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お風呂その後に

 母娘3人、話したい事はあるが、何から話せば良いのか、母にせよ娘2人にせよ、話しの切り出しが出来ないまま時間は流れていった。

 大浴場に湯の流れる音以外が聞こえなくなる。

 そんな折、カーテンの向こうから、メイド長、ニヤナが姿を表すと、一礼し、口を開いた。


 「おくつろぎのところ大変申し訳ありません、準備が整いましたので、ご案内致します」


 ニヤナの言葉に、母はどうすれば良いか分からずしどろもどろだ。

 当然の反応だろう、毎日見ているとは言え、自国の城とは言え平民の自分には縁遠い。

 例えるならば、自宅に飾られている国外の絵に描かれた風景位には距離感を感じる場所に突然連れて来られたかと思えば、国賓待遇の客人扱いだ。

 30年は生きていないが、昨日どころか、先程まで城下町に暮らす平民だった母の脳は処理が追い付かないでいた。


 「ありがとうございますニヤナさん、さあ行きましょうお母様、セシルも、ほら立って」

 「え、ええ」

 「やだー、まだ入ってたい」

 

 混乱する母に手を伸ばすキャロル、母はそれに従うほか無い訳で、伸ばされた手を取り立ち上がる、が、セシルはというと、これから起こるであろう事態に辟易し、風呂場か出ようとしない。

 

 「シルヴィア様や国王陛下を待たせるつもり? まあ良いわ、グズるならこうするまでよ」


 こういう時、姉は強い。

 それはその光景を見ていたニヤナと母が同時に抱いた印象だ。

 キャロルはグズるセシルに手を伸ばすと、浮遊魔術をセシルに掛けた。


 「ちょ、ちょっとキャロル、魔術はズルいって!」


 水面から浮かび上がり、空中であられもない姿を晒すセシル。

 やられっぱなしでいられるかと、抵抗するが。


 「ぬわあ! 対抗魔術〈レジスト〉が意味なしてないじゃない!

 は!そりゃそうか、術式の構成が違うんだもんね! 

 分かった! 歩くから、グズらないから降ろして!?」


 異世界の魔術、魔法にはセシルと言えど、手も足も出なかった。

 とは言え、立場が逆であれば結果もまた逆になる訳だが。


 そして、大浴場を後にし、体を拭いてもらった3人は小休止を挟んだあと、バスローブのままある一室に通された。

 そこにはセシルの予想していた通りの物が並んでいた。

 

 「ほらあ、コレじゃな~い、風呂の後は着替え。

 城に着いた時、ニアナさんも言ってたけどさあ。

 謁見の為のドレス選びって事でしょう!

 やだー、絶対やだー」


 そういう訳だ、9年、女児の姿で生きて来た2人。

 キャロルはスンナリ受け入れて、早くもドレス選びを開始していたが、セシルは根の男の部分が拒否するのか、母の与えてくれたワンピースならまだしも、バーゲンセールかと思う程に立ち並ぶフリフリヒラヒラのドレスに完全に拒否反応を起こしていた。

 

 しかし、ソレは此方も同じようだ。


 「こ、こ、こんな高そうで綺麗なドレス私には着られません、私はただの平民、もっと地味なので構いませんから!」

 「二人共、王様とシルヴィア様を待たせるつもりなの?」

 「だってえ」


 セシルと母がハモって言う。

 それに対して、キャロルはただ一言。


 「だってじゃないの!」


 と、この日1番大きな声を上げた。

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