それぞれの世界を救い散った男達
「私の負けだな、まさか人間に負けるとは。だが覚えておけよ、私は再び蘇るぞ勇者よ」
「そうか、だが同じだ。また次の世代の勇者が、お前を倒すさ」
魔王城の最奥、玉座。
そこで繰り広げられた死闘がこの日、幕を閉じた。
斬撃の余波が壁を切り崩し、放った魔法の余波は城を揺らした。
崩れていく魔王城、その玉座の間に灰となっていく魔王とその横に倒れこむ勇者。
仲間が駆け付けた時にはすでに遅く、魔王に止めを刺すために懐に飛び込み、深手を負った勇者は仲間の腕の中、回復魔法のかいなく、その短い人生に幕を閉じた。
この日、別の世界でも一つの戦いが終わった。
「ああ、最後までやってくれるぜあのイカレ野郎。どうする、あいつを殺してもこのままじゃあ」
戦術核級魔術を世界規模で同調爆発させ、惑星一つ丸ごと消し飛ばそうと考えたマッドサイエンティストがいた。
そのイカレた科学者を倒したのはある企業から金で雇われた一人の傭兵だった。
「弾薬も爆薬も、魔力ももう残ってねえ」
研究施設のコンソールを操作しようにも破壊されていたり、無事そうな端末から接続してみようにもロックが掛かっていたりで、今傭兵の目の前にあるモニターは、刻一刻と科学者が残した置き土産であるタイマーの数字を淡々と減らしていた。
世界滅亡までのカウントダウンだ。
そんな時、傭兵は科学者が死の間際に言っていた言葉を思い出していた。
「私を殺しても同調爆発は止まらん、この施設が吹き飛びでもすれば、話は別だがね」
死の間際にヒントを残し自爆した科学者の言葉。
その言葉に、傭兵はなにか思い浮かんだのか、この施設にも存在する戦術核級魔術の魔法陣へと向かった。
そしてその場所に、科学者が死んだその場所にたどり着くと魔法陣の中央に座り込む。
「ようは同調しなけりゃただのでかい爆弾ってことだろうが。いいぜ、残りの魔力と俺の命全部使ってやるよ、地獄で会ったらもう一回殺してやるぜあの野郎」
魔法陣に手を付け魔力を流し込む。
「ったく金の為にここまで来たってのに。……だけど、まあ世界を守って死ぬってのも、悪くはねえか」
魔術の発動に足りない分の魔力は自らの生命力そのものを魔力に変換し、それこそ死ぬまで魔力を放出し続ける。
徐々に体から力が抜け、視界が暗くなっていく。
死の間際、最後の瞬間、傭兵の男は魔法陣が光り輝くのを見てにやりと笑うと施設と共に光に包まれその命を散らしたのだった。