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運命の日

平和な生活はもうすぐ終わる。

この世界に生まれ変わり、九年。

ここ最近のキャロルとセシルは二人してそんな事をあの廃墟で話すようになっていた。


それが、確信に変わったのは今日。


シルヴィアが目の前に現れた瞬間だ。

天使か、確かに私達二人は神が遣わせた。

この世界ではない異世界の存在、であるならば神が私達を天使と言っても何ら不思議などはない。


ため息交じりにそんな事を思いながら、キャロルとセシルは顔を見合わせる。


「天使かあ」

「まあ今の容姿だとねえ」


ナルシズム、とは少し違う感覚だ。

以前の世界で以前の自分が客観的に、今の自分の姿を他人として見た場合の評価がそうなのだ。

特にキャロルなどはそうだ。

ワンピースを着ている今の姿に、天使の輪っかと翼をセットで付ければ、まんま天使の完成である。


そんな二人は今、椅子に腰かけ、熱い視線を浴びせてくるシルヴィアの対応に困っていた。

自宅に招いた張本人の母はというと「お茶はどれがいいかしら、あ、そういえばこないだ紅茶をいただいたわね」などと独り言を言いながらティーパーティーの準備に大忙しだ。


シルヴィアは「そんな、いいですよお母様」と、言ってはいたが母は「まあまあ、そんな事いわずに」とご近所の奥様と変わらない対応でシルヴィアを言いくるめていた。

さすがに城下町の一般家庭なので、シルヴィアの護衛の兵にはご遠慮いただいて、近くの詰所に行ってもらった。


「で、シルヴィア様はその、神託を受けて私達を訪ねたのですよね?」


楽しそうにパーティーの準備を進める母を横目に、ちょこんと椅子に座っていたキャロルが口を開く。

事情は自宅までの道すがら、シルヴィアが話してくれた。

セシルは冗談でシルヴィアがこの国に来るのは神託でもあったんじゃないか、などといつかの朝に言っていたが、その冗談が当たったわけだ。


大方の事情は察しがつく、つまるところ、そろそろ動かねばこの世界は手遅れになる。

神はそう言いたいわけだ。


この話を聞いた母は「シルヴィア様も冗談を言うのね」と笑い飛ばして信じてはいない様子だった、いや、信じないようにしているのかもしれない。

シルヴィアが言ったのはキャロルとセシルがこの世界に光をもたらすという事。

それはつまり、戦地に赴き、敵である魔族と魔物を相手取り戦うという事だ。

夫が死んだ戦場に、今度は娘たちが向かう。

そんな話、誰だって信じたくはない。


だが二人には記憶があるのだ、以前の世界で培った戦闘技術と魔導技術、そして神の言葉。

戦える力と知識、それがあって戦わないなんて事はできない。


「私は確かに神のお言葉を聞き、そしてこの地で聖なる光を纏われたお二人を見つけました、私など足元にも及ばない、神に近づいた者が放つ聖なる光。

そして我々人類を遥かに超える魔力。

その光と力を感じてからつい昂りを抑えきれず、教会であのような失態を」

「まあ、教会での話は今は置いておきましょう」

「そう、そうですね、そうですよね」


ふと、シルヴィアが顔を伏せ、顔を手で覆った。

落ち着いてきて、やっと自分が何を言っているか理解したのだ。

キャロルとセシルは傍から見れば九歳の子供、幼女だ。


「私は、こんな幼子に戦ってくださいと、言わねばならないのですか、神よ」


いつか聞いた神託をシルヴィアは思い出していた。

神が告げた言葉に含まれていた「彼女らに会えばきっと苦しむ」という言葉を。

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