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Discover(ディスカバー)   作者: K@YO(かぁよ)
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第6話 嘘、偽りのない性格。

挿絵(By みてみん)


「シアン。お前、これ羽織っとけや」

 ケイは着ていた学蘭を脱ぐと、シアンに向かって無造作に放り投げた。

学蘭はバサッ音をたててシアンの頭に乗っかかり「ありがとう」と言った彼の声を少し遮った。


「で、これからどうするんだ?」

ごそごそと学蘭を着るシアンを見守りながらシュウジはケイに訪ねた。


ケイは「ん~。そやなぁ~」と立ち上がって背伸びしながら唸るようにそう言って、しばらく考えるような素振りでシアンと、シアンの隣に澄まして座る少女をチラリと見た。困ったと言わんばかりの顔だ。


ケイは思ったことが全て顔に出る。

 本人はポーカーフェイスだと信じて疑わないようだが、シュウジには彼の考えている事が手に取るように分かる。ケイは今、シアンの横に陣取ったマコトを、次期生徒会長様をどうしてここから立ち去らせようかと考えているのだ。


 彼女は、とっくに三限の授業が始まったのにも関わらず、いつまでも立ち上がる素振りを見せない。

(おいおい、次期生徒会長様がいいのかよ)とシュウジは内心、心配に思ったが、彼女と一緒に授業をサボるのも悪くないな、とも思っていたので敢えて口には出さなかった。


「あの~、カイチョ~さん?」

意を決したようにケイは、媚びるような口調で彼女に話しかけた。実際にケイの両手の手のひらは、ハンバーガのパンズのように重なり、いわゆる『胡麻擂り』のジェスチャになっていた。


ここは下手に出て引き取らせるつもりなのだろう、シュウジは思わず苦笑する。その作戦は彼女に対しては逆効果だろうと思ったからだ。


「何?」彼女はツンと顎を上げてケイを見下ろすように毅然とした態度で聞き返した。

シュウジは(端から見れば鬼嫁と尻に敷かれた旦那だな)と、口には出さず思った。その姿は微笑ましくもある。悔しいが二人は結構お似合いだと思う。そう、“悔しいが”だ。


 二人を観察するのを一時中断してシアンの方を見ると、彼は、彼には少し大きすぎるケイの学蘭の余った袖を気にしていた。


「お。シアン。似合うじゃないか」

シアンのパジャマは黒っぽい厚手のものだったので上に学蘭を着てもあまり違和感もなく、前のボタンを留めてしまえば『まだ幼さの残る高校一年生』に見えなくもなかった。


「ほんとだ。でもシアン君にはちょっと大きい過ぎるわね。バカほどよく育つって言葉あったかしら」ケイを横目で見ながらマコトは言った。フンと鼻息を荒くしたケイは、マコトの嫌味に対してあからさまに機嫌を損ねた様子で「寝る子は育つんだよ」と反論した。


「あ、そう。でもシアン君、スリッパがね」とマコトはケイをほとんど無視してシアンの足下を見ながら考え込むような仕草になる。 それに対してケイは、またムッとした顔でマコトを睨んだ。シアンは、そんな二人の様子を微笑みながら見ていたが「学蘭って着るの初めてです」と言った。


「何?お前、ブレザー派?私立のボンボン校とか?」ケイは実にあっさりと、マコトを睨むのをやめてシアンの言葉に反応した。

長所なのか短所なのか、彼はとにかく気分の切り替えが早いのだ。


「と言うより・・・」シアンは少し困った顔で「学校に行ったことがないから」と続けた。その言葉に三人は目を見開いて一瞬固まった後、シアンの冗談だと思って三人同時に

「まさかぁ」と笑い、それでもシアンが笑わないのでまた同時に「本当に?」と聞いた。

「三重音」とシアンは微笑み、

「本当に。殆ど家から出たことがないんだ」と軽く頭を傾けてながら寂しそうに言った。

「病気だから?」と、シュウジが聞くと

「それもある」とシアンは答えたが、いくら待っても続きは出てこなかった。シュウジは何を言っていいか分からず、黙る。しばらく、なんとも重々しい空気が流れた。


「うんっ!」

唐突に、ケイが大声でそう言うまで誰も声を発せずにいた。彼は何に納得をしたのか、腕を組んで仰け反るような形で大げさに何度も頷いている。


「まぁ、人それぞれ事情があるわな。言いたく無いんやったら言わんええ事もあるわ、シアン」とケイは言って、マットに座っているシアンに片手を差し出した。


 シアンはしばらく「わけが分からない」と、言う顔をしてケイの差し出された手をじっと見ていた。それを見たケイはニッと笑い「ほれ、行くぞ。まずは靴パクリに行こか」と、スリッパを顎で指した。


シュウジとマコトも唖然としてその二人の様子を見ていたが、ケイはそれに気づいて

「何、二人してアホみたいな面しとんねん。ほんまにアホになんぞ」と笑った。

それを聞いてシュウジも急に可笑しくなってきた。思わずフッと吹き出して「だとしても、お前ほどじゃないよ」と笑った。

マコトも、ケイを少し見直したように「行きましょうか」と笑って立ち上がった。


ケイの不可解な言動の意味が徐々に理解出来てきたのか、シアンも「うん」と、微笑んで彼の手を掴んだ。ケイはシアンの腕をグイッと引っ張りマットから立ち上がらせると、

「おっしゃ、いざ体育館の下駄箱や!」と、一人でバカみたいにはしゃいで言った。


 恐らく、ケイにも誰にも話したくない家庭の事情の一つや二つ有るはずなのだ。シュウジだってそうだ。でもどんな事情がお互いにあろうと、気にいった相手と“友達になる”という事においてそれらは全く関係ない。

少なくとも、ケイはそう思っているのだろう。


シュウジは、ケイのそんな所が気に入っていたし自分にはとてもマネできないと思った。ケイは確かに問題児だが、決して芯がぶれない。


その素直で屈託のない性格が多くの生徒と教師に好かれていた。ケイのひと言が、さっきまでの暗い雰囲気を一発で吹き飛ばしてしまった。彼の才能だとシュウジは思う。


そんなことを考えながらシュウジも歩きだす。ケイとシアンが先を歩き、シュウジとマコトが少し遅れる形だった。


「ふっ。銀色のサルがいるわね」とマコトはシアンの腕をブンブン振り回し歩いているケイを見ながらシュウジにそう囁いた。シュウジもそれに近い事(銀ゴリラ、と)を考えていたので「まさにね」と声を押し殺しつつマコトと顔を見合わせて笑った。


まーた、前話から少し間があいてしまい、

気がつけば8月が終わってしまいましたが。汗


今回はイカルさんの居た場所からそう遠くない、

とある高校の学生たちへと場面は立ち戻ります。


相変わらず飽きもせずワチャワチャしてます。w


割と短め、サクッと、読めてしまうかな。。と。

さてさて、ここからどうなっていくことでしょう。

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