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最前線で少女は踊るⅢ

「たった一人にこれほど。魔導砲兵隊! 撃ち方用意! 最大火力だ! 撃てええ!!」


もはや前線で戦う兵士などお構いなしだ。

人類側の指揮官の一人が命じるまま、魔術師達は各々の最大火力である呪文を唱え、そして放った。


「馬鹿な! まだ我々が!!」


アンジェリカを取り囲む兵士達ごと巻き込んで、爆炎、氷雪、雷撃、熱線、波動、ありとあらゆる魔法が一か所に降り注ぎ、爆裂し、破壊する。

地面は抉れ、兵士達が灰燼と化すなか、アンジェリカは変わらず機嫌よく笑っていた。


「いい、実にいい。これほどの火力、後方で座っていたのでは味わえるものではない」


立ち上る煙を腕を振っただけでかき消して見せたアンジェリカは、ニヤニヤ笑いながら出来上がったクレーターから跳びあがり、再び人類の前に降り立って見せる。

無理だ、勝てる筈がない。

戦場にいる誰もがそう思った。

しかし、後方の魔術師の間から、増援が姿を現した事で戦場の雰囲気が一変する。


「ブレイブス、魔法剣士の部隊か!?」


指揮官がその姿に目を丸めた。

現れた一団数十名は、皆一様に同じ装備を身に纏っていた。

白い甲冑に白いマント、装飾の施された一見して式典用にも見える剣と盾。

さながら、おとぎ話に見る勇者の様な姿だった。


「やっと来たわね、人類の切り札。ブレイブスだったかしら? 人間というのはやはり面白い事を考えるわね量産型の勇者だなんて」


追い詰められた人類が、決戦の為に用意した戦力。

それがブレイブス、アンジェリカの言った通り、量産型の勇者達だ。

グランゼリアに世界でたった一つ存在する、勇者を養成する教育機関、元は魔術師養成の為の教育機関だったその場所だが、魔族に魔力の質と量で劣る以上、それ以外の物でアドバンテージを取らなければいけない、そう考えた各国の王達は魔術師の教育機関であったその場所で、剣術や格闘術のカリキュラムを増やし、前線で暴れる魔物や、後方から降り注ぐ魔術に対抗出来うる戦力を作り上げたわけだ。


実際、ここラデラ平原以外の前線では既に多数の戦力が投入され、戦果を挙げている。

彼らがいなければ、人類は既に全滅していた可能性すらあるのだ。


「凄まじい、とはよく言ったものだ。私はブレイブスの先遣隊隊長、アレックス・ウェスカー。そこな魔王よ今ここで貴様を討ち滅ぼす者の名だ」


剣をアンジェリカに向け、名乗った20代半ばの青年はそう言うと盾を構え、まずは一歩を踏み出した。

その一歩はアンジェリカと同じく、地面を抉り、一瞬でアンジェリカとの間合いを詰めてみせる。


「ほう、悪くない。いいぞ、いいぞ人間! まだまだこれからという事だな!!」


アレックスに続き、他の者も皆一様に駆け出す。

一般の兵士達と違い、恐怖はない。

数々の戦場で戦果を挙げてきた彼らは自信に満ちていた。

凶悪な魔物がひしめく、多勢に無勢の戦場。

それらを潜り抜けて彼らはここに立っている。


魔力によって強化の術式を体内で発動させ、身体能力を極限まで引き出し、瞬発能力を向上させた今のアレックス率いる先遣隊の全員が臆することなく、されど驕ることなく、目の前に佇む化け物に向かって前進する。


アレックスが振る剣がアンジェリカを捉えられず、空を切る。

読んで字のごとく空を切ったのだ、見えない刃がアンジェリカの後方の地面を抉り、更に後方に控えていた魔物の一匹の首を飛ばして見せる。


どうだ、と言わんばかりにニヤリと笑ってみせたアレックスに、アンジェリカはどこか不満そうだ。


「なによ、この程度なの? あいつなら今の一撃で地面が爆ぜるわよ?」

「誰の事を言っているかは知らないがまだ、これで終わりではないぞ」


言うや否や後ろに跳ぶアレックス、そのタイミングでアンジェリカを炎が包んだ。

後から駆け付けた部下たちが爆炎系の術式を詠唱せずに発動して見せたのだ。


しかしそれも、アンジェリカは何事もなかった事のように剣を軽く振ってかき消す。

その直後、二名が同時にアンジェリカの両脇からアレックスが見せた跳躍の速さでもって、盾で動きを封じるために突撃する。


一方の兵には剣を振り下ろし、もう一方の兵の盾は手で止めてみせるアンジェリカ。

だが、これで動きと防御手段は封じた。

アレックスが剣を構え、部下二人と同じようにアンジェリカに向かって突撃する。


その場にいた誰もが、アレックス達の勝利を疑わなかった。


「もらったぞ魔王よ!!」

「……寝言は寝てから言うものよ」

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