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Discover(ディスカバー)   作者: K@YO(かぁよ)
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第7話 センチメンタル・メモリィ。

挿絵(By みてみん)


 市民病院を出てから、十分くらいは歩いただろうか。信号を一つ渡り、H商業高校の第二グランドの緑のフェンスと、全国チェーンの和風レストラン・竹林・寺と並び続くコンクリート塀に挟まれた道路を道なりに歩いていると、懐かしい母校の姿が住宅の向こう側から徐々に顔を出してきた。


イカルが歩いていたその道路は途中で左右に分かれるが、真っ直ぐ続く小道(というか狭い路地)はそのまま校庭に入って行けそうである。その先には門もフェンスもなければ、警備員もいない。


「相変わらず、不用心な学校ね」

久々に訪れた母校のH商業高校は少なくとも外見だけは昔のままで、思わずイカルは苦笑した。

(こう、何も変わっていないと自分だけが年を取ったような気になるなぁ)


 幅一メートル程の一見、住宅の入り口のようなその狭い路地を抜けると、そこはもうH商業高校の校庭だ。校庭の端には雑草が生い茂り、校庭を囲む煉瓦を敷き詰めた小道の脇には桜の木が等間隔に植えられていて、ここを校庭だと一瞬気が付かない人は多いかもしれない。

煉瓦の小道はそのまますぐ左に折れ、次は右に折れ、校庭の輪郭をなぞるように校舎の方へむかって続いている。


 イカルがまだこの高校にいた時分には、年に何回か『除草作業』と言う、全校生徒と教師が半日もかけて校庭の草を刈る(だけの)不思議な行事があったものだが、今現在でもその行事があるのかは定かではない。


今は生え放題の草むらからは独特の砂埃と土と草の香りがして、それが余計に懐かしさをあおる。

イカルは、暫し郷愁に立ち尽くした後、ゆっくり煉瓦の小道を歩み出した。カーブを曲がり、校庭を右手に見ながら校舎に向かう。

「こうゆうのって、自分の歴史を遡ってる感じね」


高二の時密かに好きだった先輩のこと、部活動の後花束を抱えて自転車を漕いで帰った帰り道、他愛もない日々の思い出。

少し寂れた大型スーパーの一階フードコートでチキンナゲットやフライドポテトを友達数人と分けあって食べながら、外が真っ暗になるまで話していたこと。何をあんなに話すことがあったのだろう、と思ってしまう。

今ではほとんど会うことのないクラスメイト達の顔。普段は忘れてしまっているそれらが次々に頭の中を通り過ぎる。


さしずめ、センチメンタル・メモリィ。


ツユヒコとの思い出も、いつかはこんな風に思い出すようになるのだろうか。

 “思い出す”ようになるくらい、ちゃんと忘れられるようになるのだろうか。


自分が、ウタコの代わりになれるとは到底思えなかったし、なろうとも思っていない。

もはや、ツユヒコへの思いは“未練”と呼ぶには熱量の足りない、なにかもっと淡いものになっていた。


それでもまだまだ、彼の触れた手の感触も、間近で見た睫毛の長さも、首筋の香りも、思い出せる程には生々しく。この記憶が連れてくる胸の痛みが、波が、時間の経過と共に薄らいでいくのも経験上知っている。でも、自分の力ではどうしようもない感情とぐちゃぐちゃに絡まり、あげく固結びのように結ばれたその“モヤモヤとした何か”を今のイカルはまだ持て余していた。


「油断すると笑ったまま涙が出そうね」と、苦笑いしながらイカルはため息をついた。


ふと、校庭とテニスコートの間の道を数人の少年達が体育館の方向に歩いていくのが見えた。時計を見るとまだ十一時半を少し過ぎたくらい。イカルの記憶が正しければ、今は三限の授業中のはずだ。


「あらあら、サボリの子たちかな。何処にでもいるのね」


イカルは昔の自分を思い出してクスッと笑った。あの頃の自分にも、授業をサボった記憶があるからだ。

結局は教師に見つかり、親まで学校に呼び出されこっぴどく怒られた。その時は『もうこの世の終わりだ』とまで思ったものだが、今ならそれらもただの笑い話だ。


 少年達の一人は白か銀色の短い髪で、身長は一番大きい。その少年に片手を掴まれ振り回されている小柄な少年が一人。その後ろには、首が隠れるぐらいの少し長い黒髪の少年が一人と、どうやら少女が一人混ざっているようだ。

一瞬イジメか何かとも思ったが、どうやら違うみたいだ。四人は授業中にも関わらず大きな声で楽しそうに笑ってる。

 いや、主に銀髪の子の声かもしれない。イカルは彼らが教師達に授業をサボっているのが見つかるのではないかと、他人事ながらハラハラとして見ていた。


「あぁ、あんなに大きな声を出して・・・。職員室が近いのに危ないわね」

と、いつの間にか両手をギュッと握り閉めていたが、ハッとそんな自分に気づいて可笑しくなった。

「ヤダ、バカみたいじゃないアタシ。もう」

そう言って再びそちらを見ると、少年達はもうテニスコート横にある情報処理棟の角を左に曲がったようで、姿は見えなくなっていた。これから教室に戻るのか、どこかへ遊びに行くのか。どちらにせよ、もう会うこともないだろうな、と思う。


「後輩よ、健闘を祈る」

イカルはなんとなく、敬礼のようなポーズで少年達がいた方向に右手を振ってから、


「怒られるなよっ」と笑った。

さて、今回はイカルさんのターン。


病院を後にした彼女は、ふとその帰り道

母校へ立ち寄ることを思いつき歩き出す。


そこでちらりと見かけた少年少女たち。


少し、すれ違います。


さてどうなることでしょう?

次話はまた若者たちのターンです。


短めのサクサクッとした話が続きます^^;

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