カウントダウン
「ではさようならだ、簡単に灰なんぞになってくれるなよ?」
それだけ言うと、アンジェリカとバジリウスは姿を消した。
後に残されたのは爆裂系術式による爆発で出来たクレーターと、キャロルとの斬り合いで生じた余波による斬撃の爪痕。
そして、トラリシアの夜空に浮かぶ巨大な魔法陣だ。
紅い稲光が時折発生し、徐々にだが確実に活性化しているのが分かる。
「セシルあれを止められるか?」
その問いは、キャロルでは止められないという意味も込められていた。
自分一人生き延びるなら、容易い。
転移するでもいい、硬質化するでもいい、どんな手段でも生き残る方法はある。
しかし、本当の意味での第二の生まれ故郷を、そこに住む人々を、ましてや自分の母親を置いて逃げることなどできる筈もない。
「前はあれを暴走させて逆に爆発を促して連鎖爆発を止めたんだ、まあ魔法陣を消し飛ばせば、もちろん爆発はしない。
でもあんな上に貼られちゃあなあ、飛べるわけじゃねえし」
「飛べないのか?」
「むしろ飛べるのかよ」
セシルの言葉にキョトンとした表情で答えたキャロルに、軽くツッコミを入れてセシルは苦笑いを浮かべる。
「飛翔の術式は心得ている、しかし、あの魔法陣を消そうにも範囲が広すぎて私の使える魔術では……」
「銃さえあれば、広域殲滅用の術式であれも消し飛ばせる自信がある、でもなあ……」
辺りを見渡すキャロルとセシル、剣のように落ちていればよかったが、銃は落ちていなかった、いや厳密には落ちていたが破損していて使えそうな物が無かったのだ。
いよいよ魔法陣の光が強まり、臨界が近いのかバチバチと音まで聞こえてきた。
「やべえ! マジやべえ!」
「どうにかならないのか、セシル」
その時セシルはある場所が目に留まった。
爆発により出来上がったクレーターのすぐ近く、駐屯兵の詰所が無事そうなのを見つけたのだ。
「もしかして、もしかするか?」
と、駆け出すセシル。
キャロルはどうにか魔法陣をかき消せないかと爆炎術式などで魔法陣へ攻撃を加えてみるが、一部消えたところで魔法陣は機能しているうえに、直ぐに修復されてしまい埒があかないといった感じだ。
「これを造った魔術師はすごいな、まったくこれだけの物を造れるのに破壊にしか使えないとは」
キャロルはため息を吐き出す。
その頃。
セシルは駆けた勢いのまま駐屯兵の詰所の扉を蹴破っていた。
「ひい! こ、殺さないでくれ!?」
その詰所入って正面奥、ベッドが二つ並んでいるところを見ると仮眠室か、そこに一人、兵士が武器を構えてガタガタと震えていた。
「それ! おいアンタ! その手に持ってる銃を渡せ!」
「だ、だめだ!これは危ない物なんだぞ、子供に触らせるわけにはいかない!」
震えてはいるが良識的な考えが出来るくらいには判断力は失っていないらしい。
恐らく爆発直後から今まで暗い詰所に隠れていた筈だが、流石に王家に仕える兵だけあるという事か。
「真面目な奴はこれだから」
ため息を吐きつつ、ツカツカと兵士に詰め寄るセシル。
「兵隊さん、三度は言わない。その銃を渡してください、早くしないと大変なことになるんです」
「だ、だめ……かは」
「三度は言わないって言ったからな」
セシルは銃を渡すことを拒否した兵士の鎧に手を当て、振動術式を発動した。
鎧の中を伝った振動が兜に伝わり、兵士の頭部、脳を激しく揺さぶり脳震盪を引き起こす。
そして、セシルは倒れた兵士の手から銃剣付きのマスケット銃を奪うと踵を返して外へと飛び出すのだった。




