに「構いませんとも」と、笑顔を向けるトラリシア国王。

 40代半ばの茶色い髭を蓄えた、優し気な雰囲気のこの王は、圧制を布くこともなく国民には清廉潔白で知られている。


 「私達の事を天使様って呼ぶのはやめてほしいなあって」

 「私も、聖母様はやめて頂きたく思います」


 セシルに便乗するように、マリエラも続ける。


 「分かりました、ではお名前で呼ばせていただきましょう。

 まずはこの度のお礼を述べさせていただきたく思い、お疲れのところお呼びたてしてしまい申し訳ありません。 

 キャロル様、セシル様、先だっての魔族の奇襲、急襲に対応していただき本当に、ありがとうございました。

 我が城の魔術師の魔術にて、緊急事態が起きた地点の観測を行った際には、既にお二人は交戦状態でした、現場の様子を鑑みるに、我が軍では甚大な被害が」


 王の話のこのあたりから、セシルは意識を手放した。

 長くなりそうな話に辟易したこの幼女は、王の話より、寝ることを選んだのだ。 

 

 「あの、セシル様?」


 王の横に座っていたシルヴィアが心配そうに声を掛ける。

  

 「セシル、ちょと何寝てるの」

 「王様話長い」

 「子供か!いや、今の私達は確かに子供だけど」


 キャロルとセシルのこのやり取りに、国王は気を悪くするどころか、自分の娘でも見るように優し気に微笑む。


 「いや、確かに長くなってしまいましたな、本当に感謝の気持を伝えたっかったのです。

 今日は城でおやすみ下さい。

 お話は、明日にでもまた」

 「本当に不躾な妹で申し訳ありません、陛下」

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