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Discover(ディスカバー)   作者: K@YO(かぁよ)
6/11

第4話 少年たちは、出会う。

挿絵(By みてみん)


「・・・男かな?」


 地毛の黒に均等にプラチナ色のメッシュが入った、一見して銀髪の少年はくすんだ緑色の陸上用のセーフティマットから片肘を後ろ手に付く形で上半身を起こしながら不意にそう言った。つい先ほどまで、まるで涅槃のようなポーズで完全に寝転がっていたようだった。


「いや、あれは女だろう。賭けてもいい」

同じようにセーフティマットの上の少し離れた場所にいたもう一人の少年も仰向けに寝転がったまま、

頭が逆さまの状態で、遠く小道を歩いてくる一人の若者を見て言った。


「嘘つけ、お前目ぇ悪いんちゃうか?あれは男やって!」

銀髪の少年は、半分バカにしたように関西のイントネーションでそう言って笑った。


もう一方の少年はその言葉にムッとして少し長めのストレートの黒髪を軽く振りながら半回転してうつぶせになり、目が悪いのか、目を細めてもう一度ちゃんとその若者を見た。

「・・・あ。本当だ。ありゃ男だ」


 銀髪の少年の名はケイ、黒髪の少年はシュウジと言う。


彼らはS県のO市という(ケイ曰く)”田舎に毛が生えたような”中途半端にのどかで、

中途半端に栄えた、元城下街のちょうど城跡と駅の中央あたりに位置する場所に建つH商業高校の二年生だ。


商業高校と言っても二人は情報処理科と言う一学年に一クラスしかない科の生徒で、

そのクラスは三年間クラス替えがない。


中学では顔見知り程度でしかなかった二人だったが、お互い少しばかり”癖のある性格”のせいか、入学してしばらくは他校出身者が何人か話し掛けてはきたものの「こいつ付き合いづらいな・・・」と分かってくると向こうから勝手に離れて行った。

その後は他にわざわざ関わろうとしてくる者もおらず、また二人とも積極的に自分から友人をつくるようなタイプでもなかった為、なんとなく「溢れたもの同士」自然と二人で過ごす時間が増えた。


当たり前だが、特に一緒に居るような旨の約束こそ交わした覚えもなかったが、朝教室に入れば気付いたどちらともなく「おっす」と声をかけ、「おーっす」とどちらかが返事をする。


学期ごとの席替えでも、何故か席が近くになることが多かった。


シュウジは、ケイが傍でぺちゃくちゃとシュウジには全く興味がないようなアイドルの話を延々していようが、魂が抜けたようにただ黙ってぼーっと窓の外を眺めていようが、ゲラゲラ声を出しながら漫画を読んでいようが提出当日になって課題のプリントの問題を必死に解いていようが、気にならなかった。


相手に対して無関心というより”これが定位置”と、いう感じだった。


余計な気を遣わずに済むので居心地が良かった、不愉快になる要素がなかった。

だから、なんとなく一緒に居るのだろうな、とシュウジは時々そんな風に勝手に分析した。


そんな経緯でいつの間にか親友とも呼べる程の仲になっていた二人だった。否、親友と言うよりは、長年寄り添った"老夫婦"のようとも言えなくもなかった。

が、その代わりと言ってはなんだか、他のクラスに友人はあまりいない。


厳密に言えば、ムードメーカであるケイの周りにはいつも誰かしら寄ってくるので、

どちらかと言えば、一見すると優等生タイプで、物静かなのシュウジの方に友人が少ないと言える。


それでもケイは、時々は付き合い程度に他の友人の誘いに乗って何処かしら出かけて行ったが、殆どの場合はそれとなく他の誘いを断っては、(周囲曰く)『まったく異なったタイプの』シュウジと行動を共にしたがった。


周りから見れば、一種異様とも言える組み合わせなのだろう。クラスメイトや他の生徒や教師の何人かも、シュウジがケイに脅されて半ば無理やり付き合わされているのでは、と本気で思っているらしかった。

その逆のシチュエーションは一度も耳にした事が無いのだから不思議だった。


当の本人である二人にしてみれば大いに迷惑な話ではあったが、

しかし実際の所、そんな噂も二人は大して気にはしていない。


三面を住宅街に囲まれた窮屈な運動場の隅に放置(或いは常置)してある、

陸上部の高飛び用のセーフティマットは、授業をサボる時の二人の特等席だった。


先にも書いたように元々は深い緑色だっただろうものが、今は随分とくすんでいる代物だ。

厚さは四十㎝くらい、だいたい一八〇㎝×一六〇㎝の長方形をしているものが二つ重なって置いてある。

いつも少し砂っぽく、『学校臭』の一つとも言えるような独特の臭いがするが、寝心地はそこそこ良い。


「今日はポカポカ陽気やぞ。昼寝にはもってこいやと思わんか?」

と、ケイに言いくるめられてシュウジは渋々、二限の家庭の授業を抜け出してきたのだった。


珍しいことではない。

伝統を重んじ、最近の高校にしては比較的厳しい方である教師たちも、

二人には呆れて今では何も言わない。


言ったとしても「ええ加減にしとけよ」と半ば投げやりな注意で終わる。


見た目如何にも『秀才タイプ』のシュウジは、見た目その通り、中学の頃から全国模試では常にトップクラスの成績を維持している秀才だったし、ケイは地元では知らない者はいない程の名家の一人息子である。それが、二人がこの学校である程度、融通の利く立場にいられる理由の一つでもあった。


 二人が、お互いのそんな境遇を知った時、一呼吸を置いた後ほぼ同時に相手に向かって「漫画か!」と、見事なまでのユニゾン・ツッコミを決めてしまったのだった。


シュウジはその時のことを今思い出しても笑いそうになって口元が不自然に歪む。


「しかし、ありゃ~・・・」


ケイはいつの間にか完全に上半身を起こしてマットレスの上であぐらをかいていた。

太股に片肘を立て、頬杖をつきながら小声で唸った。


その少年らしき若者は、どうも一直線にこちらに近づいてくるように見えるのだ。


「変態とかじゃないだろうな?」

シュウジも起きあがり、少し身構えた。


生徒でこんな時間に運動場をウロウロしている者は(彼ら二人以外)いないはずだ。


しかし、この学校はどう言うわけか門以外からも出入りが自由に出来る(このご時世には不釣り合いな)やけにオープンな造りなのだ。住宅街に隣接しているせいもあってか、運動場脇の小道を近所の老人が犬の散歩をしていたり、近くの幼稚園の園児たちが集団で虫取りをしていたりするのだ。


校庭内には『犬の糞、禁止』の立て看板が数か所に立ててあり

「犬の糞より、まず犬の散歩を禁止すべきでは?」とそれを見た生徒はみな苦笑する。

こんな具合なので、時々”不審な人間”が入って来ないとも限らないのだ。


若者は、二人のいるマットから一メートルくらい離れたところで立ち止まり、二人の顔をゆっくり交互に見た。この距離で見てもなお、中性的である。


しかし、二人は若者が『少年』だと確信した。


「コイツ変質者ってやつか?」と、二人が二人ともそう思い身構えていると、

そんな相手の考えを見透かすように少年はくすくす笑いながら「こんにちは」と言った。


声量そのものは大きくなかったが、まだ声変わりする前のような、

アルトリコーダみたいに澄んだ、良く通る声だった。


近くで見るとその少年は二人と同じくらいかそれより歳下に見えた。十四、五くらいだろうか。

目はカラコンを入れているのか、薄らと青みを帯びて、やわらかそうな栗色の髪は太陽の光りに透けて金色っぽく光って見える。


「お前、誰や」

自分より年下と見越したのか、ケイの態度が急に大きくなった。


(相変わらず、分かりやすいなぁ)

と、シュウジは内心苦笑いしつつ、そんなケイと少年とのやり取りを見守っていた。


「シアンと申します。僕、決して怪しい者ではありませんよ。ついでに言えば、ここの生徒でもありませんが」


シアン、と名乗るその少年は自分の足元に視線を落としながら悪戯っぽく笑う。

よく見ると、足下はスリッパを履いている。

服装もよく見ると驚くべき事に、パジャマのようだった。気それに付いたケイは


「お前、それパジャマやん。しかもスリッパやし。めちゃめちゃ怪しいやんけ!」

と、何故かシアンを指を指して大笑いした。


ゲラゲラ笑うケイに指摘された側のシアンもくすくすと笑いながら、

「えぇ、パジャマです。ふふ、怪しいですよねぇ」と答えた。


シュウジは、どうやらケイが彼を気に入ったようなので身構えていた体から力を抜き、再びマットに仰向けになった。

ケイの人を見る目は確かで、今まで一度たりとも人選で間違った事がないのだ。それには、シュウジも一目をおいていた。顔の広い両親と共に、色んな人間を見てきたからかもしれない。


「ぼくも横になっていいかな?」シアンはシュウジの方を向いて首を傾げた。


シュウジは、「あぁ、かまわないよ」と言って少し横へずれた。

三人では狭いかな、と思ったがシアンは気にする様子もなくシュウジとケイの間にちょこんと座った。


更に近くで見ると、なるほど本当にパジャマだった。


「シアン、て呼ぶぞ。お前」

一通り笑いのバリエーションを披露し終えたケイがそう言って

シアンの背中をポンッ(と言うよりバシンッ)と叩いた。


「お二人の事はなんとお呼びすれば?」


「オレはシュウジだ。呼び捨てでいいよ」


「あんな、あんな!オレはぁ『ケイ』っちゅーねん。ケイや。いぇ~い」


まだテンションが高いケイは一人で自分の言った「いぇ~い」にウケているようだ。

(ったく世話のないヤツ・・・)と、シュウジはケイを無視してシアンに聞いた。


「なんでパジャマにスリッパなんだ?それ市民病院のか?」

緑色の安物そうなスリッパには、油性マジックで書かれたH市民病院の文字が見える。


「えぇ。余りにも退屈なので、抜け出してきてしまいました。しばらく歩いていたら住宅の間に小道があって、そこからこの学校が見えたので入ってきたんです。しかし、ここ。おもしろいですね」


そこで突然、ケイが二人の間に割り込んできた。

「そや!なんつっても『犬の糞、禁止』やからな!散歩禁止せえっちゅーのなっ。体育のソフトボールなんかお前、近所の子供らがあの、端っこの方で虫取りしとるからって教師がな、『子供がいるからあっちにはボール投げるなよ~』って言いよるねんぞ!」


と、一人でそれだけ一気に喋って後、またマットにひっくり返って大笑いした。


どうやらシアンが相当お気に召したようだ。

こんなに機嫌のいいケイを見られるのは親友のシュウジでもあまり無い事だった。

ケイと言う男は、見た目に似合わず意外に神経質な面があるのだ。

シュウジ以外の友人とは、仲良さそうに話していても何処か一線を引いているように見受けられたし、基本お喋りだが『本心』はなかなか話さない。


「はぁ~、とまぁ。冗談はこの辺にしてやな。シアンは市民病院に入院してたって事か。なんやお前、何処が悪いねん?」


そう言いながら、まじまじとシアンの全身をくまなく見やるケイに対し、

シアンは困ったように首を少し傾けてしばらく躊躇していたが小さな声で答えた。


「目が。色素が薄いので紫外線に弱いんです。何度か手術もしているんですよ」


シアンは、その青みがかった目の下の皮膚を捲るようにして「ね?」と指さした。

カラコンではないのか、とシュウジは思った。

「ふ~ん。そんなんでお前、こんなトコでバンバン紫外線浴びててええんか?」

と、晴天の空を見上げてケイは聞く。


確かに、今日の空は十一月のわりには日ざしも強い。


「ええ、だから・・・ほら」

シアンはパジャマの胸ポケットからごそごそと、薄青いレンズのサングラスを取り出してかけた。

片方のレンズの隅には『UV』の文字が記された小さなラベルが貼られたままだった。


パジャマにサングラス。その風貌にはシュウジも思わず笑ってしまう可笑しさがあった。


「どう見ても不審人物だ」と、三人でマットに転がり笑った。


三人の背後の校舎から、授業終了のチャイムが鳴った。

何故かH商のチャイムは『鐘』ではなく『エリーゼのために』が流れる。


学園七不思議のひとつだ。

もっとも、後の六つが何かは知らないが、とにかくそう呼ばれている。

名称なんて本当はなんでもいいのだろう。


ザワザワと各教室にいる生徒達の声が聞こえてくる。

十分間という短い休み時間をそれぞれに楽しんでいるようだ。


ふと、本校舎の向かって左手側テニスコート脇にある昇降口から

見覚えのある少女が一人歩いてくるのが見えた。


「げ、マコトちゃうか?あれ」

ケイはその少女の存在に気が付くと、いかにも嫌そうな顔をしてファイティングポーズの形で身構えた。


(いやいや、戦うのかよ)シュウジは思わず苦笑した。


少女は、その細い黒淵メガネの奥の神経質そうな切れ長の目をこちらに向けたままキビキビとした足取りで真っ直ぐとマットレスの所へ向かってくる。


昇降口からシュウジ達の所まで約五十メートルはある。

それを、彼女は表情一つ変えず、あっという間にマットレスの手前までたどり着いた。

まるでコンパスが歩いているみたいだった。


「おい。一体、ここで何をしているのかな・・・ん、君は・・・?」


低めのハスキィな声が少しセクシィだな、とシュウジは密かに思った。

彼女は腕を組み、仁王立ちしてマットレスに寝そべる三人(但し、一人は上半身を起こした状態でファイティングポーズのまま固まっている)の男の顔を(たしな)めるように順に見回した。


しかし、完全に攻めの体勢で挑んだ彼女も、見覚えのないパジャマ姿の少年が(しかもスリッパを履き、サングラスをしている)ケイたちと並んで寝転がっているのを見て、さすがに当惑しているようだ。

一見、普段と変わらない冷静なその表情にも何処か戸惑いの色が伺える。


「あ~会長さん。彼はですね~、シアンと言ってですねぇ~」

いつの間にか構えを解いたケイが、心底面倒くさそうに、両目を上に向け眉を寄せて「やれやれ」と言う顔で説明し始める。


それをくすくすと可笑しそうに笑いながら見ていたシアンは、

ケイの言葉を途中で遮るようにマットから軽やかな身のこなしで下りると、

かけていたサングラスを額に押し上げてマコトの前に片膝を折って跪いて、


「申し遅れました。僕はシアンと申します」

と、華麗な手つきでまるで映画や漫画の世界でヨーロッパの紳士がするように


マコトの左手に軽く自分の右手を添え、その甲に軽く唇を触れる仕草をした。


何度も言うが、

パジャマにスリッパ姿で、だ。


ケイもシュウジはそのあまりの展開に呆気にとられ、

一瞬遅れてから何時ぞやのように二人同時に、関西のイントネーションで、


「お前は何処の王子様や!」


と、ユニゾン・ツッコミをいれた。

デジャブだ。シュウジは口元がこみ上げる笑いで歪みそうになるのを必死に堪えた。


マコトはと言えば、当然ながら今までの人生でそんな上品な挨拶をされたことなど一度もなかったのでしばらく固まっていたが、そのうち徐々に顔を赤くして両手で頬に触れながら声にならない声で何度も「え?え?」と言ってあからさまに取り乱していた。気付けば耳まで真っ赤になっている。


そんなマコトの様子を見ながら、


「そうしているとちゃんと可愛いのにな」


と、シュウジは心から思った。

さて、一旦イカルさんのお話から離れ、

ここはとある高校の、こぢんまりとした校庭の隅っこ。

ケイとシュウジの二人は、不思議な少年と出会うのでした。


蒼い瞳に、栗色の髪。

そして、


パジャマ姿に、スリッパに、

サングラスをかけた・・・王子様?!


「シアン」と名乗る少年は一体・・・。



と、ここまで引っ張っておいて

実は次回またイカルさんの方へ

シーンは戻ったりします。(エー^^;


お楽しみいただければ幸いです。

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