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邂逅=再会

「シルヴィア様、お嘆きにならないでください」


そう言ったキャロルが、真っすぐシルヴィアの蒼い瞳を見つめた。

シルヴィアの頬に伝う涙。

それに対してキャロルに浮かぶのは屈託のない笑顔。


「私達は神託の通り、神に選ばれこの地に降り立ちました。しかし、まだ我々は幼い。

腹を痛めて我々二人を生んでくれた女性に、母に心配を掛けたくなくて今まで何もしませんでした」


声を大にして言ったのは、シルヴィアに言い聞かせるためだけではない。

こちらにやってきた母親にも伝えなければならない。

神託が下ったというのであれば、終わりが来たのだ、平和な日常、心地の良い平穏な時間に。


「キャロル、何を言ってるの?」


「お母様、私達の事今日まで育てて頂いてありがとうございました。

いつか、この戦いを終わらせたら、また私達の事——」


お茶を置き、菓子を置き、楽しい時間になるはずだった。

しかしキャロルが言い終わるより先に、その言葉を爆音がかき消した。


「なに!? 爆発!?」


セシルが椅子から飛び降り、玄関口へと駆け出す。

キャロルも椅子から降りて駆け出そうとしたが、その手を母が掴んだ。

何か言いたそうに口を開くが、母から言葉は出てこなかった。

言えない、いや、何を言えば良いか分からないという方が正しい。


「少し、様子を見に行きますお母様、私達は大丈夫ですからシルヴィア様と安全な所へ」

「な、なに言ってるのあなたは!?」

「戦えるなら、戦わないと」


手を振りほどいたわけではない、そんな事できる筈がない。

少し、演出して見せたのだ、魔力を背中から放出し、翼状に展開。

さも天使が翼を広げたように見せた。


「ああ、そんな……」


シルヴィアもこれには目を見開いていた。

弱まる母の手の力。

キャロルは落ちそうになる母の手を両手で包み込むように握る。


「行ってきます、お母様」

「すぐ帰ってくるわ母様」


そっと手を放し、魔力の放出を止め、キャロルは踵を返して駆け出す。

玄関を開けて待つセシルと共に外に出ると、城下の街がいつも以上に騒がしい。


「さっきの爆発なんだ? まだ魔族がここまで攻めてくるには時間があるだろう?」

「魔力の残滓を感じる、だがまて……こんな事があるものか」

「どうした?」


疾走、この表現が的確だろう。

逃げてくる人々の隙間を速度を落とすことなく、駆ける二人はまるで風のようだ。

爆発が起こったのはどうやら城下町外縁の門の付近らしい事が、逃げてきた人達の方向から確認できた。


しかし、キャロルの気に掛ったのは爆発地点ではない。

爆発直後の魔力の残滓、そして先ほどから感じる魔力の奔流。

この魔力にキャロルは覚えがあったのだ。


「ひどいな——」


到着した城門はひどい有様だった。

もはや門とは呼べない程に周囲の壁ごと、直径十数メートルが吹き飛びクレーターが生成されていた。

門を守っていた駐屯兵の物か、主を失った剣をキャロルは拾い上げる。

その時だった——


「ははは! はははは!! きゃははははは!!!」


その場に似つかわしくない女の子の笑い声が木霊したのだ。


「いやいやいや、こんな事がある物なのかしらねえ」


クレーターの向こう側、現れた赤いドレスの少女と白いコートの青年。

黒い強膜と頭の角から、両者が魔族であることは一目瞭然であった。


「覚えてるわよ、そこの小さなお嬢ちゃん。その魔力、その忌々しい聖光輝、いいわ。

確かにあなたなら私の反存在足りえるわよねえ。

ねえ、勇者様?」

「まさかの再会だな、魔王」


感じた事があるのも当然だ、死の間際まで浴びていた魔力の奔流。

五体に刻まれたこの魔力、忘れる筈がない。

仲間の治癒術を阻害し、自らを死に至らしめたこの魔力を忘れられるわけがなかった。

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